不動産経費率とは
不動産を購入したり、不動産を賃貸経営する上では、必ず経費がかかります。よく言われる不動産経費の算出法は、不動産収入の何%で計算するという方法です。
しかし、この計算方法では大いに間違っている可能性があります。そもそも、不動産の家賃収入は土地や条件によっても異なってきます。もちろん経費もその物件によって変わります。
ですので、この物件に対して、どのくらいの経費がかかるのかは1つ1つ調べる必要があります。幸い、不動産経費はだいたい調べがつくところがあり、また大きく変動することがありません。
一度調べてみるとよほどの変化がないので、不動産を経営していく上でも指針にすることができます。
入居率や家賃相場の違い
一方、経営していく上で変動してしまうのが、入居率や家賃の相場です。そこがよほど人気のある土地や場所なら良いですが、そうでない場合、季節や条件によって入居率は変わってきます。
そうなると、空室を埋めるためにも家賃の相場を下げたりするなどの入居率を上げる努力をする必要があります。しかし、入居率や家賃相場は、そういった変動があるものと分かっていると、リカバリーもしやすいのです。
逆に経費率は、予想から外れないようにするためにも、事前に調べる必要があるのです。不動産投資で思わぬ赤字を食らってしまったという方には、ここの調べが甘かったという人も少なくありません。
注意すべき勘定科目
把握すべき不動産経費は、主に11項目あります。
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- 管理費
- 租税公課
- 修繕費
- 減価償却費
- 損害保険料
- 借入金利息
- 消耗品費
- 新聞図書費
- 通信費
- 交通費
- 税理士費用
これらの不動産経費ですが、実は必要経費として税の控除の対象にできるものがあります。つまり、節税対策できるということです。
しかし勘定科目によって、経費として扱われないものや扱う上で注意するものがあります。どの勘定科目でどんな定義や注意点があるか確認することが大切です。
固定資産税
税金は必要経費にならないと思っている方も多いのですが、必要経費になる税金があります。その1つが、固定資産税です。固定資産税とは、毎年1月1日時点で不動産を保有している人が課税の対象になります。
1つ注意しなければならないのは、固定資産税の納税者は、年の途中にその不動産を売却しても、その年の分は変わりません。ですので、その年の税金分に関しては前の持ち主に支払い、清算する必要があります。
不動産売買の際に、売買当事者の合意に基づき固定資産税・都市計画税の未経過分を買主が分担する場合の当該分担金は、地方公共団体に対して納付すべき固定資産税そのものではなく、私人間で行う利益調整のための金銭の授受であり、不動産の譲渡対価の一部を構成するもの(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭)として課税の対象となります(基通10−1−6)
もし8月に購入した場合、8月〜12月までの4ヵ月分支払いとなります。その際の固定資産税の清算金は、必要経費になりませんので注意が必要です。ちなみに、その固定資産税の清算金の額については、前の持ち主に聞いてみるとすぐにわかりますので、事前に把握しておくと良いでしょう。
修繕費
不動産の修理・修繕に充てる経費を修繕費と言います。しかし、こちらも注意しなければならないのは、資本的支出と修繕費のどちらに当てはまるかということです。
資本的支出とは、現状維持のために修理したのではなく、新たに価値を見込めるものとしてつけ加えたり、資産をより長く使えるように修繕した時に、発生する経費のことです。
貸付けや事業の用に供している建物、建物附属設備、機械装置、車両運搬具、器具備品などの資産の修繕費で、通常の維持管理や修理のために支出されるものは必要経費になります。
しかし、一般に修繕費といわれるものでも資産の使用可能期間を延長させたり、資産の価額を増加させたりする部分の支出は資本的支出とされ、修繕費とは区別されます。
資本的支出とされた金額は、事業所得や不動産所得の計算上、減価償却の方法により各年分の必要経費に算入します。この両者の違いは、判断できるものと出来ないものがありますが、法律ではこのように定義されています。
全額修繕費として計上できる条件
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- 修繕費が20万円未満であること
- 修繕が3年以内の周期で行われているもの
修繕費か資本的支出か判断できない場合で、修繕費にできる条件
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- 修繕費が60万円未満の場合
- 修繕費が前年の12月31日における取得価格の10%相当以下である場合
次に掲げる支出については、その支出を修繕費として所得金額の計算を行い、確定申告すれば、その年分の必要経費に算入することができます。
(1) おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理、改良などであるとき、又は一つの修理、改良などの金額が20万円未満のとき。
(2) 一つの修理、改良などの金額のうちに資本的支出か修繕費か明らかでない金額がある場合で、その金額が60万円未満のとき又はその資産の前年末の取得価額のおおむね10%相当額以下であるとき。
資本的支出の場合は必要経費にできないので、修繕する前に確認したほうが良いかもしれません。
修繕積立金
修繕積立金は、将来建物全体での修繕が必要になった時に備えて、建物管理会社に毎月修繕費用を積み立てるお金です。この積立金は、必要経費にすることができます。積立金と言われると経費にならないイメージを持つ人が多く、確定申告の際に申告しない人がいるので注意が必要です。
原則として、実際に修繕等が行われその修繕等が完了した日の属する年分の必要経費になりますが、一定の要件を満たす場合には、支払期日の属する年分の必要経費に算入して差し支えありません。
出典:賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い|所得税目次一覧|国税庁
しかも管理会社によっては、不動産売却時に修繕積立金を返してくれるところもあり、その場合は必要経費にはなりません。なので事前に、建物管理会社への確認が必要です。
どちらの方式を採用しているのかは管理組合の規約に載っているので、管理会社に問い合わせてみてください。所得が変わる部分なので、必ず知っておきたい項目です。
事業用資産の場合の不動産経費
不動産を購入した時や相続した時など、個人の所有物にするのか登記して法人としての所有物にするのかで、節税が大きく変わります。
個人の所有物にするとその不動産収入まで所得になってしまい、所得税が大きく上がってしまいます。一方、法人にすると法人税が発生し、住民税も上乗せされます。
どちらがより節税になるかは、大家専業でされている方とサラリーマンなど他の仕事と兼業でされている方で異なってきます。また、家族の扶養控除額でも異なりますので、調べる必要があります。
登記費用
もし法人化しようと決めた場合、登記をする必要があります。登記費用は、国の法律で決まっている訳ではなく、内訳は「登録免許税+担当した司法書士や土地家屋調査士の報酬+実費」になります。
登記は、オンラインでも登録申請できますが、その事を伝えず、交通費などと称して高額の登記費用を請求する専門家も少なくありません。なので、内訳についてはきちんと確認することが大切です。
少々面倒ですが、自分でも登記を申請することもできます。登記費用は決して安くありませんので、自分で申請してみるのも良いかもしれません。
ちなみに登記費用は、必要経費になりますので法人化するタイミングがきたら、青色申告で申告するのを忘れないでください。
相続登記
両親から不動産を相続した場合、相続したことについて登録申請することを相続登記といい、その登記にかかる費用を必要経費として扱うことができます。これについては、個人の所得とする場合も事業の所得とする場合も変わりません。
例えばマンション賃貸業を営んでいた事業主が死亡して相続人が事業を引き継ぐ場合に、その賃貸マンションの相続に際して支払った登録免許税や不動産取得税等は必要経費に算入されます。
なお、これは平成17年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与により取得した資産における取扱いとなります。
出典:固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合|所得税|国税庁
ただし、事業用の不動産以外にも複数相続する場合、住居の相続、事業用の建物の相続分も併せて請求されるため、その相続登記を司法書士に依頼すると、一括請求になる場合が多いです。つまり、住居の相続、事業用の建物の相続が合わせて請求されるということです。
その場合は、事業用資産のみが必要経費の対象となります。一括で請求されたからといって全てを経費として申告すると、後々修正されてさらに納税しなければならなくなったということもあるので、不動産を相続した時には注意することが大切です。
消費税の注意点
不動産を貸して賃料をいただいた場合は、消費税が発生しますが、その賃料収入には消費税になるものとならないものがあります。
住居として貸す場合や土地を貸す場合は非課税対象ですが、店舗や事務所、駐車場として貸す場合は、課税対象です。
ちなみに、課税対象となる不動産から得た収入を課税売上と言います。その課税売上が1,000万円を超えると課税納税者になります。また、1,000万円を超えた2年後に納税の義務が発生します。
消費税では、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、納税の義務が免除されます。
この納税の義務が免除される事業者(以下「免税事業者」といいます。)となるか否かを判定する基準期間における課税売上高とは、個人事業者の場合は原則として前々年の課税売上高のことをいい、法人の場合は原則として前々事業年度の課税売上高のことをいいます。
消費税の納税額は、単純に課税売上の8.0%となるのではありません。不動産賃貸の場合の消費税の計算方式は、原則的に家賃収入にかかる税金から不動産経費にかかる消費税を引いた額です。
家賃収入と経費によって消費税の納税額が変わってくるので、計算しておくと良いでしょう。
仲介手数料は課税対象
不動産売買の際、不動産会社へ仲介手数料を支払いますが、この仲介手数料は必要経費にはなりません。固定資産を購入した時に合わせて必要だと判断される取得価額に該当します。つまり、固定資産の代金の一部になるということです。
取得費には、売った土地や建物の購入代金、建築代金、購入手数料のほか設備費や改良費なども含まれます。
なお、建物の取得費は、購入代金又は建築代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた金額となります。
※出典サイト内では、購入手数料は仲介手数料のことです。
さらに、仲介手数料は課税対象なので、不動産会社へ支払う時に消費税も支払う必要があります。そのため、この仲介手数料の計算の時に注意しなければならないことがあります。
例えば、土地と建物を一緒に購入した場合、土地は非課税なので税抜き金額ですが、建物は税込み表示されている場合があります。不動産会社によっては、建物を税込みにしたまま、仲介手数料を算出し多く見積もっている場合があるので、自分でもよく調べておく必要があります。
まとめ
不動産投資は、決して安い買い物ではありません。それなりのリスクが伴います。しかし、それで不動産購入を諦めてしまっては、せっかくの運用チャンスを逃してしまいます。
大切なのは、1つの情報で満足せず、1つ1つ調べることではないでしょうか。少なくとも、上記の注意すべき勘定科目にある11項目の金額が調べられるだけでも、不動産経営の全体像が把握できるかもしれません。
また、不動産を購入してから予想を読み誤ったことに気づいては手遅れです。それぞれの勘定科目にある注意点を踏まえて、不動産経営のリスクを減らす努力が大切ではないでしょうか。