資本金と資本準備金の違い
資本金と似た概念で資本準備金があります。まず、会社法上、資本金と資本準備金がそれぞれどのように定義されているのか見ていきましょう。
資本金とは
会社法第445条第1項
株式会社の資本金の額は、設立又は株式の発行に際して株主となる者が、当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
資本金は会社設立時や株式発行時の財産の額です。あくまでもその時点の財産額であり、会社財産の現状を表すものではありません。
資本金は外部から会社を判断する際のひとつの指標であり、また会社経営に大きな影響を及ぼすことがあるので、資本金の変更には法的な手続きが必要とされます。
資本準備金とは
会社法第445条第2項
前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
会社法第445条第3項
資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。
資本準備金は出資財産のうち資本金として計上しない部分で、資本金よりも自由度の高い資金です。業績が悪化した場合は資本準備金から欠損填補をすることが可能です。
資本金は経営と信用に影響する
会社法の根拠条文をもとに資本金とは何か見てきましたが、これでは資本金の性質まで理解することはできません。以下、資本金の主な性質についてまとめていきます。
資本金は会社の体力
資本金は経営のスピードや体力に直結します。返済義務がない点で借り入れとは異なります。そのため、資本金が多いほど有利に経営を展開していくことができます。
例えば、工場の設備投資を行うとして、資本金が多ければ設備投資を行い作業効率を上げられます。しかし、資本金が少なく設備投資が行えない場合、作業効率の低下を招き企業財務を圧迫してしまいます。
安定と信用
潤沢な資本金が用意されている場合、経営の幅が広がるのみならず、「潤沢な資金を調達できる会社」として信用に値します。つまり、資本金は企業の安定と信用の指標となるのです。
2006年の会社法改正からは、資本金が1円以上で会社を設立できるようになりました。しかし資本金が少ない会社が安定して信頼できる会社だと言えるでしょうか。
資本金が少ないということは設立時の元手が少ないということです。元手が少ないとうまく経営していくことは困難です。商取引や借り入れの際に支払い能力があるか不安になると評価されることも少なくありません。
資本金増資のメリットデメリット
資本金を増資することで様々なメリットデメリットが生じます。以下メリットとデメリットそれぞれについて見ていきます。
メリット
まずは資本金増資のメリットについて解説します。
新規取引先の信頼を得られる
初めて取引をする会社の場合、その会社に支払い能力があるか、商品が納品できるか等、会社の信頼性をチェックします。その指標のひとつとして資本金は重要です。
例えば、資本金100万円の企業と3億円の取引をする場合を考えてみます。資本金が全てではありませんが、資本金の金額は信用に大きく影響します。そのため、資本金増資は信頼性を向上させることができます。
融資を受けやすい
日本金融政策公庫には様々な融資があります。その中に自己資本要件を掲げている制度もあります。例えば新創業融資という制度では自己資本要件として以下の要件を掲げています。
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方
創業時は自己資本は資本金の額となりますので、融資を受ける場合は資本金が重要な要件となります。
事業の許認可の要件をクリアできる
事業内容によっては許認可が必要です。その要件として資本金が重要な場合があります。例えば労働者派遣事業では以下要件があります。
資産(繰延資産及び営業権を除く。)の総額から負債の総額を控除した額(以下「基準資産額」という。)が、2,000万円に当該事業主が一般労働者派遣事業を行う(ことを予定する)事業所の数を乗じた額以上であること。
出典:労働者派遣事業を適正に実施するために-許可・更新等手続マニュアル-|厚生労働省
上記の「基準資産額」は「資本金」と同義ではありませんが、資本金増資により2,000万の基準をクリアすることができます。許認可のハードルがクリアできるのもひとつのメリットです。
デメリット
次に資本金増資のデメリットについてまとめてみます。
税金
消費税は、設立時資本金が1,000万円以上の場合初年度から課税されます。資本金が1,000万未満の場合最大2年間も消費税が免除されます。
法人税法には中小企業に対する税率軽減の制度があります。この制度は「資本金」が1億円以下の場合、年間800万円の所得まで軽減税率を15%としています。
No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|消費税|国税庁
会社法上の義務
会社法では大会社を以下のように定義しています。
会社法2条6項
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
- 会計監査人の設置義務(327条1項、2項)
- 監査役会設置義務(328条1項)
- 内部統制システムの決定義務(348条4項、362条5項)
- 損益計算書についての公告義務(440条1項)
- 連結計算書類作成義務(444条3項)
資本金が5億円以上だと会社法上「大会社」として定義されます。この場合、上記のような義務が生じます。
経営者の意思決定権に影響する
会社は経営者が所有するのではなく、株主が所有するものです。したがって会社の重要な意思決定では株主総会で決議を取ります。
創業時は経営者が株式の大半を所有する場合が多いので、経営者イコール株主という構図が成立します。しかし資本金増資にともない株式を発行して経営者以外の人が株式を購入する場合、その人達も株主になります。
例えば新たに大量に株式を購入した人がいれば、その株主は株主総会で大きな意思決定権を有することになります。その結果、経営者は自由な意思決定ができなくなります。
まとめ
資本金を増資する際はそのメリットとデメリットを考慮して意思決定をする必要があります。資本金を少なく設定すると、会社の安定性や信用に負の影響を及ぼす場合があります。
逆に資本金を増資すると、それにともなって法律の規制や税制上の優遇を受けられなくなってしまう場合があります。そのため、会社の経営状況や将来の見通しに即して資本金の額を設定してください。