課税される遺産総額について
相続税を求める際に、まず最初に求めるのが課税される遺産総額です。ここでは、その際に遺産額から引かれる金額を中心に解説します。
死亡保険金に課税される場合
死亡保険金に相続税が課税されるのは、以下のような契約形態のときです。
- 契約者(保険料を払っている人)が被相続人(遺産を残してなくなった人)
- 被保険者(保障の対象になる人)が被相続人
- 死亡保険金受取人が相続人
また、このときの死亡保険金には非課税額が設けられています。その計算式は以下のようになっています。
500万円×法定相続人の数=非課税限度額
この金額を超えた分の死亡保険金のみに相続税が課せられることになります。また、この法定相続人の数には、相続を放棄した人も含めて数えます。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住していた土地や、事業を行っていた土地に関する評価額を、減額する制度です。また、この特例を受けるためには様々な条件があります。
まず減額の基本的な考え方は、人に貸し付けるような事業用の宅地なら50%、その他の事業用、もしくは居住地として使われていたのなら80%の減額になります。
さらに、適用される土地面積の上限があります。人に貸し付けるような事業の宅地なら200m²まで、その他の事業用なら400m²まで、居住地として使われていたら330m²までになります。
相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
遺産総額の対象に含まれないもの
課税される遺産総額からは、以下の2つを引きます。
- 債務
- 葬式費用
これらを合わせて、債務控除と言います。
ただし、被相続人の責任で発生した延滞税や加算税や、生前に購入したお墓の未払金などは、遺産総額から差し引くことはできません。
相続税の債務控除となる住宅ローンとは。残債が消えないときに適用
基礎控除について
基礎控除とは、その額までの遺産は非課税にするという枠になります。この額は以下の計算式によって求められます。
3,000万円+600万円×法定相続人の数=基礎控除額
この法定相続人には、相続を放棄した人も数えますので注意しましょう。
例えば、法定相続人が妻と子供2人の場合、基礎控除は以下の通りです。
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
(※法定相続人とは、民法の規定によって相続人になれる人のことで、配偶者、子供、兄弟姉妹、直系尊属が該当します。)
7つの税額控除について
ここで紹介する控除は全て税額控除になります。つまり、相続税の計算において、相続税の課税額を求めてから差し引かれます。
配偶者控除
被相続人の配偶者は、相続した遺産が次の2つの内で、多い金額までは課税されません。
(1) 1億6千万円
(2) 配偶者の法定相続分相当額
つまり、最低でも1億6,000万円までの遺産額には、税金がかかりません。
この控除には、夫婦で築き上げた財産は2人の共有財産なので、それを相続するのに多額の税金がかかるのはおかしいという考え方が基礎となっています。
また、残された人がその後の生活に困らないようにする意味もあります。
未成年者控除と障害者控除
未成年控除は、相続人が未成年者のときに受けられます。また、以下のような計算になります。
満20歳になるまでの年数×10万円=未成年控除額
障害者控除は、一般障害者と特別障害者で2つの計算に分けられます。
- 一般障害者:満85歳になるまでの年数×10万円
- 特別障害者:満85歳になるまでの年数×20万円
どちらも1年未満の期間は切り上げて1年として計算します。また、未成年者の相続税額から引ききれない時は、扶養義務者の相続税額から引かれます。
ただし、以前にも控除を受けていた場合は、どちらの控除も制限されることがあります。
その他の控除
残る4つの控除と、それらの対象となる方は以下のようになります。
- 贈与税額控除:相続する前の3年以内に、贈与財産を受け取った方
- 相次相続控除:10年以内に2回以上の相続があった方
- 外国税額控除:海外に相続財産があって、その国で課税された方
- 相続時精算課税を選択したときの贈与税額控除:この制度を選択した方
国税庁の参考リンクをこちらにまとめました
相続税対策にも。ローン控除や非課税制度を活用してお得に住宅購入
相続税の計算
相続税の計算をするには、先に紹介した課税される遺産総額と、受けられる税額控除をそれぞれを把握しておく必要があります。
ここではそれを使って相続税の計算をしていきます。
課税される遺産総額の計算の仕方
(1) 相続や遺贈によって取得した財産(遺産総額)の価額と、相続時精算課税の適用を受ける財産の価額を合計します。
(2) (1)から債務、葬式費用、非課税財産を差し引いて、遺産額を算出します。
(3) 遺産額に相続開始前3年以内の暦年課税に係る贈与財産の価額を加算して、正味の遺産額を算出します。
(4) (3)から基礎控除額を差し引いて、課税遺産総額を算出します。
非課税財産は、生命保険の死亡保険金非課税枠や国や公共団体、特定の公益法人に寄付した額などが含まれます。
法定相続分で按分する
課税される遺産総額が求められたら、次に以下の計算をしていきます。
『課税される遺産総額×法定相続分=各相続人の仮の相続額』
課税される遺産総額を、法定相続分に従って相続したとして、それぞれの仮の相続額を求めましょう。この金額ごとに相続税を課税していきます。
法定相続分は以下のようになっています。
- イ 配偶者と子供が相続人である場合
配偶者1/2 子供(2人以上のときは全員で)1/2- ロ 配偶者と直系尊属が相続人である場合
配偶者2/3 直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3- ハ 配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合
配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4- なお、子供、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分けます。
また、民法に定める法定相続分は、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の取り分であり、必ずこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではありません。
例:法定相続人に妻と子供2人がいて、課税される遺産総額が5,000万円の場合は以下のようになります。
妻の仮の相続額:5,000万円×1/2=2,500万円
子供の仮の相続額:5,000万円×1/4=1,250万円
相続税の速算表を使う
次に、求めた仮の相続額ごとに相続税を掛けて税額を求めていきます。その際には、以下の速算表を使います。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
この計算式は以下のようになります。
『各相続人の仮の相続額×相続税率-控除額=各相続人の仮の相続税額』
例:法定相続人に妻と子供2人がいて、課税される遺産総額が5,000万円の場合
先程と同様に、妻の仮の相続額が2,500万円、子供2人の仮の相続額が1,250万円になります。
- 妻の仮の相続税額:2,500万円×15%-50万円=325万円
- 子供の仮の相続税額:1,250万円×15%-50万円=137万5,000円
各人の実際の相続税額を求める
先ほど求めたそれぞれの仮の相続税額を再び合計し、相続税額の総額とします。そこから、実際に相続した額の割合に基づき、各人の相続税額を求めます。
『各相続人の課税される実際の相続額÷課税される遺産総額=実際に相続した額の割合』
『相続税額の総額×実際に相続した額の割合=税額控除される前の各相続人の相続税額』
例:課税される遺産総額が5,000万円で、妻が4,000万円、子供2人がそれぞれ500万円相続した場合
各相続人の仮の相続額は、前述の例と同じになるので、相続税の総額は
325万円+137万5,000円×2=600万円
- 妻の実際に相続した割合:4,000万円÷5,000万円=80%
- 子供2人の実際に相続した割合:500万円÷5,000万円=10%
- 妻の税額控除される前の相続税額:600万円×80%=480万円
- 子供2人の税額控除される前の相続税額:600万円×10%=60万円
ただし、この場合の妻の相続税額は、配偶者控除により0円になります。
また、このとき被相続人の配偶者、父母、子供以外の相続人は、税額控除する前のこの相続税額に20%加算されます。
そして、それぞれの相続税額を求めたら、各人の受けられる税額控除を引いて、課税される相続税額が求められます。
相続税の申告が必要ない場合
相続税を計算していくと、最終的にその税額が0円になることがあります。しかし、だからといって申告が不要となるとは限りません。申告が不要なのは、以下の場合のときのみです。
基礎控除以下になった場合
特例や税額控除を全く使わず、基礎控除のみの適用で、課税される相続税が0円になった場合は申告が不要です。これ以外は、税務署から申告漏れとされる可能性があります。
つまり、何らかの特例や控除などの相続税に関する優遇される制度を使った場合は、申告する必要があると覚えておきましょう。
国税庁に相続税の申告が必要かどうか判定できるコーナーがあります。国税庁のトップページの右側にある『相続税の申告要否判定コーナー』から開くことが出来ます。
相続税を節税する方法
相続税には、課税されないようにする方法や、控除などを受けやすくする方法があります。ここでは、その2つの方法についてご紹介します。
孫への教育費や住宅費の生前贈与
孫への生前贈与で非課税制度が設けられているのには、以下の3つがあります。
- 住宅取得等資金の贈与を受けた場合
- 結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税
- 教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
孫に亡くなった後の遺産では、相続税に20%の加算額がついてしまいます。そのため、生前贈与の非課税枠が節税になります。
結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税は、結婚に関しては300万円までで、総額1,000万円、教育資金の一括贈与を受けた場合では、1,500万円までの非課税枠があります。
また、住宅取得等資金の贈与を受けた場合は、省エネ住宅かどうか、契約の締結日がいつかで非課税の額が違ってきます。また、毎年の贈与税における基礎控除によって、非課税枠となる110万円も同時に使えます。
ただし、これらは額が大きいのでトラブルになりやすいとされます。例えば、老後の資金は充分か、子供の兄弟姉妹に他の孫がいる場合や、他の親族との関係などに注意しましょう。
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|贈与税|国税庁
直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税|贈与税|国税庁
直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税|贈与税|国税庁
生前贈与で相続税対策。非課税枠や控除を利用して孫に資産を譲ろう
親と同居していた場合
親と同居していた場合は、小規模宅地等の特例を受けやすくなります。受けられた場合は、相続する土地の価格が80%も減額されます。
この特例は親から子へ相続する、被相続人の配偶者に相続する場合には必ず使えます。
相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
相続税の控除額は親と同居だと増える。自宅で使用している土地が対象
相続税に関する改正
平成27年から相続税にいくつかの改正が行われました。それらを3つに分類してご紹介します。
税率について
相続税の税率が以下のように変わりました。
各法定相続人の取得金額 | 改正前の税率 | 改正後の税率 |
~ 1,000万円以下 | 10% | 10% |
1,000万円超 ~ 3,000万円以下 | 15% | 15% |
3,000万円超 ~ 5,000万円以下 | 20% | 20% |
5,000万円超 ~ 1億円以下 | 30% | 30% |
1億円超 ~ 2億円以下 | 40% | 40% |
2億円超 ~ 3億円以下 | 45% | |
3億円超 ~ 6億円以下 | 50% | 50% |
6億円超 ~ | 55% |
出典:相続税及び贈与税の税制改正のあらまし(平成27年1月1日施行)|国税庁
表の通り、高額な相続額の部分が細分化され、2億円超~3億円以下と6億円超でそれぞれ相続税が5%ずつ引き上げられました。
控除額について
控除に改正があったのは以下の3つの控除です。
- 基礎控除
- 未成年者控除
- 障害者控除
基礎控除は以下のように改正され、減額となりました。
- 改正前:5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)
- 改正後:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
未成年者控除は以下のように改正され、増額となりました。
- 改正前:20歳までの1年につき6万円
- 改正後:20歳までの1年につき10万円
障害者控除も増額となりました。
- 改正前:85歳までの1年につき6万円(特別障害者は12万円)
- 改正後:85歳までの1年につき10万円(特別障害者は20万円)
小規模住宅地の特例について
この特例では2つの項目で改正がありました。
居住用宅地等の限度面積の拡大
- 改正前:限度面積240m²(減額割合80%)
- 改正後:限度面積330m²(減額割合80%)
住居用と事業用の宅地等を選択する場合の適用面積の拡大
- 改正前:特定居住地等240m²+特定事業用等宅地等400m² 合計で400m²まで
- 改正後:特定居住地等330m²+特定事業用等宅地等400m² 合計で740m²まで
いずれも適用される面積が拡大されました。
まとめ
相続税の計算において、控除などをどのように計算するかは、その控除をいつの時点で反映させるか把握しておくことが重要です。
そして所得税額の計算は、まず課税される遺産総額を求め、今回ご紹介した計算式をもとに、順を追って計算すると算出できます。
相続税にはいくつかの節税方法がありますので、相続税の改正内容にも注意しておきましょう。
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