分配金の基礎知識
投資信託では、運用により得た利益を運用成果や分配方針などに応じて、投資家に還元する『分配金』があります。
分配金の金額や支払いの有無は、決算日に投資信託の資産と負債を計算し、財務内容を明らかにした上で運用会社により決められます。
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投資信託は運用のプロが投資する
投資信託の販売により集めた資金は1つまとめられ、購入者に代わり運用会社が資産を運用します。
投資信託は、以下の3つの機関によって運用・管理されます。
機関 | 役割 |
運用会社 | 投資信託の開発・組成と運用を行う |
販売会社 | 投資家への販売や相談窓口の役割を担う。銀行・証券会社・郵便局などの金融機関が販売会社に当たる |
受託会社 | 投資資産を管理・保管する。信託銀行である場合が一般的 |
運用会社では、資産運用の専門家であるファンドマネージャーが受託会社に対し、株式や債券などの売買といった運用の指示をします。受託会社はその指示に従い、株式や債券の売買などを行います。
分配金の種類
分配金には『普通分配金』と『特別分配金』があります。普通分配金は、投資信託の運用益から支払われる分配金です。
特別分配金は『元本払戻金』とも呼ばれ、運用益を超えて支払われる分配金をいい、超える部分は個別元本(※)から支払われます。
仮に、決算時の運用益が1000円の投資信託で分配金が1500円(税引前)であれば、その内訳は普通分配金が1000円、特別分配金が500円です。
(※個別元本とは、販売手数料を除いた投資信託の購入時の値段をいい、追加購入や特別分配金の支払いなどで変わります)
計算方法
決算日の基準価額(※)(分配金受取後額)が個別元本(分配金受取前額)を下回っている場合は、以下により普通分配金と特別分配金の計算ができます。
- 特別分配金=個別元本 - 決算日の基準価額(分配金受取後額)
- 普通分配金=分配金 - 特別分配金
1例として以下のケースを計算します。
個別元本:1万円、決算日の基準価額:9000円、分配金:2000円
特別分配金1000円=1万円-9000円
普通分配金1000円(税引前)=2000円-1000円
(※基準価額とは、投資信託1口当たり(もしくは1万口当たり)の時価をいい、営業日ごとに計算されます)
分配金の主な受取方法は2つ
分配金の主な受取方法として、『受取型』と『再投資型』があります。
受取型
受取型は、決算ごとに分配金が投資家へ支払われます。ただし、分配金の支払いや金額は、運用結果によって左右されるので、金額が増減することや支払いがないこともあります。
また、定期的に分配金が支払われていても、特別分配金である可能性があるため、詳細をきちんと確認しましょう。
再投資型
再投資型では、分配金は自動的に同じ投資信託の購入に回されます。
決算ごとの分配金は受け取れませんが、運用が順調であれば税金を差し引いた分配金が個別元本に加わることから、投資資金が増えていきます。
分配金再投資のメリットとデメリット
ここでは、分配金再投資のメリットとデメリットについて説明します。
複利効果
再投資型のメリットの1つは、『複利効果』を得られる点です。投資信託における複利効果とは、分配金を投資に再び回すことにより、利益がさらに利益を生む効果のことをいいます。
複利効果は、投資期間が長期になるほど大きな効果が期待できるため、再投資型は長期運用に向いた投資信託であるといえます。
投資信託100万円を、想定利回り年5.0%で運用するケースを見てみましょう。運用益の全額を分配金とした場合、元本+運用益は、受取型と再投資型で以下の結果となります。
運用年数 | 受取型 | 再投資型 |
1年目 | 105万円 | 105万円 |
3年目 | 115万円 | 115万7625円 |
5年目 | 125万円 | 127万6282円 |
7年目 | 135万円 | 140万7100円 |
10年目 | 150万円 | 162万8895円 |
(※金額はシュミレーションツールにより計算した数値です)
野村證券 | マネーシミュレーター「みらい電卓」~運用編(資産運用シミュレーション)
減配もあり得る
再投資型の場合、運用による損益は投資信託の売却により確定します。仮に運用中に評価益が出ていても、売却時に損失に転じていれば利益は受け取れず、資産が減る結果となります。
知っておきたいポイント
分配金の手数料や課税についてなど、知っておきたいポイントを紹介します。
分配金の受取や手数料の支払いはいつか
分配金は、商品ごとに決められている決算日以降に支払われます。
また、投資信託の購入や運用に必要な手数料は、一般的に以下があります。投資信託ごとに詳細が異なるため、目論見書(もくろみしょ※)で確認しましょう。
支払いのタイミング | 手数料 | 内容 |
購入時 | 販売手数料 | 基準価額に一定率をかけた額を、購入時に販売会社へ支払う |
募集手数料 | 単位型の投資信託では募集価額に含まれ、追加型では募集価額に一定率をかけた額となる | |
運用期間中 | 信託報酬 | 運用コストや報告書の作成、資産の保管などに要する費用 |
監査報酬 | 監査法人から監査を受けるために要する費用 | |
売買時 | 売買委託手数料 | 株式などを売買する際に発生する費用 |
換金時 | 信託財産留保額 | 主に解約時に手数料とは別に徴収される費用で、信託財産の中に留保される |
(※目論見書とは、投資信託の内容や売出し条件など、投資判断に必要な重要事項が記載された文書のことです)
受取でも再投資でも税金はかかる
受取型と再投資型のどちらであっても、普通分配金には20.315%(所得税(復興特別所得税を含む)15.315%、住民税5%)の税金がかかります。
一方、特別分配金は、単なる元本の払い戻しであり収益ではないため、課税対象となっていません。
例えば、基準価額1万円のときに購入した投資信託が決算日を迎え、普通分配金が500円(税引前)の場合を見てみましょう。
分配金にかかる税金『500円×20.315%=101円(1円未満切り捨て)』が販売会社により源泉徴収され、399円(500円 - 101円)が受取額となります。
無分配の場合は保有中に税金がかからない
『無分配型』の投資信託には、税金がかかりません。無分配型とは、分配金を投資家に支払わずに投資信託の中に資産として蓄積し、投資に回すタイプの商品です。
そのため、再投資型よりもさらに複利効果が期待できます。
NISAの場合の注意点
『NISA(ニーサ)』とは、NISA口座で購入した株式や投資信託など売却益や配当金が非課税となる制度です。よって、普通分配金であっても税金はかかりません。
NISA口座の開設は1人1口座となっています。なお、『一般NISA』と『つみたてNISA』がありますが併用はできません。
NISAには、以下の条件が定められています。
項目 | 一般NISA | つみたてNISA |
年齢 | 20歳以上 | 20歳以上 |
非課税投資枠(1年毎に設定) | 120万円 | 40万円 |
非課税期間 | 5年間 | 20年間 |
投資可能期間 | 2023年 | 2037年 |
NISAを利用する際には、分配金に関して以下の注意が必要です。
- 分配金の受取により生じる非課税枠の空き枠は、再利用できない
- 分配金の再投資は購入とみなされ、非課税投資枠に加算される
- 他口座との損益通算はできない
分配金と確定申告
ここでは、分配金の確定申告について説明します。
原則として申告は不要
投資信託の分配金は、銀行など販売会社により源泉徴収されるため、確定申告は原則不要です。
ただし、売買益に関しては、源泉徴収ありの特定口座での取引を除き、原則確定申告が必要です。
損益通算について
損益通算とは、毎年1月1日~12月31日までの間に、投資信託や株式などの取引で発生した損益を相殺することをいいます。取引で損失がある場合は確定申告をすることで、損益通算により税金が還付される可能性があります。
例えば、1月1日~12月31日までの取引が以下であるとします。
A投資信託:普通分配金10万円の受取、B株式の売却により5万円の損失
C投資信託:売却により10万円の損失
損益通算すると、『A投資信託10万円 - B株式5万円 - C投資信託10万円= -5万円』となります。損益通算により0円以下であれば課税されません。
よって、このケースでは、すでに源泉徴収されている分配金の税金『10万円×20.315%=2万315円』が戻ってきます。
仕訳について
個人事業主やフリーランスでは、仕訳帳の記入が必要な場合があります。所得税や住民税は経費として計上できないため、勘定科目に事業主貸や仮払金を用いて、通常の経費と区別して仕訳します。
例えば、分配金1万円(税引前)が源泉徴収後、事業用の普通預金口座に振り込まれた場合、源泉徴収額は『1万円×20.315%=2031円(1円未満切り捨て)』となり、それぞれの条件下における仕訳は以下の通りです。
投資信託:受取型、分配金:普通分配金
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
普通預金 | 7969円 | 受取配当金 | 1万円 |
仮払金 | 2031円 |
投資信託:受取型、分配金:特別分配金
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
普通預金 | 1万円 | 投資有価証券 | 1万円 |
投資信託:再投資型、分配金:普通分配金
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
投資有価証券 | 7969円 | 受取配当金 | 1万円 |
仮払金 | 2031円 |
まとめ
受取型の投資信託は、分配金を自由に使えますが特別分配金である可能性もあるため、詳細の確認が必要です。
再投資型は、複利効果により効率的に資産を増やすことが可能で、長期運用において有利となります。ただし、運用成果は売却時に確定するので、売却のタイミングに注意しましょう。