投資信託の課税タイミング
『投資信託』とは、多くの投資家から資金を集め運用会社が運用し、利益を投資家に還元する金融商品です。投資信託の運用で得られる利益には、以下の二つがあります。
- 譲渡益
- 分配金
譲渡益とは、購入時よりも値上がりした状態で投資信託を売却した際に受け取れる差益です。
分配金とは、投資信託の収益から投資家に還元するお金です。分配金の有無や金額は、ファンドごとに定められた決算により決定されます。
譲渡益や分配金で利益を得た場合は、税金を納めなければなりません。ここではまず、利益にかかる税金の基本事項を見ていきましょう。
課税のタイミングと税率
譲渡益および分配金に課せられる税金は、20.315%(※1)です。税金を納めるタイミングは、下表のとおりです。
項目 | 課税のタイミング |
譲渡益 | 譲渡益の支払い時に源泉徴収(※2)もしくは、確定申告 |
分配金 | 受取時に源泉徴収される |
譲渡益に課税されるタイミングは、取引する口座の種類によって異なります。
(※1:分配金および譲渡益にかかる税率は通常20%ですが、2037年までは復興特別所得税がかかるため、20.315%です)
(※2:源泉徴収とは、利子・配当・給与・報酬などの所得を支払う人が、支払い時に所得税額を計算し、その税金額を支払金額から差し引くことです)
計算例
譲渡益および分配金の税金の計算例を見てみましょう。10万円(手数料※1除く)で購入した投資信託を、12万円で売却したとします。
この場合、譲渡益にかかる税金は4063円(2万円×20.315%)です。よって、実際に受け取れる金額は、1万5937円(2万円-4063円)となります。
また、1万円の分配金が支払われた場合、投資家が受け取れる金額は、7969円(1万円-20.315%)となります。
なお、分配金には利益を原資とする普通分配金と、元本を原資とする特別分配金(元本払戻金)があります。税金が課せられるのは、普通分配金のみです。
支払われた分配金の種類は、販売会社(※2)が発行する分配金のお知らせで確認しましょう。
(※1:投資信託の購入時には、ファンドにより購入手数料がかかります。購入手数料の有無および金額は、販売会社の窓口およびホームページで確認可能です)
(※2:販売会社とは、投資信託の販売窓口となる金融機関です。銀行や証券会社などがあります)
口座の種類と特徴
投資信託で売買するには、取引を希望する販売会社に、取引口座を開設しなければなりません。
投資信託の取引口座には、いくつかの種類があります。投資信託の運用をスムーズに行うためには、各口座の特徴を知り、投資の目的や方針に合ったものを選ぶことが大切です。
特定口座源泉徴収あり
『特定口座源泉徴収あり』の特徴には、以下が挙げられます。
- 譲渡益が源泉徴収される
- 口座内の取引が、自動的に損益通算される
- 年間取引報告書(※)が発行される
損益通算とは、一定期間内の利益と損失を相殺し、税金を減らすことです。特定口座源泉徴収ありでは、一定期間内における口座内の譲渡損益および分配金が、自動的に損益通算されます。
特定口座源泉徴収ありでは、譲渡益も源泉徴収されるため、原則として確定申告の必要がありません。何らかの理由で確定申告をしたい人は、年間取引報告書を利用すると便利です。
(※年間取引報告書とは、特定口座における1年間のすべての取引をまとめたものです)
特定口座源泉徴収なし
『特定口座源泉徴収なし』には、以下の特徴があります。
- 譲渡益は源泉徴収されない
- 年間取引報告書が発行される
特定口座源泉徴収なしでは、譲渡益が源泉徴収されないため、確定申告が必要です。年間取引報告書を使用すれば、確定申告だけでなく損益通算もスムーズに行えます。
一般口座
『一般口座』の特徴は、以下のとおりです。
- 譲渡益が源泉徴収されない
- 年間取引報告書が発行されない
一般口座では譲渡益の源泉徴収がないため、確定申告をしなければなりません。また、年間取引報告書も発行されないので、取引内容を投資家自身がまとめて、確定申告をします。
NISA口座
『NISA(ニーサ)』とは、譲渡益や分配金が非課税となる制度です。NISA口座の基本事項を、下表にまとめます。
項目 | 詳細 |
利用可能な人 | 日本在住の20歳以上の人 |
口座開設可能数 | 1人1口座 |
非課税対象 | 株や投資信託の運用で得られた譲渡益・配当金・分配金 |
非課税投資枠(円) | 新規投資額で、毎年120万(最大600万) |
非課税期間 | 最長5年 |
投資可能期間 | 14~23年 |
NISAには、上記の他、投資信託の積み立てをする人向けのつみたてNISAや、未成年者向けのジュニアNISAもあります。
また、特定口座や一般口座で購入した投資信託を、NISA口座に移管することはできません。NISA口座での運用を希望する人は、NISA口座でファンドの購入をしましょう。
申告が必要なケース
投資信託の運用において、いくつかのケースでは、確定申告が必要です。ここでは、確定申告が必要なケースを、まとめて紹介します。
源泉徴収ありの口座以外の場合
特定口座源泉徴収なしもしくは、一般口座での取引において譲渡益が出た場合は、確定申告をしましょう。
NISA口座は原則不要
NISA口座で投資信託の運用をした場合は、確定申告は必要ありません。ただし、NISA口座で株を運用している人は、配当金の受取方法によっては、確定申告が必要な場合があります。
損益通算したいとき
特定口座源泉徴収あり内での取引は、自動的に損益通算されます。しかし、以下のケースでの損益通算を希望する場合は、確定申告が必要です。
- 特定口座源泉徴収なしもしくは、一般口座内の取引を損益通算する
- 異なる特定口座や一般口座間の損益通算をする
なお、損益通算は譲渡損と譲渡益だけでなく、分配金も対象です。分配金を受け取っていて譲渡損がある人は、損益通算を検討してみましょう。
その他の控除を受けるとき
投資信託の運用では、譲渡損失の繰り越し控除制度があります。これは、 譲渡損失のうちその年に損益通算しきれない金額を、翌年以降に繰り越して損益通算できる制度です。
繰越控除制度を利用するには、譲渡損失が出た年に確定申告が必要です。また、繰り越せる年数は3年間ですが、毎年確定申告をしなければなりません。
確定申告が必要な主な控除
所得税は、1年間のすべての所得から所得控除を差し引いて、税額を計算します。ここでは、所得控除の具体例を紹介します。また、それぞれの概要および、確定申告の方法も見てみましょう。
医療費控除
医療費控除は、納税者および生計を一つにする配偶者・その他の親族が、1年間で一定の金額以上の医療費を支払った場合に受けられる控除(最高200万円)です。医療費を合計する期間は、毎年1月1日~12月31日です。
医療費控除額は、以下の式で求められます。
- 医療費控除額=(支払った医療費-保険などで補てんされる金額)-10万円
保険などで補てんされる金額には、生命保険契約や健康保険から支払われる給付金・出産一時金などがあります。
医療費控除を希望する人は、医療費控除の明細書および源泉徴収票(給与所得者のみ)を添付し、確定申告をします。医療費の領収書は、確定申告期限の翌日から起算して5年間は保管しましょう。
住宅ローン控除
住宅ローン控除は、住宅の取得や一定の増改築・ リフォーム工事をして10年以上のローンを組んだ場合に、所得税が控除される制度です。
住宅ローン控除を受けるには、下表の書類を用意し必要事項を記入したうえで、税務署に提出しましょう。
書類名 | 入手場所 |
確定申告書(A) | 税務署および国税庁のウェブサイト |
住宅借入金等特別控除額の計算明細書 | |
本人確認書類 (マイナンバーカードもしくは、マイナンバー通知カード+運転免許証など) |
マイナンバーカードは、市区町村の窓口 |
建物・土地の登記事項証明書 | 法務局 |
建物・土地の不動産売買契約書の写し | 不動産会社 |
源泉徴収票 | 勤務先 |
ローン残高証明書 | ローンを借り入れた銀行 |
No.1213 住宅を新築又は新築住宅を購入した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
寄付金控除
寄付金控除とは、特定寄付金を支出した場合に受けられる控除です。特定寄付金と認められる寄付金の一例は、以下の範囲です。
- 国および地方公共団体
- 公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人
- 独立行政法人・地方独立行政法人・公益社団法人の行う一定の活動
控除される金額は、以下のとおりです。
- 控除額=その年に支出した特定寄付金の合計額-2000円
その年に支出した特定寄付金額よりも、その年の総所得金額等の40%相当額の方が少ない場合、総所得金額から2000円を引いた額が控除額となります。
寄付金控除を受けるには、寄付をした証明書や控除の対象となる団体である証明書などを揃えて、確定申告をしましょう。
No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
ふるさと納税ワンストップ特例
寄付金控除のうち、納税者が選んだ地方自治体に寄付をするものを、ふるさと納税といいます。ふるさと納税の中でも、手続きが簡素化されたものが、ふるさと納税ワンストップ特例です。
ふるさと納税ワンストップ特例は、以下に当てはまる場合に申請できます。
- ふるさと納税の納税先が5団体以内である
- ふるさと納税以外で、確定申告の必要がない
ふるさと納税ワンストップ特例を受けたい人は、納税のたびに納税した自治体に申請をしなければなりません。申請の期限は、寄付をした翌年の1月10日です。申請には、以下の書類を用意しましょう。
- ワンストップ特例の申請用紙
- 本人確認書類(マイナンバー書類)
総務省|ふるさと納税ポータルサイト|トピックス|制度改正について(2015年4月1日)
確定申告しないとどうなる?
確定申告により、投資信託にかかる税金を納める人は、翌年の2月16日~3月15日に申告しましょう。投資信託の運用で利益を得たにもかかわらず、確定申告をしなかった場合は、ペナルティーが発生します。
絶対にバレると思っておく
投資信託の取引で得た利益は、税務署に通知されます。よって、利益を隠し納税を免れることはできません。販売会社から税務署に通知される書類は、口座ごとに下表のように決まっています。
書類名 | |
特定口座源泉徴収あり | 年間取引報告書 |
特定口座源泉徴収なし | 年間取引報告書もしくは支払調書 |
一般口座 | 支払調書 |
年間取引報告書および支払調書に記載される項目の一例は、以下のとおりです。
- 取引した人の名前・住所
- 譲渡益の金額
- 分配金額
このように、投資信託による利益を投資家が税務署に申告しなかったとしても、販売会社からの書類によって、税務署は課税対象者を把握できるのです。利益を得た人は、きちんと確定申告をしましょう。
附帯税がかかる
附帯税とは、納税が遅れたもしくは納税をしなかったことにより発生するペナルティーです。附帯税には、下表のものがあります。
附帯税の種類 | 課されるケース |
延滞税 | 納税を延滞した |
過少申告加算税 | 期限内に申告したが、申告した金額が少なかった |
無申告加算税 | 期限後に申告をしたもしくは、申告をしなかった |
不納付加算税 | 源泉徴収税額を期限内に納税しなかった |
重加算税 | 事実の仮装・隠ぺい、過少申告・無申告・不納付をした |
無申告加算税の税率は、原則として50万円までは15%、50万円を超える部分は20%です。ただし、税務署の調査が入る前に自主的に期限後申告をした場合は、税率は5%に軽減されます。
節税のポイント
税金の計算方法には、総合課税と申告分離課税があります。09年1月1日以後に支払われる分配金については、税金の計算方法を投資家が選べるようになりました。
どちらの計算方法を選ぶかで、課税額に差が出ることがあります。ここでは、総合課税と申告分離課税について詳しく見てみましょう。
総合課税と申告分離課税
総合課税と申告分離課税の基本事項は、下表のとおりです。
詳細 | 所得税率(%) | |
総合課税 | ・各種の所得金額を合計し、総所得金額を求めたうえで納税額を計算 ・配当控除を受けられる |
5~45(※) |
申告分離課税 | ・一定の所得について、他の所得金額と合計せず分離して税額を計算 ・譲渡損益と損益通算ができる |
15 |
投資信託の運用状況や所得額により税金の計算方法を選択すると、税額が少なくなる可能性があります。
(※:総合課税は累進税率のため、課税される所得金額により税率が変わります)
所得税と住民税で別に選択可能
投資信託で分配金を得た場合、所得税だけでなく住民税も納めなければなりません。総合課税および申告分離課税の住民税率は、それぞれ以下のとおりです。
- 総合課税:10%
- 申告分離課税:5%
住民税では、所得税とは別の計算方法を選択することもできます。例えば、所得税は総合分離課税で納税し、住民税は申告分離課税で納めることも可能です。
確定申告の方法
期限内に速やかに確定申告をするには、確定申告の手続方法を知っておくことも大切です。最後は、確定申告のやり方を詳しく解説します。
e-Taxや国税庁HPを使うと便利
確定申告をするには、まず申告書を作成しなければなりません。申告書の作成は、以下で受け付けています。
- 税務署の作成窓口
- 国税庁HP(ホームページ)の確定申告書等作成コーナー
専門家に相談しながら作成したい人は、税務署窓口がよいでしょう。時間や場所を問わずに作成したい人は、国税庁HPが便利です。また、作成した申告書は、以下のいずれかの方法で提出します。
- 税務署窓口に持参
- 税務署に郵送
- e-Tax(イータックス)で送付
e-Taxとは、国税に関する各種手続きについて、インターネット上で手続きが行えるシステムです。なお、e-Taxの利用には、事前の登録が必要です。
必要書類
確定申告をする際は、申告書以外に下表の書類を揃えます。
申告内容 | 書類の一例 |
・事業所得 ・不動産所得 ・山林所得 |
青色申告書や収支内訳書・山林所得収支内訳書 |
配当所得 | 年間取引報告書 |
給与所得 | 源泉徴収票 |
公的年金等の雑所得 | 源泉徴収票 |
上記の他、マイナンバー書類および本人確認書類(運転免許証など)も必要です。
申告書の書き方
確定申告をするには、下表の申告書を用意します。
必要書類 | |
譲渡損失を申告する | 申告書B(第1表・2表・3表・4表) |
上記以外 | 申告書B(第1表・2表・3表) |
申告書の第4表の記入例は、下図のとおりです。
まとめ
投資信託の運用で得た分配金および譲渡益には、税金が課せられます。納税方法は、取引をする口座により異なるため、あらかじめ確認し、期限内にしっかりと納税しましょう。
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