住宅ローンの担保について
住宅ローンの多くはローンで購入する土地・建物を『担保』に、その購入代金を借り入れることを融資条件としています。
金融機関は契約者から担保をとることにより、返済が滞った場合に処分できる財産や代わりに返済請求できる人物を、あらかじめ確保できるのです。
住宅ローンの担保について、詳しく見ていきましょう。
物的担保について
『物的担保』とは、不動産などの物(財産)を対象とした担保のことです。
住宅ローンでは、契約者が購入物件を物的担保として金融機関に提供します。返済が滞った場合は金融機関が担保にとった物件を競売にかけて売却し、その代金で貸し付けた金銭を回収する仕組みです。
人的担保について
『人的担保』とは、ローン契約者以外の人に返済が滞った場合の代わりの返済を、あらかじめ保証させておくことです。
以前は住宅ローンを借りるためには、親族や知人などの連帯保証人の用意が必要でした。しかし、現在は金融機関が指定する保証会社を利用して、ローンに保証を付ける場合が多く、契約者個人で保証人を用意する必要はほとんどありません。
保証会社を利用すると、契約者の返済が滞った場合は、保証会社が残りのローンを金融機関に一括で返済します。その後、保証会社は立て替えた返済額の一括返済を、債務者に対し請求するのです。
住宅ローンの担保設定は抵当権設定登記
日本では不動産登記という制度によって、不動産の所在や所有者、権利関係などのさまざまな情報が管理されています。したがって、土地・建物を取得すると、不動産登記の手続きが必要です。
不動産登記は取得した土地・建物が誰のものであるかを明確にさせるために行い、登記内容は不動産登記簿で誰もが確認できます。
登記簿の一般公開によって、その不動産の権利関係が公に明らかになり、不動産取引をスムーズかつ安全に行えるのです。
不動産登記には、以下の種類があります。
不動産登記 | 概要 |
抵当権設定登記 | ローンを利用して不動産を取得する際に、金融機関と抵当権設定契約を結ぶ場合に行う |
表題登記 | 建物の登記記録の表題部を新しく作る登記。新築の建物が完成した際に行う |
所有権移転登記 | 売買などによって不動産の所有権が移った場合に、登記をし直すために行う |
所有権保存登記 | まだ誰も所有していない不動産を新しく登記する時に行う |
抵当権設定登記について
抵当権とは、債務者(お金を借りた人)の返済が滞った場合に、債権者(お金を貸した人)が不動産を競売にかけ融資したお金を回収できる権利です。
住宅ローンでは契約時に金融機関を抵当権者(※1)、契約者を抵当権設定者(※2)として『抵当権設定登記』の手続きを行います。これにより、その不動産に対する抵当権という権利を、世間一般に公表するのです。
また、複数の抵当権が不動産に設定されている場合は、早い順位で登記されている抵当権者ほど、債権回収の優先順位が高いことを知っておきましょう。
住宅ローンの融資条件に『土地・建物に第一順位の抵当権を登記すること』とあるのは、そのためです。
(※1:抵当権者とは、債務者が所有する財産に抵当権を設定した時の債権者のことです)
(※2:抵当権設定者とは、債務の担保として自分の不動産などを提供した人のことです)
登記にはお金がかかる
登記の手続きは、金融機関が指定する司法書士に委任するケースが多いようです。また、登記には『登録免許税』と司法書士に対する報酬費用がかかります。
登録免許税は、登記手続きの際に国に納める税金で、法務局が定めた所定の税率を用いて税額を計算する仕組みです。
例えば楽天銀行では、抵当権設定登記の費用の目安を以下としています。
費用 | 目安額 |
登録免許税 | 借入額×0.4% |
司法書士に対する報酬 | 5~7万円程度・その他に登記にかかる実費等(※)が必要 |
(※登記にかかる実費等とは、事前調査・登記完了後の記載事項証明書・日当・交通費などです)
抵当権設定とは何ですか?|住宅ローンピックアップFAQ|楽天銀行
登記に必要な書類は?
抵当権の設定登記には、基本として以下の書類が必要です。
- 印鑑証明書(発行日から3カ月以内のもの)
- 登記原因証明情報または抵当権設定契約証書
- 登記識別情報または登記済証
- 金融機関の資格証明書(3カ月以内のもの)
- 司法書士への委任状(印鑑証明書と同じ実印を押印)
- 権利書または登記識別情報
- 住宅用家屋証明書
上記の必要書類のうち、住宅ローンの契約者が必ず用意するものは印鑑証明書です。その他の必要書類は司法書士や金融機関が用意するものもあり、状況によって異なります。
事前に手続きを委任する司法書士に、用意が必要な書類を確認しておくとよいでしょう。
抵当権設定とは何ですか?|住宅ローンピックアップFAQ|楽天銀行
担保なし住宅ローンとは
住宅ローンの中には担保を必要としないローンがあり、このような商品を『無担保住宅ローン』といいます。
ここでは、無担保住宅ローンのメリット・デメリットを、具体的に見ていきましょう。
メリットについて
無担保住宅ローンの主なメリットは、以下の通りです。
- 審査が早く融資までがスムーズである
- 抵当権が設定されない
- 住宅ローンの返済中でも利用できる
- 担保価値が低い物件でもローンを組める
無担保住宅ローンでは、担保物件に対する審査がありません。よって、審査のために用意する書類が少なくて済み、審査時間も短くなります。
また、中古住宅の取得や、借り入れから何年も経過し古くなった住宅のローンの借換えなど、担保評価が低い物件に対する融資に使えることもメリットです。
デメリットについて
無担保住宅ローンの主なデメリットは、以下の通りです。
- 金利が高い
- 借入期間が短い
- 融資限度額が低い
無担保の住宅ローンでは契約者が返済不能になっても、金融機関にローンを組んだ物件を売却する権利はありません。金融機関にとってはリスクが高い融資といえ、その分高めの金利が設定されています。
また、借入期間が最長でも15年や20年の商品が多く、一般の住宅ローンに比べ短期間で完済することになり、毎月の返済額が大きくなりやすいこともデメリットです。
担保あり住宅ローンとの違い
無担保住宅ローンと担保ありの住宅ローン(有担保住宅ローン)の大きな違いは、抵当権の設定登記が必要かどうかです。
無担保住宅ローンは担保なしで借り入れが可能であるため、抵当権を設定・抹消する必要がなく、登記にかかる費用と手間を軽減できます。
住宅ローン審査時の担保評価額について
審査時に算定される『担保評価額』を見ていきましょう。
担保評価額とは
住宅ローンの審査では、担保として設定する土地・建物に融資額に見合う価値があるかどうかを査定する『担保評価』が行われます。この担保評価の際に算出される評価金額が、担保評価額です。
売却時の金額の目安になる
金融機関は審査の際に担保評価額を算定することで、返済が滞った場合にどの程度の金額で担保物件が売れそうか、あらかじめ目安を立てられます。
つまり、返済が滞った時に、どの程度の資金が回収できそうか判断できるということです。担保評価額が高いほど金融機関はより多くの資金を回収できるため、審査では有利になるでしょう。
担保評価額はどうやって決まる?
担保評価額は金融機関が担保である不動産の時価を算出し、その金額に掛目をかけて算定されます。
掛目とは、担保に対し時価よりも低く評価するために用いられる比率です。担保物件を競売にかけた場合に、時価より低い価格で落札されるであろうという金融機関の見立てから、掛目をかけて担保評価額が算定されます。
掛目を70%前後とするケースが多く見られますが、中には50%や60%と定める金融機関もありさまざまです。また、担保評価額の決まり方は、建物の種類によっても異なることを知っておきましょう。
建物の建築の場合
戸建の場合は土地と建物で別々に評価したものを、足し合わせて担保評価額とします。土地に対する評価は路線価(※1)に掛目をかけた価格を、担保評価額とする金融機関が多いようです。
建物については現時点で再調達した場合の原価をもとに、法定耐用年数(※2)や建物の劣化などに合わせて減額し、担保評価額を算定する方法があります。
(※1:路線価とは、道路に面する宅地1平方mあたりの評価額です。国税局が毎年8月ごろに、その年の1月1日時点の評価額を路線価として公表します)
(※2:建物の法定耐用年数とは、法律で定められた建物の利用可能年数のことで、建物の損耗だけでなく、機能的・経済的な意味を含めた利用可能な年数を指します)
新築分譲物件の場合
新築分譲マンションの場合は土地と建物に分けての評価がしづらいことから、購入価格を担保評価額とすることが多いようです。
また、新築分譲マンションの担保評価額は、相対的に高い傾向にあります。
中古物件の場合
中古物件の場合は、築年数が古いほど担保評価額が低くなり、建物が古い時は土地のみの評価額になることを知っておきましょう。
また、担保物件に類似した物件の取引事例の中から、いくつかの取引をピックアップして、立地条件や築年数などの違いを修正し評価額を算定する場合もあります。
借地権や定期借地権の場合
借地権(※1)や定期借地権(※2)が設定された物件の担保価値は、一般の不動産に比べ低く評価され、融資を受けるのが難しい場合があります。
担保物件には、土地と建物の両方に抵当権が設定されます。しかし、借地権や定期借地権が付いていると、土地の所有者は地主であり、その地主の承諾なしに土地への抵当権設定はできません。
したがって、審査では建物だけが担保評価の対象になり、通常より評価額が下がります。また、建物の担保価値は年月の経過と共に下がるため、返済中に更に担保としての価値が低下することから、融資の対象外とする金融機関もあります。
ただし、新規分譲マンションについては、提携ローン(※3)を利用できるケースが多く、この場合は一般的に購入する物件を担保にローンを組めます。
(※1:借地権とは、建物を建てる目的で地主に地代を支払い、土地を借りる権利です)
(※2:定期借地権とは、あらかじめ存続期間が定められている借地権のことです)
(※3:提携ローンとは、金融機関が不動産会社などと提携して、その会社が取り扱う物件の購入者を対象に融資するローンです)
住宅ローンの担保提供者について
住宅ローンの『担保提供者』とは、どのような人を指すのでしょうか。具体的にみていきましょう。
担保提供者は債務は負わない
住宅ローンにおける担保提供者は、不動産などの担保を提供するのみで、ローンに対する返済義務を負わない人です。
債務者がローンを返済できないときは抵当権が実行され、担保の土地・建物が売却されます。売却代金を返済に充てても、まだ住宅ローンを完済できない場合は、債務者は残りの債務を返済する義務を負います。
担保提供者は担保として提供した土地・建物を手放すことになりますが、残債務の返済義務はありません。
担保提供者の具体的な例
担保提供者の具体例を見ていきます。例えば、マイホームを手に入れるために妻が自分の預貯金から頭金を出し、その他の購入資金を夫が住宅ローンを組んで調達するとしましょう。
上記の例では、購入する物件の名義は夫と妻のふたりの共有名義になり、それぞれの購入資金の負担割合に応じた持分を登記します。
仮に、3000万円の物件の購入に、妻が頭金1000万円を負担し夫が2000万円のローンを組むのであれば、妻の持分1/3・夫の持分2/3で登記するということです。金融機関は土地・建物の全てを担保とするため、妻の持分だけを除外することはできません。
したがって、妻は自分の持分を担保として金融機関に提供しなければなりません。しかし、住宅ローンの返済義務を負う必要はないので、妻は担保提供者になります。
親名義の実家を担保に住宅ローンを組む
親名義の土地に子供が住宅ローンを組んで家を建てる場合に、その土地と建物を担保にすることを金融機関から要求されることがあります。土地・建物を担保にとられると、子供の返済が滞った場合に親は土地を手放さなければなりません。
土地・建物を売却してもローンを完済できないと、子供は残りのローンの返済義務負いますが、担保提供者である親には返済義務はありません。
また、上記のようなケースで、住宅ローンの契約時に担保の提供とあわせて親を『連帯保証人』にすることを、金融機関から要求されることがあります。親が承諾しローンの連帯保証人になると、親も返済義務を負わなければなりません。
連帯保証人との違いとは?
連帯保証人との大きな違いは、担保提供者にはない債務に対する返済義務が連帯保証人にはあることです。
連帯保証人は債務者の返済が滞ると、本人に代わり返済しなければなりません。また、連帯保証人は、以下の催告・検索の抗弁権を持ちません。
項目 | 概要 |
催告の抗弁権 | 債権者から返済を要求された場合に、自分よりまず債務者に返済請求することを主張できる権利 |
検索の抗弁権 | 連帯保証人の財産より債務者の財産の差し押さえを優先するよう主張できる権利 |
仮に、預金があるにもかかわらず債務者の返済が滞り、金融機関が連帯保証人に返済を請求したとします。連帯保証人には、債務者に預金があっても返済を拒む権利はありません。連帯保証人は債務に対して重い責任を負うことを知っておきましょう。
住宅ローンを完済したら担保を解除する
住宅ローンの完済後は、不動産の担保を解除する手続きが必要です。
抵当権の抹消手続きを行う
住宅ローンを完済すると、金融機関から『抵当権の抹消手続き』に必要な書類が届きます。抵当権の抹消とは、契約時に設定された金融機関の抵当権をはずすことです。
抹消手続きは司法書士に依頼するか、最寄りの法務局に出向き自分で行います。ちなみに、法務局の業務取扱時間は以下の通りです。
- 法務局の業務取扱時間
午前8時30分~午後5時15分
土日・祝日・年末年始(12/29~1/3)なし
抵当権抹消には、登録免許税と登記事項証明書の交付手数料がかかります。登録免許税は不動産1件につき1000円で、通常は土地と建物で2000円が必要です。
司法書士に依頼すると目安として、司法書士の報酬が1万円程度と交通費や郵送費などの実費がかかります。
抹消手続きを行わないとどうなる?
抹消手続きを行っていないと、登記簿上では住宅ローンの返済中として扱われます。今後、家を担保にローンを利用したり、売却したりする場合に、ローンを完済していることを証明できず、審査に通らないかもしれません。
また、金融機関から送られる書類のうち『代表者事項証明書』には3カ月の有効期限があり、期限を過ぎると再び取得しなければなりません。完済後には早めに抹消手続きを済ませる方がよいでしょう。
まとめ
住宅ローンは基本として融資対象の物件を担保に購入資金を借りるため、契約時には抵当権設定の登記が必要です。手続きは司法書士に委任できます。また、完済後には、抵当権の抹消手続きを速やかに済ませましょう。
ローンの返済に行き詰まると、担保であるマイホームを手放さなければなりません。返せる範囲の金額でローンを組むことが大切でしょう。