仕訳とは何か
まずここでは、会計の基本『仕訳』の基礎知識について確認します。
会計をマスターするための必須知識
『仕訳』とは、事業において資産、資本、負債などの増減を明確に分け、記録する作業のことです。
仕訳の内容は、簿記のルールにしたがって『仕訳帳』へ日付順に記入していきます(利便性をよくするため、仕訳帳の代わりに振替伝票などを使用する場合もあります)。
事業を行うと外部と一定の取引が生じます。取引の内容を科目別に分類し、資産や財務の状態などを明確に示す手段のひとつが仕訳であり、会計の基本となる知識でもあります。
単式簿記と複式簿記
『単式簿記』とは、現金の出入りがあるたびに、その事項を単純に記録していく簿記の方式です。
単式簿記では仕入れや売上、経費の支出などに関する金額と目的のみを記帳します。銀行の預金通帳のような書き方と考えてよいでしょう。
『複式簿記』は取引の内容と金額に加え、その理由と結果を記録する記帳方式です。複式簿記を採用することで、事業の財務や収益の情報を全体像として記録・評価できるようになります。
どうやって仕訳するの?
それでは、実際に仕訳とはどのように行うのか見ていきましょう。
借方と貸方
複式簿記では、帳簿のページを『借方(左側)』と『貸方(右側)』の2つに分け、ひとつの取引について両欄へ、必ずつり合った金額を記入します。
それぞれの欄にどのような取引を記入するのかは、『勘定科目』という分類に当てはめて決定します。
仕訳のルールを覚えよう
複式簿記の帳簿にある『借方と貸方』は、本質的に取引の相手方から見た意味を表しています。
例として、ある事業主が銀行から100万円の融資を受けた場合、事業主の帳簿には以下のように記入されます。
日付 | 借方 | 貸方 |
5月5日 | 1,000,000円(現金) | 1,000,000円(借入金) |
取引の相手である銀行にとって100万円は貸すための出費なので、貸方に取引の理由である『借入金』を記入し、その結果として『現金』が借方へ記入されます。
商品の仕入れをした場合は、出費側が貸方に、現金の受け取り(納品)側が借方となります。
日付 | 借方 | 貸方 |
5月5日 | 10,0000円(仕入れ) | 10,0000円(現金) |
勘定科目を知ろう
ここでは、取引をどのような科目に分けて仕訳するのか説明します。
大きく分類すれば5つ
事業には多くの取引が発生しますが、仕訳のうえでは基本的に以下の5つに分類して処理します。
- 資産
- 負債
- 純資産(資本)
- 収益
- 費用
上記の5分類について、それぞれを借方・貸方へ記入するケースをまとめると、下表のようになります。
分類 | 借方へ記入する場合 | 貸方へ記入する場合 |
資産 | 増加 | 減少 |
負債 | 減少 | 増加 |
純資産(資本) | 減少 | 増加 |
収益 | 減少 | 増加 |
費用 | 増加 | 減少 |
仕訳の際には、取引の内容を上記の各科目にあてはめて記帳します。たとえば、売上があった場合には、資産(現金)の増加は借方へ、収益(売上)の発生は貸方へ書き込むことになります。
主な勘定科目
上記の5分類は、さらに詳細な勘定科目に分割されます。勘定科目の主な例としては以下があります。
資産グループの科目
- 現金
- 普通預金
- 受取手形
- 売掛金
- 商品
- 建物
負債グループの科目
- 支払手形
- 買掛金
- 借入金
- 仮受金
純資産グループの科目
- 資本金
- 資本準備金
- 利益準備金
収益グループの科目
- 売上
- 受取利息
費用グループの科目
- 仕入
- 従業員給与
- 通信費
- 水道光熱費
- 地代家賃
こんなときはどの科目を使うの?
事業を行っていくうえでは、仕入と販売など以外にも支出や購入などの取引が発生します。ここでは、具体的な例を挙げて、適用すべき勘定科目を見ていきます。
仕事用の本を買ったとき
業務上で必要な書籍などを購入した場合は、『新聞図書費』の勘定科目へ組み入れます。新聞や本、官報や統計資料、住宅地図などの購入費用が新聞図書費に分類されます。
現金で書籍を購入した場合の仕訳方法は、新聞図書費という費用が増加するので借方へ、現金という資産が減少するので貸方へ記入します。
下表は、5,000円で書籍を購入した場合の例です。
日付 | 借方 | 貸方 |
5月5日 | 5,000円(新聞図書費) | 5,000円(現金) |
登記を依頼して報酬を支払ったとき
建物などの登記手続きを委託し、その業務の報酬を支払った場合は、費用として『支払報酬』の勘定科目に組み入れます。この勘定科目には、弁護士、税理士、社会保険労務士などへの報酬も含まれます。
たとえば、登記手続きを司法書士法人へ委託し、その報酬25,000円と登記にかかる登録免許税60,000万円を合算して、現金により支払ったときの仕訳は以下となります。
日付 | 借方 | 貸方 |
5月5日 | 25,000円(支払報酬) 60,000円(租税公課) |
85,000円(現金) |
費用である支払報酬と租税公課(登録免許税の納税)が増加したので、その数字は借方に、現金の資産が減少したので貸方に記入します。
給料を支払ったとき
雇い主が従業員に給料を支払った場合は、『給料手当』あるいは『給料賃金』の勘定科目に組み入れます。
この仕訳の注意点は、源泉徴収される所得税や住民税、社会保険料などを分離して記入する必要があることです。
例として、月給25万円から所得税20,000万円、住民税7,000円、社会保険料8,000円を源泉徴収して支払うときの仕訳は以下となります。
日付 | 借方 | 貸方 |
5月5日 | 250,000円(給料手当) | 215,000円(現金) 20,000円(預り金 所得税分) 7,000円(預り金 住民税分) 8,000円(預り金 社会保険料分) |
従業員の給料手当という費用が増加したので借方へ、実際に支払った手取り給料は、現金という資産の減少なので貸方へ記入します。また、源泉徴収した各種の金額は負債の増加として、『預り金』の勘定科目で貸方へ記入します。
勘定科目を使いこなす
ここでは、勘定科目を使い正しく仕訳するために役立つ用語を、いくつか紹介します。
事業主貸と事業主借との違い
『事業主貸』と『事業主借』は、個人事業の会計処理に関係する言葉で、共に事業主勘定と呼ばれます。
事業主貸は、個人事業の資金をその事業主に移すときの勘定科目です。この勘定科目は、事業から事業主への貸付と解釈されるので、資産のグループに入ります。
事業主が5,000円の現金を事業の普通預金から引き出した場合、仕訳方法は下表のようになります。
日付 | 借方 | 貸方 |
5月5日 | 5,000円(事業主貸) | 5,000円(普通預金) |
事業主借は、個人事業主が自分の事業へ資金を入れる場合の勘定科目です。例として、事業資金の不足分10万円を、事業主が自分の預金口座などから拠出する場合の仕訳は、下表のようになります。
日付 | 借方 | 貸方 |
5月5日 | 10,000円(現金) | 10,000円(事業主借) |
事業主借は、その事業にとっての借入金という性質があるため、負債グループの勘定科目となります。
未収入金と未払金
『未収入金』は、将来受け取る予定のある収入のための勘定科目です。同じような現金債権に、事業内容から生じた『売掛金』がありますが、未収入金は主な事業内容以外からの収入を仕訳する科目です。
例として、不用となった会社の備品(5,000円分)などを売って、代金を後日受け取る場合の仕訳方法を示します。
日付 | 借方 | 貸方 |
5月5日 | 5,000円(未収入金) | 5,000円(雑収入) |
5月12日 | 5,000円(現金) | 5,000円(未収入金) |
『未払金』は、主な事業内容以外の取引に対して、後日支払う予定となっている代金などを仕訳する勘定科目です。事業内容に関係する債務の場合は、『買掛金』で仕訳します。
例として、事務所の消耗品10,000円分を購入し、その代金を後日支払う予定とした場合の仕訳を示します。
日付 | 借方 | 貸方 |
5月5日 | 10,000円(消耗品費) | 10,000円(未払金) |
5月12日 | 10,000円(未払金) | 10,000円(現金) |
仕訳後の流れ
会社(事業)が行う取引を記録した仕訳帳や振替伝票は、財務状態などを明確にするため、別の形の帳簿へ整理されます。
総勘定元帳へ転記
『総勘定元帳』は、仕訳の内容を勘定科目ごとに分離して記帳するものです。仕訳帳は取引内容を発生した順に記録しているので、その取引の結果、利益や資産の残高がどう変わったかを一目で読み取ることができません。
仕訳の内容を総勘定元帳へ転記する(書き写す)ことで、ひとつの科目がどのような金額となっているかを明確にします。
たとえば、20,000万円の現金売上があった場合の仕訳では、借方に現金を、貸方に売上の勘定を記入しますが、これを総勘定元帳へ転記すると以下のような2科目になります。
総勘定元帳 売上 | |||||
日付 | 相手勘定科目 | 摘要 | 借方 | 貸方 | 残高 |
前月からの繰越 | 50,000円 | ||||
5月5日 | 現金 | (商品名) | 20,000円 | 70,000円 |
総勘定元帳 現金 | |||||
日付 | 相手勘定科目 | 摘要 | 借方 | 貸方 | 残高 |
前月からの繰越 | 220,000円 | ||||
5月5日 | 売上 | (商品名) | 20,000円 | 240,000円 |
このように、各勘定科目の現在残高が取引ごとに推移する様子を、繰越分の金額を含めて記載するのが総勘定元帳です。
試算表の作成
総勘定元帳への転記内容が正しいかを確認するために、月末など一定期間に一度作成するものが『試算表』です。
試算表には、勘定科目ごとにその期に発生した合計額を、借方・貸方、それぞれの残高の欄へ書き込んでいきます。
試算表を簡単な例で示すと、下表のようなものになります。
借方 | 貸方 | |||
残高 | 合計 | 勘定科目 | 合計 | 残高 |
30,000円 | 30,000円 | 現金 | 20,000円 | 20,000円 |
30,000円 | 30,000円 | 売掛金 | 30,000円 | 30,000円 |
売上 | 30,000円 | 30,000円 | ||
20,000円 | 20,000円 | 仕入 | ||
以下、他の勘定科目も記入 | ||||
1,050,000円 | 750,000円 | 750,000円 | 1,050,000円 |
結果的に借方と貸方、および左右の残高の縦の合計(最下行)が同じ金額になれば、総勘定元帳への転記に誤りがないことになります。
そして決算書へ
日常的に仕訳帳などで取引を正確に記録した事業の内容は、事業年度の変わり目に『決算書』の作成に使用されます。
決算書はひとつではなく、『貸借対照表』『損益計算書』などといった財務諸表で構成されます。
貸借対照表のもとになる数字は勘定科目の資産、負債、純資産のグループに記載されているもので、損益計算書は、収益および費用の記載内容から作成します。
まとめ
法人に限らず個人事業であっても、取引を正しく仕訳することは会計処理の基本です。
事業の会計では、取引の理由と結果を借方と貸方に分けて記載する、複式簿記が使用されます。どの取引内容をどちらに記載するかは、個々にルールがあるので把握しておきましょう。