法人税法で定められる法人にかかる税金
国内の法人には、『法人税』『法人住民税』『法人事業税』など、様々な税金が課せられます。まずは、法人にかかる税金の種類と概要を把握しておきましょう。
法人税
『法人税』は、法人が1事業年度で得た収益にかかる税金です。個人でいう所得税と同じような税金と考えるとわかりやすいでしょう。法人税は国が徴収する『国税』なので、税務署を介して国に納めます。
6 「法人税」を知ろう---もっと知りたい税のこと 平成30年6月 : 財務省
法人住民税
『法人住民税』は、地方自治体が行政サービスにかかる経費のために徴収する税金です。『都道府県民税』と『市区町村民税』で成り立っており、それぞれの税額は『法人税割』と『均等割』で決まります。
- 都道府県民税:都道府県に納める
- 市区町村民税:市区町村に納める
- 法人税割:『税額控除前の法人税額×税率』で計算する
- 均等割:法人の規模などによって税額が決まる
法人住民税額を算出するには、都道府県民税と市区町村民税それぞれの法人税割額と均等割額を計算して、合計しなくてはなりません。
法人住民税が課せられるのは、都道府県・市区町村内に事業所がある法人・収益事業を行う社団などです。事業所がなくても、寮や保養所があれば均等割のみ課税されます。
法人事業税
『法人事業税』は、道路の整備や消防、警察といった公共設備、サービスにかかる経費のために、都道府県が徴収する税金です。税額は、以下の式で算出します。
- 法人事業税額:課税標準額×法人事業税率
法人の種別や所得額などによって税率が大きく異なるため、事業所がある都道府県のサイトなどで確認しましょう。法人事業税が課せられるのは、都道府県内に事業所がある法人・収益事業を行う社団などです。
その他の法人にかかる税金
その他、法人には以下のような税金も課せられます。
- 消費税:ものやサービスの消費に対してかかる税金
- 固定資産税・償却資産税:土地や建物など、消費や流通を目的としない資産にかかる税金
- 印紙税:経済取引のために作成する領収書・契約書などにかかる税金
- 事業所税:東京23区・政令指定都市などに所在している、一定規模以上の事業所にかかる税金
法人税とは
法人税は、法人が1事業年度で得た収益にかかる税金ですが、すべての収益が対象になるわけではありません。『益金』から『損金』を引いた後の課税所得額に対して課せられます。
- 益金:法人税法上の収益
- 損金:法人税法上の経費
法人税額は、以下の式によって算出します。
- 法人税額:課税所得額×法人税率
また、どの法人でも法人税を納めなくてはならないわけではありません。どのような法人に納税義務があるのか、税率は何%なのか、法人税についてより詳しく見ていきましょう。
法人及び人格のない社団等が納税義務者
法人税の納税義務者となるのは、以下に該当する法人です。
- 普通法人:株式会社・有限会社・医療法人など
- 協同組合:農業協同組合・信用金庫など
以下に該当する法人には、原則として法人税がかかりません。
- 公益法人:社団法人・宗教法人・学校法人・社会福祉法人・財団法人など
- 公共法人:地方公共団体・金融公庫など
- 人格のない社団:PTAなど
ただし、公益法人や人格のない社団が収益事業を行って収益を得た場合は、その課税所得額に応じて法人税がかかります。
規模などによって税率は異なる
法人税率は、法人の種別や所得額によって異なります。2018年4月1日以降に開始した事業年度に対する法人税率を見てみましょう。
法人の種類 | 年間所得800万円以下 | 年間所得800万円以上 |
・中小法人 ・一般社団法人等 ・公益法人等とみなされているもの ・人格のない社団等 |
19% | 23.2% |
・中小法人以外の普通法人 | 23.2% | |
・公益法人等 | 19% | 19% |
・協同組合等 ・特定の医療法人 |
19% ※20%の場合あり |
19% ※20%の場合あり |
・協同組合等、特定の医療法人、特定の協同組合等で年間所得10億円超 | 22% |
会計上の計算と法人税法上の計算が必要
法人税の計算時には、会計上と法人税法上の計算が必要です。法人は業務上の取引すべてを帳簿に記録し、その結果を決算によって株主や従業員などに報告しなくてはなりません。これを『企業会計』といいます。
そのまま税金も申告できればよいのですが、税金の申告時には『税務会計』によって収益や経費を再計算しなくてはなりません。この再計算を『税無調整』といいます。
税収の確保と税の公平性を保つため、企業会計上は収益・経費とできるものでも税金申告時にはできないもの、反対に税金申告時のみ収益・経費にできるものがあるので、必要な作業です。
法人税率のポイント
法人税率を考えるときには、『表面税率』と『法人実効税率』について理解しておくことが重要です。
表面税率
『表面税率』とは、法人に課せられる各税金(法人税・法人住民税・法人事業税)について、単純に法律で定められた税率通りに計算したものです。計算式を見てみましょう。
- 表面税率:法人税率×(1+地方法人税率+住民税)+事業税率
表面税率は、決算申告の際に使用します。
法人実効税率
『法人実効税率』とは、事業税を損金に算入することを考慮して、税額を計算し直したものです。計算式を見てみましょう。
- 法人実効税率:(法人税率×(1+地方法人税率+住民税)+事業税率)/(1+事業税率)
法人実効税率は、実質的な税金の負担額や事業税の損金算入による節税効果を知るために使用します。
法人税法上の計算
前述の通り、法人税の計算の際には、企業会計と税務会計の2種類の計算が必要です。本来、この二つの会計の結果は一致していなくてはなりません。
結果が異なると、企業会計での利益に対して法人税額が安すぎる、または高すぎることが起こり、混乱が生じるからです。
しかし、企業会計と税務会計の収益と経費の処理方法が違うので、結果に差が出てしまうこともあるでしょう。その差を調整する方法として、『法人税等調整額』を用いた税効果会計があります。
第2回:税効果会計の意義と計算構造|税効果会計(平成27年度更新)|EY新日本有限責任監査法人
法人税等調整額とは
『法人税等調整額』とは、税効果会計で企業会計と税務会計の差を調整する際に使う勘定科目です。例えば、5億円で買った土地の価格が1億円に下がった場合、企業会計上では差額の4億円を『減損損失(※)』として計上するため利益が減ります。
しかし、税務会計上は、実際に土地を売却して損失が確定するまで差額を損金として算入できません。その結果、課税所得が上がって法人税が高くなるのです。
すると、企業会計での利益と法人税額が合わなくなるため、法人税等調整額によって法人税額を減算し、企業会計の利益と整合性が取れるようにします。
(※減損損失とは、固定資産の価額が下がり、購入額・投資額の回収の見込みが立たなくなった場合に、価額の下落について帳簿に反映させたものです)
税効果会計の対象
企業会計と税務会計の差であれば、どんなものでも税効果会計によって調整できるわけではありません。対象となるのは、将来解消する見込みがある差(一時差異)のみです。
前述の例でいえば、土地の売却で損失が確定されると企業会計と税務会計の差がなくなるので、一時差異とみなされます。その他、以下のものも一時差異として調整することが可能です。
- 繰越欠損金:赤字のときの損失を欠損金として翌年以降の損金に算入したもの
- 減価償却費:固定資産の購入価額を耐用年数で等分し、複数回に分けて費用に計上するもの
なお、一時差異とみなされない差は法人税等調整額で調整できないので、税効果会計適用後の企業会計と税務会計の結果が必ずしも一致するとは限りません。
税効果会計のメリット
税効果会計のメリットは、株主や取引先、金融機関などに、より正確な財務状況を示せることです。株主や取引先、金融機関などは、企業会計による財務諸表を目にする機会はありますが、税務申告書を目にする機会はありません。
そのため、企業会計の利益と法人税額が合わない場合、その原因がわからず混乱が生じます。しかし、税効果会計による調整が行われていれば、何が原因で企業会計の利益と法人税額が合わないのかが判断しやすくなるのです。
日本の法人税は高い?
日本の法人税率は、他の国と比較して高いのでしょうか。税負担の実情や、大企業と中小企業の税負担の差と併せて見ていきましょう。
36カ国中14位の高水準
OECD(経済協力開発機構)のデータによると、OECD加盟国の36カ国のうち、もっとも法人税率が高いのはフランスの32.02%です。
次いで、オーストラリア・ポルトガル・メキシコの30%となっており、日本はOECD加盟国中14位の『23.2%』となっています。36カ国中14位というと、比較的高水準であるといえるでしょう。
アメリカは、フランスよりも高い最高35%の法人税率でしたが、トランプ政権の政策によって日本よりも低い21%まで引き下げられています。なお、OECD加盟国中もっとも法人税率が低いのは、スイスの8.5%です。
Table II.1. Statutory corporate income tax rate
税負担の実状は?
日本の法人税率が比較的高い水準であるとはいえ、実際の税負担はそれほど大きくない(実効税負担率が低い)という法人が多数存在します。租税特別措置や外国税額控除制度といった税制優遇措置によって、税額を軽減しているためです。
- 租税特別措置:ある政策を達成するために税金を増減したり、免税したりする措置
- 外国税額控除制度:法人が海外で利益を得て、その国で税金を納めている場合に、日本国内でも税金をかけ、二重課税にならないようにする制度
大手と中小企業の差
実効税負担率は、大企業と中小企業で大きく差があります。以下は16年度の実効税負担率です。
- 資本金1億円以下の小規模企業:18.1%
- 資本金100億円超の大企業:12.4%
- 連結納税(※)法人:5.2%
資本金が少ない企業よりも大企業やグループ会社が多数ある企業が、法人税を負担する割合が少ないとの結果が出ています。これは、租税特別措置や外国税額控除制度などの優遇措置が原因です。
例えば、発展途上国に進出した企業がその国の税の軽減・免除を受けた場合、外国税額控除制度で日本国内の法人税が軽減されます。そのため、海外に手広く事業を展開できる資金力がある大企業が、中小企業よりも実効税負担率が低い事態が起こっているのです。
(※連結納税とは、一つの企業ではなく、企業が属するグループ全体に法人税が課せられる制度のことです)
大企業ほど税負担低く/安倍政権で一層 小規模企業と差/政府資料を本紙集計
法人税を納める企業は多くない?
大企業と中小企業で実効税負担率に差があると紹介しましたが、そもそも法人税を納めている法人自体が少ないという問題もあります。
法人税は黒字企業にのみかかる
法人税は、『益金-損金』で算出した課税所得額に対して課せられます。つまり、法人税が課せられるのは、黒字の法人のみなのです。
国税庁の『会社標本調査』によると、15~17年の欠損法人(赤字の法人)は全体の6割を超えています。よって、数ある法人のうち、法人税を納めているのは4割程度なのです。
また、法人事業税も課税所得額を基に税額が算出されるため、黒字の法人にしか課税されません。ただし、03年の税制改正で導入された『外形標準課税』により、資本金1億円以上の法人には赤字でも法人事業税が課せられるようになっています。
均等割は赤字企業でも支払いが必要
法人住民税も、法人税額を基に税額が決まる法人税割については、黒字の法人にしか課せられません。ただし、法人の規模などによって税額が決まる均等割は、黒字・赤字にかかわらず、どの法人にも課せられます。
給与所得控除がポイント?
法人税を納めていない法人が6割以上もあるのは、節税目的で法人化する個人事業主が多数存在するからです。
個人事業主の場合、課税所得額に対して法人税ではなく所得税がかかります。課税所得額が少ない間は法人税率よりも所得税率の方が低いため税金も安く済みますが、課税所得額が一定額を超えると法人税率のほうが低くなるのです。
さらに、法人化して利益を事業主の給与にすれば、給与所得控除(※)が受けられるので、個人事業主でいるよりも税金が安く済みます。
また、課税所得に含まれない海外の子会社からの配当金を増やすなど、様々な方法を駆使して課税所得額を減らす法人が存在することも、法人税を納める法人が少ない原因です。
(※給与所得控除とは、給与所得者が給与から給与額に応じた所定の控除額を差し引いて、税負担を軽減できる制度です)
二重控除の問題
法人化した事業主の給与所得控除は、二重控除にあたるのではないかという問題があります。法人において、事業主や役員の給与は経費として認められるからです。
給与を経費計上したうえで、さらに受け取った給与から給与所得控除を差し引けるため、税額を大きく軽減できます。
この問題の対処法として、06年に『特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入制度』が設立されましたが、10年に廃止されました。よって、現在は役員給与の経費計上と給与所得控除の二重控除の状態が、合法的な節税手段とされています。
法人税の改正とポイント
日本の法律は定期的に改正が行われており、ときには法人税法も改正されることがあります。最後に、18年の法人税法改正のポイントについて見ていきましょう。
平成30年度税制改正のポイント
18年の法人税法改正では、法人の生産性向上や投資の促進、賃上げなどによる働き方改革がポイントとなっています。主な改正内容を見てみましょう。
- 一定額以上の賃上げや設備投資を行った法人は、給与支給増加額の15%が税額控除できる
- 一定額以上の教育訓練費が増加した場合は、費用の20%が税額控除できる
- 企業内外のデータを連携・活用するために設備投資を行った場合、一定額を特別償却、または税額控除できる
- 所得が増えている大企業で、賃上げや設備投資をほとんど行っていない場合は租税特別措置が適用できなくなる
- 中小企業が一定の要件を満たす設備投資を行った場合に、固定資産税が0~1/2に軽減できる
世界的に引き下げの流れ
法人税率は、世界的に引き下げの流れになっています。以下は、OECDがデータベースに登録されている94カ国の、00年と18年の法人税率を比べた結果です。
- 18年のほうが税率が低い国:76カ国
- 税率に変更がない国:12カ国
- 18年のほうが税率が高い国:6カ国
約8割の国が、法人税率を引き下げています。
法人税は、世界的に税率が下落傾向にあるが、依然として主要な歳入源である - OECD
国際競争力との関係
法人税率が下がると、国外の企業が国内に進出し、国際競争力が高まりやすいというメリットがあります。また、法人税が安く済めば、その分資金に余裕ができて賃上げや設備投資などに回せるため、国内の経済活性化にも役立つでしょう。
しかし、法人税率が下がり法人税による税収が減ると、その分を他の税金で補う必要が出てきます。資金に余裕ができた法人が必ずしもその資金を賃上げや設備投資などに回すとも限らないため、メリットばかりとはいえません。
まとめ
日本の法人税率は、比較的高い水準にありますが、実効税負担率はそれほど高くありません。また、赤字の法人には原則として法人税が課せられないため、各法人が様々な制度や控除を利用して、赤字になるようにしています。
世界的な流れもあって、現在は法人税率の引き下げが行われていますが、法人税法は定期的に改正されるものです。今後も引き下げが続くとは限らず、制度や控除の創設・廃止が行われる可能性もあるので、定期的に調べるようにしましょう。
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