相続税計算は素人には難解?
相続税とは、相続した遺産の価額に応じて課せられる税金のことです。ただし、すべての遺産に課せられるものではなく、遺産の総額から『基礎控除額』を引いた後の残額(課税遺産総額)に対して課せられます。
また、相続税には数多くの控除(※)や非課税枠などが設けられており、それらを利用することで相続税の税額が大幅に軽減されたり、非課税になったりすることもあります。
(※控除とは、ある条件に該当する場合に、税金を軽減できる制度のことです)
計算自体は誰でもできる
遺産を相続するということは、人生で何度も起こることではありません。そのため、相続税に対してもなじみがなく、相続税の計算もどうすればよいのかわからないという人も多いでしょう。しかし、ポイントさえ押さえれば、相続税の計算自体は誰でもできます。
減額や節税は税理士の腕の見せどころ?
相続税の計算は誰でもできますが、相続税の減額や節税に関しては税理士に依頼した方がよいでしょう。前述の通り、相続税には数多くの控除や非課税枠、特例などがあり、それぞれに細かい条件が定められています。
そのすべての条件を自分で調べるのは難しく、適用できるはずの控除を見逃して、余分に相続税を納めることになる場合もあるのです。
また、相続税は、故人の死亡を知った日から10カ月以内に申告・納税しなければならないので、自分で調べながら手続きしていると間に合わない可能性も考えられます。
遺産が少なかったり、現金しかないシンプルな相続だったりといったケース以外では、税理士に任せた方が安心です。
自分で計算するなら
自分で相続税を計算するときには、インターネット上に公開されているツールを使うのがおすすめです。
国税庁のHPを使ってみよう
国税庁のホームページでは、『相続税の申告要否判定コーナー』というツールが公開されています。ここでは、相続税の申告が必要か不要かを判定できるだけでなく、税額の計算も可能です。
画面の指示に従って情報を入力していけば、控除額なども自動で計算してくれるので、見逃しや誤りが起こりにくいというメリットがあります。
ただし、各遺産の価額などは自分で調べておかなくてはなりません。また、相続した土地の形状が複雑であったり、遺産総額が高額であったりするケースには対応していないので、あくまでも簡易的な計算ツールであることを理解しておきましょう。
エクセルで計算する方法もアリ
エクセルを利用して相続税の税額を計算するのもよいでしょう。自分で表を作成してもよいですが、無料公開されているエクセルシートを使えば手間がかかりません。
ただし、国税庁のツールと同じく、遺産の価額などは自分で調べる必要があります。遺産の種類や総額が多く、自分で一つずつ調べる時間がない人、自信がない人は、税理士などに相談した方がよいでしょう。
相続税計算シミュレーション エクセルシート(Excel)|新宿区の税理士【サープラス税理士法人】曙橋徒歩3分
相続税計算の流れ1、正味の遺産額を出す
ここからは、相続税の計算方法の詳細を解説します。以下は、相続税を計算するときの基本的な流れです。
- 正味の遺産総額を出す
- 基礎控除額を計算する
- 課税遺産総額を算出する
- 各法定相続人が法定相続分に従って取得したものみなして、遺産取得額を出す
- 各法定相続人の遺産取得額に対する相続税の税額を計算する
- 各法定相続人の相続税の税額を合算して、相続税の総額を算出する
- 遺産相続完了後、実際の遺産取得額を出す
- 実際の遺産取得額に対する相続税の税額を計算する
相続税の計算は、まず正味の遺産総額を出すところから始まります。遺産総額は、以下の式で算出しましょう。
- 遺産総額=プラスの財産-(非課税の財産+マイナスの財産)
主な遺産の例
遺産総額を出すときの『プラスの財産』とは、以下のような経済的価値のある財産のことを指します。
- 現金
- 預貯金
- 金融商品
- 宝石
- 土地
- 家屋
見逃しがちな遺産とは
遺産総額を計算するときには、遺産の見逃しに注意しましょう。以下のようなものも、相続税の対象に入ります。
- 貸付金
- 特許権
- 著作権
- 骨董品
- ゴルフ場の会員権
また、自分が知らなかっただけで、実は親が居住地とは違う地域に土地を持っていたなどということもあります。遺産を見逃していて、相続税の申告期限後に発覚すると、申告漏れとして延滞税などのペナルティーが発生する可能性があるので注意しましょう。
負債にも注意
故人に負債がないかもしっかり調べておきましょう。遺産相続では、プラスの財産だけ相続して、マイナスの財産は放棄するということはできません。プラスの財産とマイナスの財産の両方を相続しなければならないのです(限定承認を除く)。
負債があることに気づかないまま遺産を相続し、あとから多額の負債が見つかった場合、負債を見つけられなかったよほどの理由が証明できない限り、もう放棄はできません。相続したプラスの財産以上の負債があると、自分が負債を背負うことになります。
信用情報機関に個人情報の開示を請求するなどして、負債の有無を徹底的に調べておきましょう。不安がある場合は、やはり弁護士や税理士相談するのが安心です。
相続税計算の流れ2、課税遺産総額を出す
遺産総額が確定したら、次に基礎控除額を計算します。そして、遺産総額から基礎控除額を差し引いて、『課税遺産総額』を算出しましょう。
- 課税遺産総額=遺産総額-基礎控除額
課税財産と非課税財産
課税遺産総額を計算するには、遺産総額から『基礎控除額』を差し引く必要があります。基礎控除とは、法定相続人全員に適用される相続税の非課税枠のことです。
相続税における課税財産には、前述のプラスの財産、および相続開始前3年以内に贈与された財産が該当します。そのうち、基礎控除額までは相続税がかからない、つまり非課税財産であるということです。
また、故人の死亡によって受け取る死亡保険金や死亡退職金にも非課税枠が存在します。死亡保険金や死亡退職金の非課税枠は、以下の式で計算した金額です。
- 死亡保険金や死亡退職金の非課税枠=500万円×法定相続人の数
遺産総額を算出するときの『非課税の財産』には、この死亡保険金や死亡退職金の非課税枠が該当します。
No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金|国税庁
基礎控除の計算
相続税の基礎控除は以下の式で計算します。
- 基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人の数には、相続放棄した人も含みます。法定相続人が多いほど基礎控除額が増え、相続税が安くなるので忘れないようにしましょう。
持ち戻し計算やみなし相続財産の計算
課税遺産総額を計算するときに注意したいのが、『みなし相続財産』や『生前贈与された財産』を課税対象に含めなくてはならないことです。
『みなし財産』とは、死亡保険金や死亡退職金といった、故人の保有財産ではないものの、故人の死亡によって遺族に支払われる財産のことを指します。死亡保険金や死亡退職金の課税対象額は、以下で算出しましょう。
- 死亡保険金や死亡退職金の課税対象額=受取額-非課税枠
生前贈与された財産も課税対象に含める理由は、生前贈与による相続税逃れの防止です。生前贈与された財産を課税遺産総額に加えることを、『持ち戻し計算』といいます。
生前贈与された財産の課税対象額は、相続前3年以内に故人から贈与された財産の総額です。
相続税計算の流れ3、相続税額の計算
課税遺産総額が把握できたら、相続税の税額を計算します。
法定相続分に税率をかける
まずは、法定相続人が法定相続分通りに相続したとして遺産取得額を計算しましょう。そこに、所定の税率をかけて控除額を引き、相続税率を計算します。
- 相続税の税額=法定相続分通りの遺産取得額×税率-控除額
法定相続分は以下の通りです。
出典:法定相続分│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券
相続税の税率、および控除額は以下で確認しましょう。
取得金額 | 税率(%) | 控除額 |
1000万円以下 | 10 | - |
3000万円以下 | 15 | 50万円 |
5000万円以下 | 20 | 200万円 |
1億円以下 | 30 | 700万円 |
2億円以下 | 40 | 1700万円 |
3億円以下 | 45 | 2700万円 |
6億円以下 | 50 | 4200万円 |
6億円超 | 55 | 7200万円 |
実際の相続割合に応じて税率をかける
遺産相続が終わったら、実際の遺産取得額を計算しましょう。そして、実際の遺産取得額に税率をかけて控除額を引き、相続税の税額を計算します。
- 相続税の税額=実際の遺産取得額×税率-控除額
控除の計算
実際の遺産取得額は、以下の流れで計算します。
- 『プラスの財産-(非課税の財産+マイナスの財産)』で遺産取得額を出す
- 遺産取得額から基礎控除額を引き、課税遺産総額を計算する
- 適用できる控除や特例がある場合は、それらの控除額を差し引く
- みなし相続財産や生前贈与された財産の課税対象額を計算し、課税遺産総額に加える
- 課税遺産総額に税率をかけて控除額を引き、相続税の税額を計算する
相続税には数多くの控除や特例がありますが、それらは実際の遺産取得額を計算するときに適用します。
知っておきたいポイント
ここでは、相続税を計算するときに知っておきたい『法定相続人』と『遺言書』について解説します。
法定相続人とは
『法定相続人』とは、民法で定められている相続人のことです。第1順位、第2順位、第3順位に分かれており、各順位にはそれぞれ以下の人が該当します。
- 第1順位:故人の配偶者・子ども(子どもがいない場合は孫・ひ孫)
- 第2順位:故人の父母・祖父母とその配偶者
- 第3順位:故人の兄弟姉妹(兄弟姉妹がいない場合は甥姪)
遺産相続において、第1順位の人が最優先されるのが原則です。下位順位の人は、自分よりも上位順位に該当する人がいない、あるいは上位順位の人が相続放棄した場合に限り、相続権が発生します。
法定相続人にはそれぞれ法定相続分が定められており、基本的には法定相続分通りに遺産が分割されます。
遺言書の有無
相続時には法定相続分通りに遺産が分割されるのが基本ですが、遺言書がある場合は、法定相続分よりも遺言書の内容が優先されます。
ただし、兄弟姉妹以外の法定相続人には『遺留分』が保障されているため、仮に遺言書に『○○に遺産を全額渡す』などと記載されていても、遺留分は他の相続人に渡さなくてはなりません。
遺留分とは、相続人に認められている最低限の相続権のことです。遺言などによって1人の相続人がすべての遺産を相続すると、他の相続人が生活に困る可能性があります。
そのため、最低限の金額は他の相続人にも渡るように考慮されているのです。なお、法定相続人全員が同意した場合に限り、遺言書の内容を変更できます。
相続対象の土地や家屋の評価について
相続対象に土地や家屋が含まれている場合は、相続税の税額を計算するときに、土地や家屋の評価額を算出する必要があります。
土地評価の計算の仕方
相続税における土地の評価額は、『路線価方式』か『倍率方式』のいずれかで計算するのが一般的です。
- 路線価方式:国税庁が定める『路線価』を用いて土地を評価する方法
- 倍率方式:路線価が定められていない土地を評価する方法
それぞれ以下の式で土地の評価額を計算します。
- 路線価方式:正面路線価×奥行価格補正率(※1)×土地の面積
- 倍率方式:固定資産税評価額(※2)×所定の倍率
正面路面化や奥行価格補正率は国税庁のホームページで、固定資産税評価額は役所で調べられます。
(※1.奥行価格補正率とは、道路からの土地の奥行に応じて路線価を調整するための補正率のことです)
(※2.固定資産税評価額とは、各市区町村が毎年1月1日に評価する価格のことです)
路線価方式と倍率方式
財産評価基準書|国税庁
奥行価格補正率表(昭45直資3-13・平3課評2-4外・平18課評2-27外改正) |国税庁
マンションの相続税評価方法
相続税における家屋の評価額は、以下の式で計算します。
- 家屋の評価額=固定資産税評価額×1.0
ただし、マンションの場合は建物部分と敷地部分に分けて考えなくてはなりません。ここでは、マンション1室を所有している場合の評価方法を見てみましょう。
- そのマンションの路線価を調べる
- マンション全体の土地の面積(地積)を調べる
- 『路線価×地積』でマンション全体の評価額を計算する
- 『マンション全体の評価額×敷地権割合』で1室分の評価額を計算する
敷地権割合とは、マンション全体のうち、自分が所有している割合のことです。敷地権割合は、マンションの登記簿謄本(とうきぼとうほん※)に記載されています。
(※登記簿謄本とは、不動産の権利や所在地、面積などについて記録されている、公的な帳簿のことです)
小規模宅地等の特例
相続対象に含まれる宅地が、『小規模宅地』に該当する場合は、『小規模宅地等の特例』によって相続税が減税できる可能性があります。
小規模宅地等とは、相続開始直前に故人の居住用や事業用に利用されていて、所定の条件を満たした土地のことです。小規模宅地等の特例が適用されると、50~80%相続税が減税されます。
土地や対象者などに細かい条件が定められているので、自分で調べきれない場合は税理士などに相談するとよいでしょう。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
相続税の申告
最後に、相続税の申告手続きの流れや必要書類について解説します。
申告手続きの流れ
相続税の申告手続きのおおまかな流れを見てみましょう。
- 相続税の申告に必要な書類を集める
- 相続税申告書とその他必要書類を作成する
- 納税地を管轄する税務署に書類を提出する
計算書など添付書類を忘れずに
相続税の申告手続きの流れ自体は単純ですが、相続税の申告には多くの書類が必要で、大変手間がかかります。以下は、主な相続税の申告手続きの必要書類です。
- 故人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 故人の住民票の除票
- 故人の戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 相続人全員の戸籍の附票
- 相続人全員の印鑑証明
- 預金残高証明書
- 過去5年分の通帳・定期預金の証書
これ以外に、相続する遺産の種類や適用される控除などによって、さまざまな書類が必要になります。一つでも書類が足りないと、相続税が正確に申告できず、ペナルティーが発生する可能性もあるので注意が必要です。
10カ月という期限もあるので、自分ですべて準備しきれない場合は、早めに税理士に依頼した方がよいでしょう。
まとめ
相続税の税額は、ポイントを押さえれば自分で計算可能です。ただし、相続税にはさまざまな控除や特例があり、それぞれ条件が細かく定められています。そのすべてを自分で調べるのは難しいでしょう。
また、申告手続きの際には多くの書類が必要で、準備に大変時間と手間がかかります。相続税の申告には期限があるので、税理士に依頼するのがおすすめです。
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