海外FXと国内FXの税金の違い
国内のFX業者を使う場合でも、海外業者を使う場合でも、取引から得た利益は課税対象になり、納税の義務が生じます。
しかし、海外の業者を使用する場合は、国内業者とは適用される課税方式が異なります。
国内は申告分離課税
国内のFX業者は、すべて『金融商品取引法』に基づく登録を受けた業者です(登録なくFX業を営むことは違法です)。
このような業者を通して行ったFX取引の利益は、税制上の『先物取引に係る雑所得等』とされ、他の所得(たとえば給与所得や事業所得)から分離し、単独で税額が計算される『申告分離課税』が適用されます。
申告分離課税は毎年の確定申告で税額を決定し、その際適用される税率は所得額に関係なく一律です(2017年度現在の税率は、20.315%)。
No.1521 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係|所得税|国税庁
海外は累進課税
同じFXであっても、海外に存在する業者は『金融商品取引法』の規制対象外で、その業者を通し得た利益は、『雑所得』として扱われます。
そして『申告分離課税』とはならず、所得額に応じ税率が決まる『累進課税制度』が適用されます。
実際には、課税所得額に税率をかけた数字から、控除額を差し引いた金額と復興特別所得税額を合算した金額が納税額となり、毎年の確定申告で納付します。
2018年1月時点での税率は所得額に応じ、以下に示す7段階となっています。
課税される所得額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円を超え1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
海外FXで注意すること
海外FX業者を通して取引を行う場合は、納税に関していくつか注意点があります。
課税対象者
基本的には、海外FX業者からの利益は税制上の雑所得として扱われるため、所得額に対応した税率に従い、納税を行わなければいけません。
ただし、いくつかの場合は、その課税対象から外れます。
- 給与所得者で海外FXからの利益が20万円以下の人(年末調整の後に確定申告をする義務が発生しないため)
- 給与所得者以外で、海外FXを含めた総収入が38万円以下の人(基礎控除額に満たないため)
国内FXとの損益通算ができない
仮に、海外FX業者を通して損失が生じていても、国内業者を通して得た所得額から控除(差し引くこと)はできません。また、逆の場合も同様です。
海外と国内で個別に損益を計算し、どちらかに利益が生じた場合は、他の一方が大きな損失であっても納税義務が発生します。
損失の繰り越し損益通算ができない
国内FX業者を通して生じた損失であれば、翌年以降の3年間にわたり繰り越して、その各年の(FX取引による)所得額から控除(損益通算)することが認められています。この場合は損失額を分割し、のちの3年間に得る利益を相殺することが可能です。
一方、海外FX業者を通して生じた損失は、翌年以降に繰り越す処理が認められないので注意が必要です。
海外在住の方がFXを行う場合の注意点
海外赴任などの事情で、日本国外に住む『非居住者※』となった場合も、FX取引を行う上でいくつかの注意点があります。
(※日本国内に住所を持たず、国内の居住期間が継続した1年に満たない人のことです。)
国内FXの利用は難しい場合が多い
日本国内で開業するFX業者の多くは、(その人がたとえ日本人であっても)海外居住者の口座開設を認めていないのが実情です。
したがって、海外から改めて口座を開設することは困難になるほか、すでに所有している口座を継続使用することも制限される可能性があります。
国内FXは日本の税金がかかる
日本の税法では、海外在住の人であっても、『国内にある資産の運用、または所有により生ずる所得(国内源泉所得)』は課税対象とされています。
海外からインターネットで取引の指示を出す場合でも、FXの口座が日本国内に置かれていれば上記の所得とみなされ、確定申告および納税を行う義務が生じます。
海外FXなら問題なく利用可能
当然のことながら、居住する国内で開業しているFX業者のサービスは、ほぼ問題なく利用することが可能です。
また、日本国内から口座を開設できる海外のFX業者は、海外に居住した後も同じように使えると考えて問題ありません。
海外FXの節税対策
上記のとおり、所得額の増加に応じて税率が上がってゆく海外FXの取引ですが、必ずしも利益(収入)の全額に課税されるというわけではありません。
ここでは、利益にかかる税金を節約する手段をご紹介します。
経費として計上する
事業所得などと同様に、FXから利益を得るために直接必要であった支出(経費)は、その対象の所得額から控除することが認められています。
経費が他の家事費用と重なる場合も、取引の記録などにより証明できる範囲であれば、経費として計上することが可能です。たとえば、FX取引を行っているアパートの家賃なども、その何割かが経費として認められる可能性が高いです。
FX取引に必須とも言えるパソコンの購入費や、インターネット接続にかかわる費用、投資セミナーの参加費用、あるいは関連書籍の購入代金なども、上記と同様に経費として扱えます。
節税のためには、その出費が経費であることを証明できる記録や資料を、日常からしっかりと保存し、確定申告の際に申告する必要があります。
海外移住を考える
日本の所得税法では国内に住所を持たず、連続した1年間の滞在歴がない人(非居住者)の場合は、国内に置いた資産を用いて得た所得(国内源泉所得)にのみ、課税することになっています。
つまり、理論的には生活を完全に海外に移し、海外の銀行口座とFX口座を使用して利益を得た場合は、日本人であっても日本の課税対象からは外れます。
とはいえ、移住先の税法には従わなければなりませんが、中には他国と比べ顕著に低い税率を設定している国もあり、FXなどで大きな利益を上げる人々(もしくは法人)が、世界中からそういった国へ移住するという動きもあります。
No.2873 非居住者等に対する課税のしくみ(平成29年分以降)|源泉所得税|国税庁
No.2878 国内源泉所得の範囲(平成29年分以降)|源泉所得税|国税庁
法人設立
海外FX取り引きから、ある程度以上の利益を継続的に得るようになった場合は、その業務を行う法人の設立(会社を立ち上げる)ということも、検討すべき事項になってきます。
法人に対して課される税率は、年の所得が800万円を超える場合でも23.2%(平成30年4月1日以降)であり、これが上限です。数字の比較だけで言うなら、個人の所得税率の最大値45%の半分程度に抑えられることになります。
とは言え、法人として稼いだ利益から、経営者は給与の形で収入を受け取ることになるので、その収入には所得税がかかることは変わりません。
法人設立に関しては、税率と資産の管理などを含めて、充分な検討と準備が必要です。
まとめ
FXの取引は使用する業者が国内か海外かによって、投資行為としてはほぼ同じ内容であっても、利益に課せられる税金の扱いが全く異なるので注意が必要です。
ケースによっては、海外FX業者を使った場合の納税額が大きくなることも有り得えますが、必要経費などをしっかり管理・申告することで、無駄な税金の支払いを防ぐことは可能です。
また、海外FXからの利益が非常に大きい場合は、海外移住や法人設立といったことも節税のための検討事項となります。