税金がお得になる点がiDeCoの魅力
『iDeCo』とは、年金の受給額を増やすために、任意加入する個人年金制度のことです。
金融機関に開設したiDeCo用の口座に毎月掛金を拠出(きょしゅつ※)して、その掛金で投資商品を購入・運用し、積み立てた掛金と運用益から算出した金額を年金として受給します。
また、iDeCoにはさまざまな税制優遇措置が設けられているため、iDeCoに加入すると節税に役立ちます。
(※拠出とは、相互扶助を目的として、互いに金銭を出し合うことをいいます)
イデコってなに|イデコ公式サイト|老後のためにいまできること、iDeCo|国民年金基金連合会
積み立てた全額が所得控除の対象
iDeCoに積み立てた掛金は、全額所得控除の対象です。そのため、『所得税』や『住民税』の納税額を抑えられます。
個人年金保険は控除額に上限がある
年金受給額の増額を目的とした制度には、iDeCoのほかに『個人年金保険』があります。
個人年金保険とは、契約時に設定した年齢から、年金という形で保険金が受け取れる貯蓄型の保険のことです。
個人年金保険に積み立てた保険料も、一定の条件を満たせば所得から控除できますが、控除額には上限があります。以下は、2012年1月1日以後に契約を結んだ保険の控除額です。
年間支払い保険料 | 控除額 |
2万円以下 | 支払い保険料の全額 |
2万円超 4万円以下 | 支払い保険料×1/2+1万円 |
4万円超 8万円以下 | 支払い保険料×1/4+2万円 |
8万円超 | 一律4万円 |
無条件で掛金全額を所得から控除できるiDeCoは、控除額に上限がある個人年金保険と比べて節税効果が高いといえます。
個人年金保険ってどんな保険? | 福岡銀行
生命保険料控除の対象となる保険契約等|国税庁
生命保険料控除|国税庁
運用益や年金受給時の税金も優遇される
iDeCoでは、運用によって得た利益(運用益)や年金受給時の税金も優遇されます。例えば、通常の投資の運用益には税金が課されますが、iDeCoの運用益は非課税です。
また、iDeCoには『老齢給付金(年金)』『障害給付金』『死亡一時金』の3種類の給付金がありますが、全ての給付金に何らかの税制優遇措置が設けられています。
給付金の種類 | 受取方法 | 税制優遇措置 |
老齢給付金 | 年金 | 公的年金等控除(※1) |
一時金 | 退職所得控除(※2) | |
障害給付金 | 年金 | 非課税 |
一時金 | ||
死亡一時金 | 一時金 | 法定相続人1人あたり500万円まで非課税 |
iDeCoの死亡一時金は、みなし相続財産(※3)として扱われるため、法定相続人1人あたり500万円までは非課税です。
ただし、死亡退職金などの、みなし相続財産に含まれるものを全て合算した上で、500万円までが非課税となっているので注意しましょう。
(※1.公的年金等控除とは、公的年金受給時に年齢と年金額に応じた金額が控除され、税負担の軽減を目的とした制度のことです)
(※2.退職所得控除とは、退職金などの退職所得から勤続年数に応じた金額が控除される制度のことです)
(※3.みなし相続財産とは、死亡者の固有財産とはいえないものの、相続人の財産になった財産のことを指します)
iDeCoの節税メリット | MYDCでiDeCoをカンタンに
自分で納付の場合は年末調整で申告を
iDeCoの掛金の払込方法には、『事業主払込』と『個人払込』があります。
- 事業主払込:事業主が従業員の給与から掛金を天引きし、従業員の代わりに払い込む方法
- 個人払込:個人の銀行口座から、自分で掛金を払い込む方法
事業主払込の場合は、給与支払い時に給与額からiDeCoの掛金額を控除して、所得税が計算されています。そのため、年末調整で掛金額を申告する必要はありません。
個人払込の場合は、給与から掛金額が控除されないので、年末調整の際に自分で掛金額を申告する必要があります。
イデコライブラリ|イデコ公式サイト|老後のためにいまできること、iDeCo|国民年金基金連合会
一体いくら戻るの?基本的な計算方法を知ろう
掛金額を控除することでいくら還付されるのか、基本的な計算方法を知っておきましょう。まずは、通常の所得税額の計算方法を解説します。
1.年間所得から各所得控除の額を引く
まず、給与収入額から給与所得控除を差し引き、所得額を算出します。
- 所得額=収入額−給与所得控除
次に、所得額から各所得控除を差し引いて、課税所得額を算出しましょう。
- 課税所得額=所得額−各所得控除
給与所得控除と所得控除の違い
給与所得控除とは、給与収入を得ている人が受けられる控除です。控除額は収入額によって異なります。以下は17年分の給与所得控除額です。
給与収入額 | 給与所得控除額 |
180万円以下 | 収入額×40% ※65万円に満たない場合は65万円 |
180万円超 360万円以下 | 収入額×30%+18万円 |
360万円超 660万円以下 | 収入額×20%+54万円 |
660万円超 1000万円以下 | 収入額×10%+120万円 |
1000万円超 | 220万円(上限) |
そして、所得控除とは、所定の金額を所得額から差し引くことのできる制度です。基礎控除や配偶者控除をはじめ、全14種類の所得控除があります。
2.課税所得に所得税率を掛け控除額を差し引く
課税所得額を算出したら、課税所得額に応じた所得税率を掛け、控除額を差し引き、所得税額を計算します。
- 所得税額=課税所得額×課税所得額に応じた所得税率−控除額
課税所得額 | 所得税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 9万7500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 42万7500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% | 63万6000円 |
900万円超 1800万円以下 | 33% | 153万6000円 |
1800万円超 4000万円以下 | 40% | 279万6000円 |
4000万円超 | 45% | 479万6000円 |
なお、37年までは『復興特別所得税』も上乗せして納める必要があります。復興特別所得税額は、所得税額に2.1%をかけた金額です。
- 復興特別所得税額=所得税額×2.1%
iDeCo加入済の場合はここが違う
iDeCoに加入している場合の所得税の計算方法は、何が違うのでしょうか。
1の段階でiDeCoの年間掛金額も引く
iDeCoに加入している場合は、上記で解説した所得税の計算方法の1の段階で、1年間の掛金額も差し引きます。
まずは、給与収入額から給与所得控除額を差し引き、所得額を算出しましょう。
- 所得額=収入額−給与所得控除額
次に、所得額から自分が該当する各所得控除と『1年間の掛金額』を差し引いて、課税所得額を算出します。
- 課税所得額=所得額−各所得控除−1年間の掛金額
課税所得額の違いが確認できる
掛金額を差し引く前と後の2通りで計算してみると、課税所得額の違いが確認できます。
例えば、収入額が530万円、所得控除は基礎控除(※)のみの人がいるとします。(収入額が530万円の場合、給与所得控除額は530万円×20%+54万円=160万円)
- 所得額:530万円−160万円=370万円
- 課税所得額:370万円−38万円=332万円
課税所得額が332万円なので、所得税率20%・控除額42万7500円となります。しかし、iDeCoに毎月1万円拠出していたとすると、以下のように変わります。
- 課税所得額:370万円−38万円−12万円=320万円
課税所得額が320万円になったので、所得税率10% ・控除額9万7500円になります。
iDeCoに加入し邸内場合の所得税額は『24万1460円』ですが、iDeCoに加入しており、掛金額を控除した場合の所得税額は『22万7170円』です。よって、『1万4290円』の節税になります。
(※基礎控除とは、無条件で誰にでも適用される所得控除で、控除額は一律38万円と定められています)
上記2と同じように計算する
所得額から所得控除と1年間の掛金額を差し引いて課税所得額を算出したら、あとは上記の2と同じ流れで計算し、所得税額と復興特別所得税額を計算しましょう。
月々の掛金はいくらにすればお得なの?
毎月の掛金は、いくらに設定すればお得なのでしょうか。
掛金には上限がある
iDeCoの掛金には上限額が決まっており、国民年金の種別により異なります。なお、下限額は一律5000円です。
国民年金の種別 | 対象者 | 掛金上限額(月額) |
第1号被保険者 | ・自営業者 ・農業従事者 ・フリーター ・無職 ・学生 |
6万8000円 |
第2号被保険者 | ・会社員 ・公務員 |
・企業型年金未加入者:2万3000円 ・企業型確定拠出年金加入者: 2万円 ・確定給付型企業年金加入者: 1万2000円 |
第3号被保険者 | 第2号被保険者に扶養されている配偶者 | 2万3000円 |
確定拠出年金の対象者・拠出限度額と他の年金制度への加入の関係
松井証券のシミュレーターが分かりやすい
iDeCoに加入することでどれぐらい節税できるかは、収入額や掛金額によって異なります。
しかし、掛金額を変えて何度も計算するのは大変なので、節税額シミュレーターを利用して節税額を計算してみましょう。
多くの金融機関が節税額シミュレーターを公開していますが、松井証券のシミュレーターは所得税や住民税だけでなく、給付金受給時の節税額なども表示されるのでおすすめです。
iDeCoシミュレーター | iDeCo(イデコ) | 松井証券
年末調整するときの必要書類
年末調整で掛金額を申告する際には、『小規模企業共済等掛金払込証明書』という書類が必要になります。
小規模企業共済等掛金払込証明書
出典:平成29年「小規模企業共済掛金払込証明書」のご案内|小規模企業共済(中小機構)
小規模企業共済等掛金払込証明書とは、1年間でいくら掛金を拠出したのかを証明する書類です。
年末調整で掛金額を申告する際には、この書類を年末調整の書類に添付しなければならないので、失くさないようにしましょう。
いつ届くの?SBI証券の例
- 1~9月にその年の初回の掛金が引き落とされた場合:11月初旬ごろ
- 10~12月にその年の初回の掛金が引き落とされた場合:翌年の1月中旬以降
SBI証券以外の金融機関でも、小規模企業共済等掛金払込証明書が届くのは、上記と同じぐらいの時期になるのが一般的です。
小規模企業共済等掛金払込証明書の到着が、翌年の1月中旬以降になった場合は、年末調整に間に合わないため、確定申告が必要になります。
年末調整の書類のどこに書けばよいの?
年末調整で掛金額を申告する際には、『給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書』という書類が必要です。
年末調整の際に勤務先から受け取り、1年間の掛金額を記入しましょう。
右下の年金加入者の部分に掛金額を記入
掛金額は、給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書の右下にある、『個人型及び企業型年金加入者掛金』の欄に記入します。
出典:年末調整のときに渡される保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書の書き方講座(平成29年版) - やまばた税理士事務所
年末調整を忘れた場合は確定申告を
年末調整で掛金額を申告し忘れた場合や、小規模企業共済等掛金払込証明書の到着が間に合わなかった場合は、確定申告で掛金額を申告しましょう。
確定申告書Aを使用する
確定申告書にはAとBがありますが、会社員や公務員などの場合は、『確定申告書A』を使用します。
確定申告書Aとは、所得が『給与所得』『一時所得』『雑所得』『配当所得』『公的年金』によるもののみで、予定納税(※)がない人が使用する申告書です。
(※予定納税とは、前年の所得税が15万円以上だった場合に、その年に納める所得税の一部を前納する制度のことです)
第1表と第2表の書き方
確定申告書には、第1表と第2表があります。
出典:申告書の記載例(1)(収入が公的年金のみの場合)|国税庁
第1表では『所得から差し引かれる金額』という項目の、『小規模企業共済等掛金控除』の欄に1年間の掛金額を記入します。
第2表では、『小規模企業共済等掛金控除』という項目の、『掛金の種類』の欄に『個人型確定拠出年金』と記入し、『支払掛金』に1年間の掛金額を記入しましょう。
払込証明書に加え源泉徴収票を添付する
給与所得者が確定申告で掛金額を申告する際には、小規模企業共済等掛金払込証明書に加えて、源泉徴収票も添付する必要があります。
iDeCoの年末調整の還付金額計算方法。節税効果はどれくらい?
iDeCoは年末調整の手続きが重要?公務員は忘れずに確認しよう
まとめ
給与所得者がiDeCoの節税効果を得るには、年末調整で1年間の掛金額を申告しなければなりません。
給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書に、掛金額を記入して勤務先に提出します。
その際、小規模企業共済等掛金払込証明書と源泉徴収票を添付しなければならないので、失くさないように保管しておきましょう。
もし、年末調整で掛金額を申告できなかった場合は、確定申告が必要です。確定申告書の作成は手間がかかるので、できるだけ年末調整で掛金額を申告するようにしましょう。