フラット35の基礎知識
『フラット35』は、住宅ローンの商品の一つです。『住宅ローン』とは、住宅の建築や新築および中古住宅の購入資金として、金融機関から借り入れるローンをいいます。
住宅ローンを貸し出す金融機関の一例は、以下のとおりです。
- 銀行
- JA(ジェイエー:農協※)
- 信用金庫
- 保険会社
住宅ローンには、それぞれの金融機関が独自に発売している商品の他に、提携する金融機関で販売されるフラット35があります。ここではまず、フラット35の基本事項を詳しく解説します。
(※農協とは、相互扶助の精神のもと、農家の営農と生活を守り高めるために組織された協同組合です。生産資材・生活資材の共同購入や農畜産物の共同販売・貯金やローン・共同利用施設の設置などを行っています)
フラット35とは
フラット35は、取り扱い先の民間金融機関と住宅金融支援機構(※)が提供している、長期固定金利の住宅ローンです。住宅ローンの金利には、以下の3種類があります。
- 全期間固定金利型:借入当初から返済終了まで、金利が変わらない
- 固定金利期間選択型:一定期間、金利が変わらない。期間終了後は、金利を再設定する
- 変動金利型:定期的に金利が変動する
フラット35では、『全期間固定金利型』の金利が適用されます。
(※住宅金融支援機構は、国土交通省と財務省が所管する独立行政法人で、旧住宅金融公庫が行ってきた住宅ローン業務を引き継いで行っています)
フラット35の特徴
フラット35の特徴は、以下のとおりです。
- 全期間固定金利
- 保証人不要
- 繰上返済手数料無料
- 団体信用生命保険への加入が必須ではない
繰上返済とは、毎月の返済に加えて、ローンの一部を返済することをいいます。繰上返済は元金の返済に充てられるため、元金にかかる利息も軽減できます。
団体信用生命保険は、住宅ローンを組む人が被保険者(保険の対象者)、銀行が契約者および保険金受取人となり契約する保険です。
債務者の死亡・高度障害状態により保険金が支払われ、以後のローン返済が不要となります。団体信用生命保険に加入するには、健康状態の審査に通過しなければなりません。
メリットとデメリット
フラット35のメリットは、以下のとおりです。
- 金利が上昇しても、返済額が変わらない
- 借入時に返済額が確定する
- 繰上返済における手数料を抑えられる
- 健康状態に不安がある人でも借り入れできる
全期間固定金利型であるフラット35は、完済までの返済額が借入時に確定するため、将来の住宅ローン返済計画が立てやすくなります。
フラット35のデメリットは、以下のとおりです。
- 団体信用生命保険に加入する場合、保険料が別途必要
- 借入審査において、物件の価値が重視される
フラット35の審査では、債務者の条件(収入など)よりも、物件の担保(※)価値が重視されます。購入する物件によっては、審査に通らない可能性がある点は知っておきましょう。
(※担保とは、ローンを借りる人が返済できなくなった場合に、ローンを貸した人に返済の原資として提供されるものです)
フラット35の利用条件
フラット35を借り入れるには、いくつかの条件をクリアしなければなりません。ここでは、フラット35の借入条件を解説します。
借入額と借入期間
フラット35で借りられる金額の条件は、以下のとおりです。
- 100万円以上8000万円以下(1万円単位)
- 借入額は建築費または購入価格以内
住宅の購入と併せて土地を取得する場合、土地の取得費用も借り入れの対象となります。店舗や事務所など、住居以外の建物を建築・購入する費用は、借り入れの対象とはなりません。
また、フラット35の借入期間は15年以上と決められています。最長借入期間は35年または、以下の年数のいずれか短い期間(1年単位)です。
- 80歳-申込時の年齢(1年未満切り上げ)
なお、20年以下の借入期間の契約の場合、原則として、返済途中で借入期間を21年以上に変更はできません。
返済負担率
フラット35の借入金額には、年収に対する上限があります。上限の詳細は、下表のとおりです。
年収(万円) | 総返済負担率(%) |
400未満 | 30以下 |
400以上 | 35以下 |
総返済負担率は、以下の式で求めます。
- 総返済負担率(%)=(住宅ローンの年間返済額+その他のローンの年間返済額)÷年収×100
その他のローンには、教育ローンや自動車ローン・カードローンなどが含まれます。また、クレジットカードでのキャッシングやリボ払い・分割払いによる購入も対象です。
対象住宅
フラット35の契約対象となる物件には、以下の条件があります。
- 住宅の建築費または購入価格が、税込1億円以下(土地取得費用を含む)
- 住宅金融支援機構が定めた技術基準に適合する
- 住宅の床面積が、下表の基準を満たしている
住宅の種類 | 床面積の基準(㎡) |
・一戸建て ・連続建て ・重ね建て |
70以上 |
共同建て(マンションなど) | 30以上 |
連続建てとは、共同建て以外で2戸以上の住宅を横に連結する建て方をいいます。重ね建てとは、共同建て以外で2戸以上の住宅を上に重ねる建て方です。
フラット35の審査
住宅ローンの多くは、借入金額が大きく借入期間が長くなります。そのため、返済期間中に返済が滞ることがないよう、借り入れに際して返済能力の審査が行われます。
審査に通らなければ、住宅ローンの契約はできません。借入時に行われる審査は、契約する住宅ローンにより異なります。ここでは、フラット35の審査について、詳しく見てみましょう。
返済能力など人の審査
フラット35で審査される条件の一つは、債務者の返済能力です。審査される具体的な項目には、以下があります。
- 年齢
- 年収
- その他の借り入れの有無・金額
返済期間は原則として15年以上35年以下ですが、債務者の申込時の年齢が60歳以上の場合は、10~14年も選択可能です。
その他の借り入れの有無は、個人信用情報(※)に登録されます。登録内容は、金融機関による確認が可能です。借り入れがある人は、正確に申告しましょう。
(※個人信用情報とは、クレジットやローンなどの契約内容や返済・支払状況・利用残高といった取引情報です。金融機関は、加盟している信用情報機関に照会を行い、取引相手の信用力を確認できます)
技術基準による物件の審査
フラット35を利用して新築住宅を建築・購入する場合、住宅金融支援機構が定める技術基準に適合していることを示す、適合証明書の取得が必要です。
適合証明書を取得するには、検査機関へ物件検査の申請を行い、合格しなければなりません。審査の基準項目、および概要の一例は下表のとおりです。
項目 | 一戸建て住宅 (連続建て・重ね建てを含む) |
マンション |
接道 | 原則として一般の道に2m以上接する | |
住宅部分の床面積(㎡) | 70以上 | 30以上 |
規格 | ・原則として2以上の部屋がある ・キッチン・トイレ・風呂場がある |
|
併用住宅の床面積 | 住宅部分の床面積が、全体の1/2以上 | |
断熱構造 | 断熱等性能等級2レベル以上の断熱材を施工 |
審査期間について
フラット35では、審査に1~2週間かかります。住宅の購入や建築では、決められた期日までに、購入または建築代金を支払わなければなりません。
住宅を購入・建築する際には、物件の引き渡しスケジュールを不動産会社に確認し、計画的にローンの審査や借入手続きを進めることが重要です。
フラット35の金利推移
次に、フラット35の金利がどのように推移してきたかを紹介します。なお、フラット35の金利は、借り入れる金融機関により差があることは知っておきましょう。
フラット35の金利は、以下の三つの要素により、決定されます。
- MBS(エムビーエス※)を購入した投資家に支払う利息
- 機構が事業運営するための費用
- 取扱金融機関の手数料
上記のうち、取扱金融機関の手数料は金融機関ごとに決まります。よって、借り入れる金融機関により、適用金利に差が出るのです。
(※MBS(不動産担保証券)とは資産担保証券の一つで、住宅ローンの元本や利子の返済資金を裏付ける資産として、発行される証券です。モーゲージ証券とも呼ばれます)
これまでの推移
2011年6月~19年6月における、フラット35の金利の推移は下表のとおりです。なお、借り入れの条件は、借入期間21年以上35年以下・融資率(※)9割以下・団信を付加した場合とします。
年(各6月) | 最低金利(%) | 最高金利(%) |
11 | 2.49 | 3.39 |
12 | 2.01 | 2.89 |
13 | 2.03 | 2.98 |
14 | 1.73 | 2.37 |
15 | 1.54 | 2.15 |
16 | 1.10 | 1.71 |
17 | 1.09 | 1.64 |
18 | 1.37 | 2.01 |
19 | 1.27 | 1.96 |
(※融資率とは、建設費・購入価額に対して、フラット35の借入額が占める割合です。融資率は、フラット35の借入額÷住宅の建築費または購入価格で求められます)
金利決定の指標
フラット35の金利を決定する要因の一つが、10年物国債の利回りです。10年物国債の利回りは、以下で確認できます。
- 各金融機関のマーケット情報ページ
- 日経新聞
今後の予想のポイント
借入額が大きい住宅ローンでは、少しの金利の差が、返済総額に大きな違いを生むこともあります。
住宅ローンを借り入れる際には、今後の金利の動きを予想し、できるだけ金利を抑えられる商品を選ぶことが重要です。今後の金利の推移を予測するには、金利に影響を与えるいくつかの要因を知っておきましょう。
金融政策と景気
金融政策および景気は、金利の推移に影響を与えます。金融政策とは、物価の安定を図るために日本銀行が行う政策です。
金融政策により、金融引き締めもしくは緩和がされたときは、金利は一般的に下表のように推移します。
金融緩和 | 金融引き締め | |
政策の詳細 | 国内に流通するお金を増やす | 国内に流通するお金を減らす |
金利 | 低下 | 上昇 |
また、景気の状態が金利に与える影響は以下のとおりです。
景気がよい | 景気が悪い | |
金利 | 上昇 | 低下 |
景気がよいときは、金利が高くてもローンを借り入れ、物を買いたい人が増えます。よって、景気がよいときは、金利が上がります。
景気が悪いときは、ローンを借り入れる余裕がある人が減るため、金利が低下するのです。
為替レートや海外金利
為替レート(※)および海外金利も、金利の動向に影響します。為替レートによる金利の推移は、下表のとおりです。
円安 | 円高 | |
金利 | 上昇 | 低下 |
円安の局面では、輸入品の値段が上がることにより、物価が上昇します。これにより、さらに物価が上昇する前に物を買う人が増えるため、金利が上昇します。
また、海外金利の推移が金利に与える影響は、下表のとおりです。
海外金利上昇 | 海外金利低下 | |
国内金利 | 上昇 | 低下 |
海外の金利が上昇すると、日本の債券を売却し、海外の債券を購入する人が増えます。そのため、日本の債券の価格が下がり、金利が上昇すると考えられます。
(※為替レートとは、日本の通貨を外国の通貨に交換するときの取引価格(交換比率)です。為替レートは、外国為替市場における為替の取引により変動します)
世界情勢
グローバル化が進んだ現在は、海外で発生した出来事も、日本経済に影響を与えます。海外に比べ、日本国内の資産の方がリスクも少なく魅力があるとされれば、外国からも日本の債券が買われるでしょう。
このような状況になると、債券の価格が上昇し、金利は低下します。
フラット35と統計
17年度に貸し出されたフラット35の統計を、項目別に紹介します。なお、集計期間は17年4月1日~18年3月31日です。
融資区分
貸し出し対象となった物件の比率は、下表のとおりです。
物件の種類 | 件数 | 比率(%) |
注文住宅 | 1万3632 | 17.5 |
土地付注文住宅 | 2万4837 | 31.9 |
建売住宅 | 1万5760 | 20.2 |
マンション | 8181 | 10.5 |
中古戸建 | 6044 | 7.8 |
中古マンション | 9510 | 12.2 |
合計 | 7万7964 | 100.1 |
年収と倍率
世帯年収の統計を、下表に紹介します。
年収(円) | 比率(%) |
399万以下 | 23.1 |
400万以上599万以下 | 40.8 |
600万以上799万以下 | 19.9 |
800万以上999万以下 | 8.2 |
1000万以上1199万以下 | 3.5 |
1200万以上 | 4.5 |
また、物件別の年収倍率(※)は、下表のとおりです。
物件の種類 | 年収倍率 |
注文住宅 | 6.5 |
土地付注文住宅 | 7.3 |
建売住宅 | 6.6 |
マンション | 6.9 |
中古戸建て | 5.1 |
中古マンション | 5.6 |
(※年収倍率とは、平均年収を平均マンション価格で割って計算したものです。年収倍率が低いほど購入しやすく、高いほど購入が難しいとされます)
返済負担率
返済負担率ごとの比率は、下表のとおりです。なお、ここでの返済負担率は、1カ月あたりの返済額÷世帯月収で計算しています。
返済負担率(%) | 比率 |
9.9以下 | 5.2 |
10.0以上14.9以下 | 14.2 |
15以上19.9以下 | 23.8 |
20以上24.9以下 | 25.3 |
25以上29.9以下 | 23.5 |
30以上 | 8.0 |
フラット35金利比較でのおすすめ
最後に、19年6月におけるフラット35の適用金利を、取扱金融機関別に紹介します。それぞれの商品の特徴も、併せて見ていきましょう。
ARUHIスーパーフラット8S
アルヒ株式会社で取り扱う、ARUHI(アルヒ)スーパーフラット8S(エス)の金利は下表のとおりです。
当初10年 | 11年目以降 | |
金利(%) | 0.64 | 0.89 |
ARUHIスーパーフラットは、債務者が住宅ローンを返済できなくなった場合に、住宅金融支援機構が民間金融機関に対し、保険金を支払う仕組みのフラット35です。スーパーフラット8Sには、下表の条件があります。
項目 | 条件 | |
返済期間 | 15~35年 | |
融資比率 | 住宅購入価格の80%以下(残り20%は手持金) | |
返済負担率 | 年収400万円未満 | 30%以内 |
年収400万円以上 | 35%以内 |
ARUHI スーパーフラット | ARUHI 住宅ローン | アルヒ株式会社
楽天銀行 フラット35S
楽天銀行で取り扱うフラット35S(エス)の金利は、下表のとおりです。なお、融資比率は90%以内とします。また、金利が適用されるのは、返済期間中の当初10年です。
返済期間 | 適用金利(%) | |
団体信用生命保険あり | 団体信用生命保険なし | |
15年以上20年以下 | 0.96 | 0.76 |
21年以上35年以下 | 1.02 | 0.82 |
フラット35Sも業界最低水準金利の楽天銀行|住宅ローン|楽天銀行
みずほ銀行 フラット35
みずほ銀行のフラット35では、融資手数料を以下の2種類から選べます。
- 手数料定額型:手数料が定額。借入時の負担を抑えられる
- 手数料定率型:手数料は、借入金額に手数料率を乗じて計算。毎月の返済額を抑えられる
融資率が90%以内の場合、適用される金利は下表のとおりです。
手数料の種類 | 返済期間 | 金利(%) | |
基準金利 | 割引プラン(※) | ||
定額型 | 15~20年 | 1.43 | 1.33~1.35 |
21~35年 | 1.49 | 1.39~1.41 | |
定率型 | 15~20年 | 1.21 | |
21~35年 | 1.27 |
融資率が90%超100%以内の場合の金利は、下表になります。
手数料の種類 | 返済期間 | 金利(%) | |
基準金利 | 割引プラン | ||
定額型 | 15~20年 | 1.87 | 1.79 |
21~35年 | 1.93 | 1.85 | |
定率型 | 15~20年 | 1.65 | |
21~35年 | 1.71 |
(※割引プランは、みずほマイレージクラブへの入会および、みずほダイレクトの契約・給与振込の取引がある人が対象です)
長期固定金利住宅ローン「フラット35」(機構買取型) | みずほ銀行
まとめ
フラット35は、全期間固定金利型の住宅ローンです。適用される金利や借入条件の詳細は、取引する金融機関により異なります。
フラット35の借り入れを検討している人は、いくつかの金融機関で相談し、比較検討してみてはいかがでしょうか。