iDeCoの基礎知識
まずは、iDeCoの基本事項を知っておきましょう。
iDeCoとは
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、公的年金とは別に任意加入する私的年金制度です。iDeCo用の金融商品を取り扱っている金融機関(運営管理機関)に専用口座を開設し、その口座に毎月掛金を拠出(きょしゅつ※)します。
そして、その掛金で金融商品を買い付けて資産運用を行い、運用益と掛金の合計額から算出した金額を、年金(老齢給付金)として受給する仕組みになっています。
なお、iDeCoに加入するには、以下の条件を満たしている必要があります。
- 20歳以上60歳未満
- 国民年金加入者
- 居住地が日本国内
- 国民年金の保険料の滞納・猶予などを受けていない
- 勤務先の年金規定で、企業型年金とiDeCoの併用が認められている
(※拠出とは、ある目的のために、それぞれが金銭などを持ち寄ることです)
イデコってなに|イデコ公式サイト|老後のためにいまできること、iDeCo|国民年金基金連合会
運営管理機関一覧|イデコ公式サイト|老後のためにいまできること、iDeCo|国民年金基金連合会
月5000円から掛金を設定
掛金は月5000円から、1000円単位で設定可能です。ただし、上限額は加入している国民年金の種別などにより異なります。(上限額の詳細は後述)
iDeCoは、一度加入すると加入資格を失った場合などを除き、原則として解約や資産の引き出しができません。よって、長期間にわたり拠出し続けていくことを考慮して、掛金額を決めましょう。
60歳以降で受給できる
iDeCoの老齢給付金は、60歳以降に受給できます。ただし、60歳から受給を開始するには、60歳の時点で『通算加入者等期間』が10年以上でなければなりません。
通算加入者等期間とは、iDeCoの加入者、または運用指図者(※)であった期間のことです。もし、60歳の時点で10年に満たない場合は、以下のように受給開始年齢が繰り下げられます。
通算加入者等期間 | 受給開始年齢(歳) |
10年以上 | 60 |
8年以上 | 61 |
6年以上 | 62 |
4年以上 | 63 |
2年以上 | 64 |
1カ月以上 | 65 |
(※運用指図者とは、掛金を拠出せずに資産運用のみ行う人のことをいいます)
給付金をお受け取りになる方 | 日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー株式会社
iDeCoの特徴
iDeCoには、節税対策ができるという特徴があります。
掛金は全額所得控除になる
iDeCoに拠出している掛金は、全額所得控除の対象になります。所得控除とは、所得額(※1)から所定の金額を差し引いて、所得税や住民税などの負担を軽くする制度のことです。
1年間で拠出した掛金合計額を、所得額から差し引けるため、課税所得額(※2)が下がり、所得税や住民税が節税できます。
(※1.所得額とは、収入額から経費(給与所得者の場合は給与所得控除額)を差し引いた金額のことです)
(※2.課税所得額とは、所得額から所得控除額を差し引いた後の、課税対象となる金額のことです)
所得控除のあらまし|国税庁
3つの節税メリット | 個人型確定拠出年金(iDeCo) | 楽天証券
運用中の利益は非課税になる
通常、資産運用によって得た利益には、20.315%の税金が課せられますが、iDeCoの金融商品を運用して得た利益は、非課税になります。
例えば、10万円の利益が出たとすると、2万315円は税金として徴収されるということです。さらに、資産運用にかかる手数料なども差し引くと、利益が目減りしてしまいます。
しかし、iDeCoの場合は、税金分も資産として残せるため、効率のよい資産形成が可能です。
受給の際も税金の優遇が受けられる
iDeCoでは、給付金を受給するときにも税金の優遇が受けられます。
給付金の種類 | 受取方法 | 税制優遇措置 |
老齢給付金 | 年金 | 公的年金等控除(※1) |
一時金 | 退職所得控除(※2) | |
障害給付金 | 年金 | 非課税 |
一時金 | ||
死亡一時金 | 一時金 | 法定相続人1人あたり500万円まで非課税 |
老齢給付金の受給方法には、年金として分割、もしくは一時金として一括で受け取る方法の2種類があります。
どちらの方法で受給しても税金の優遇は受けられるので、都合のよい方を選択するとよいでしょう。
また、iDeCoでは、障害給付金や死亡一時金などの給付金も受給可能で、この場合も税金の優遇が受けられます。
(※1.公的年金等控除とは、年金受給時に年齢と年金額に応じて、所定の金額を差し引き、税金の負担を軽減する制度のことです)
(※2.退職所得控除とは、退職金などの退職所得から勤続年数に応じて、所定の金額が控除される制度のことです)
iDeCo掛金の上限から計算できる?節税効果のシミュレーション
上限額や控除額の計算
ここでは、掛金の上限額や、節税額の計算方法を解説します。まずは、節税額の計算方法を見ていきましょう。
最初に所得額を計算します。
- 所得額=収入額−経費(給与所得者の場合は給与所得控除額※)
次に課税所得額を算出します。
- 課税所得額=所得額−1年間の掛金額−適用となる各種所得控除額
そして、課税所得額に応じた所得税率を掛けて控除額を差し引き、所得税額+復興所得税額と、住民税額を算出しましょう。
- 所得税額=課税所得額×課税所得額に応じた所得税率−控除額
- 復興所得税額=所得税額×2.1%
- 住民税額=所得割額+均等割額
住民税の所得割額は『前年の課税所得額×10%−調整控除額』、均等割額は、標準税率が市町村民税3500円・都道府県民税1500円です。
このとき、掛金額を控除した場合と控除しなかった場合の2パターンで税額を計算すると、具体的な節税額が分かります。
(※給与所得控除とは、給与所得者に適用され、収入額に応じて控除額は異なります)
所得税のしくみ|国税庁
市県民税(個人住民税)について/小松市
かんたん税制優遇シミュレーション|イデコ公式サイト|iDeCo|国民年金基金連合会
自営業の場合
ここからは、掛金の上限額を見ていきましょう。自営業者は、国民年金第1号被保険者に該当します。国民年金第1号被保険者の掛金上限額は、『月額6万8000円』です。
確定拠出年金の対象者・拠出限度額と他の年金制度への加入の関係
会社員や公務員の場合
会社員や公務員は、国民年金第2号被保険者に該当します。国民年金第2号被保険者は、企業年金の加入の有無などによって、掛金上限額が異なるため注意が必要です。
- 企業型年金未加入の場合:月額2万3000円
- 企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している場合:月額2万円
- 確定給付型企業年金に加入している場合:月額1万2000円
主婦の場合
国民年金第2号被保険者に扶養されている主婦は、国民年金第3号被保険者に該当します。国民年金第3号被保険者の掛金上限額は、『月額2万3000円』です。
iDeCoの掛金上限は会社員だといくら?掛金の平均と金額の決め方
iDeCoの上限額について役員の場合。役員が始めるメリットは?
掛金の変更はできる?
毎月拠出する掛金の金額は、変更できるのでしょうか。
引き上げや引き下げは可能
掛金額は、下限額5000円~上限額の範囲内で、1000円単位で引き上げ・引き下げが可能です。
加入者の方へ|イデコ公式サイト|老後のためにいまできること、iDeCo|国民年金基金連合会
変更のタイミング
掛金額は、加入中のどのタイミングでも変更できます。ただし、変更は年1回のみに制限されているので注意が必要です。また、退職や転職によって国民年金の種別が変わると、掛金の上限額も変わります。
例えば、毎月6万8000円拠出していた自営業者が、会社員になった場合、会社員の上限額まで掛金額を引き下げなければなりません。
このような、国民年金の種別が変わったことによる掛金額の変更は、年1回の回数制限の対象外となっています。
停止や再開も可能
掛金の拠出停止や再開も、どのタイミングでも可能です。ただし、原則として60歳まで解約はできないため、拠出停止後も運用指図者として資産運用を継続することになります。
なお、運用指図者の期間中も手数料が発生するので注意が必要です。
経営者や会社役員でも加入できる?
経営者や会社役員であっても、iDeCoに加入できるのでしょうか。
加入の条件
経営者や会社役員であってもでも、前述した加入条件を満たしていれば、iDeCoに加入できます。
ただし、勤務先に企業型年金制度がある場合は、原則としてiDeCoと企業型年金制度のどちらか一方にしか加入できません。
勤務先の年金規定で、経営者や役員におけるiDeCoと企業型年金制度の同時加入が認められていれば、両方加入することも可能です。
個人型と企業型の違い
iDeCoと企業型DCには、以下のような違いがあります。
種類 | 詳細 |
iDeCo | ・加入は任意 ・自分で掛金を拠出する ・自分で運営管理機関を選ぶ ・金融商品は、口座を開設した運営管理機関の取扱商品から選択する |
企業型DC | ・企業によって任意加入と自動加入に分かれる ・会社が掛金を拠出する ・会社が運営管理機関を選ぶ ・会社が用意した金融商品から選択する |
また、掛金の上限額もiDeCoとは異なります。
- 企業型DC以外の企業型年金がある場合:月額2万7500円
- 企業型DCのみの場合:月額5万5000円
両者の負担軽減例
経営者や役員がiDeCoに加入した場合も、前述の通り1年間で拠出した掛金全額を所得額から控除できるため、税金の負担を軽減できます。
また、iDeCoは小規模企業共済(※1)との併用が認められています。小規模企業共済の掛金は月額1000~7万円で、この範囲内で500円単位で設定することが可能です。
なお、拠出した掛金は、iDeCoと同様に全額所得控除の対象になっています。そのため、iDeCoと小規模企業共済を併用すれば、かなりの節税効果が期待できます。
また、企業型DCの掛金は所得控除の対象外ですが、マッチング拠出(※2)した掛金については、全額所得控除の対象です。
企業がマッチング拠出制度を導入していないと利用できませんが、もし導入されている場合は、掛金額を控除することで税金の負担を軽減できます。
(※1.小規模企業共済とは、小規模企業の経営者や役員の退職金を確保するための制度のことです)
(※2.マッチング拠出とは、企業が拠出している掛金に、企業の拠出金額、かつ企業型DCの掛金上限金額を超えない範囲で個人で掛金を上乗せできる制度のことです)
データでみるiDeCo
iDeCoの加入率や金融商品の内訳などのデータを見てみましょう。
どのくらいの人が加入している?
運営管理機関連絡協議会が作成した『確定拠出年金統計資料』によると、国民年金の種別ごとのiDeCo加入者数は、以下のように推移しています。
国民年金の種別 | 2016年12月時点 | 17年12月時点 | 18年7月時点 |
第1号被保険者(人) | 7万7249 | 11万1327 | 13万1258 |
第2号被保険者(人) | 22万9065 | 61万4877 | 81万7178 |
第3号被保険者(人) | - | 1万8486 | 2万8516 |
どの種別でも年々加入者は増加しており、特に第2号被保険者の加入者数は大幅に増えています。
業務状況|ライブラリ|イデコ公式サイト|老後のためにいまできること、iDeCo|国民年金基金連合会
金融商品の内訳は?
17年3月時点での金融商品の内訳は、以下の通りです。
金融商品 | 割合(%) | |
預貯金 | 38.6 | |
保険 | 26 | |
投資信託 | 国内株式型 | 10.9 |
国内債券型 | 3.3 | |
外国株式型 | 6.8 | |
外国債券型 | 3 | |
バランス型 | 9.4 | |
MMF(エムエムエフ※) | 0.2 |
半数以上の人が、元本割れのリスクが少ない預貯金や保険を選んでいることが分かります。
(※MMFとは、マネー・マネージメント・ファンドの略称で、主に国債や公社債の短期金融資産を投資対象とする投資信託のことです)
業務状況|ライブラリ|イデコ公式サイト|老後のためにいまできること、iDeCo|国民年金基金連合会
控除を受けるには
iDeCoの掛金を控除するには、年末調整や確定申告の際に、1年間で拠出した金額を申告する必要があります。
なお、申告時には、『小規模企業共済等掛金払込証明書』を添付しなければなりません。小規模企業共済等掛金払込証明書は、1年間でいくらiDeCoに拠出したのかを証明するための書類のことです
毎年10~11月ごろに送られてくるので、失くさないように保管しておきましょう。
年末調整の場合
給与所得者は、年末調整時に掛金額を申告します。まず、勤務先で給与所得者の『保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書』をもらいましょう。
出典:税理士がやさしく解説 平成29年分保険料控除申告書の書き方
そして、右下にある『小規模企業共済等掛金控除』という項目の、『個人型及び企業型年金加入者掛金』の欄に、1年間で拠出した掛金額を記入します。
出典:年末調整のときに渡される保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書の書き方講座(平成29年版) – やまばた税理士事務所
小規模企業共済等掛金払込証明書を添付して勤務先に提出すれば、手続きは完了です。
確定申告の場合
自営業者などの場合は、確定申告をして掛金額の控除を受けます。確定申告書にはAとBがありますが、自営業者はBを使用しましょう。
まず、確定申告書第一表の『小規模企業共済等掛金控除』に、1年間で拠出した掛金額を記入します。
出典:所得税及び復興特別所得税の申告に使用する申告書第一表様式の解説 平成29年分 松本寿一税理士事務所
次に、確定申告書第二表の『小規模企業共済等掛金控除』の項目に、以下の内容を記入します。
- 『掛金の種類』の欄に『個人型確定拠出年金』と記入する
- 『支払掛金』の欄に、1年間で拠出した掛金額を記入する
出典:所得税及び復興特別所得税の申告に使用する申告書第二表様式の解説 平成29年分 松本寿一税理士事務所
そして、『小規模企業共済等掛金払込証明書』を添付して、税務署に提出しましょう。
年末調整漏れも確定申告で可能
給与所得者で年末調整時に掛金額を申告し忘れた場合は、確定申告をすれば控除が受けられます。給与所得者の場合は、確定申告書Aを使用しましょう。
まず、確定申告書A第一表の『所得から差し引かれる金額』の項目の、『小規模企業共済等掛金控除』の欄に、1年間で拠出した掛金額を記入します。
出典:申告書の記載例(1)(収入が公的年金のみの場合)|国税庁
次に、確定申告書A第二表の『小規模企業共済等掛金控除』の項目に、以下の内容を記入します。
- 『掛金の種類』の欄に『個人型確定拠出年金』と記入する
- 『支払掛金』の欄に、1年間で拠出した掛金額を記入する
出典:申告書の記載例(1)(収入が公的年金のみの場合)|国税庁
そして、『小規模企業共済等掛金払込証明書』を添付して税務署に提出すれば、掛金の控除が受けられます。
まとめ
iDeCoの掛金上限額は、人によって異なるため、自分はいくらまで拠出できるのか加入前に調べておきましょう。
また、掛金額の変更は、どのタイミングでも可能です。ただし、変更は年1回までなので注意しましょう。