遺留分減殺請求について知ろう
民法では、相続が発生した際、誰がどれだけの割合で相続するかということが定められています。この割合を『法定相続分』といいます。仮に、遺言が作成されている場合は、法定相続分よりも,遺言のほうが優先されます。
ただし、遺言によってあまりに著しく法定相続分を侵害できないよう、法定相続人(兄弟姉妹を除く)には,最低限度の取り分が確保されています。これを『遺留分』といいます。この遺留分を請求する権利が『遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)』です。
遺留分減殺請求を行う場合とは
被相続人(亡くなった人)が、遺言や生前の贈与で財産のすべてを特定の子どもだけに譲った場合や、面倒を見てくれた施設や団体に全財産を寄付した場合など、遺留分が侵害された場合に遺留分減殺請求を行います。
遺留分減殺請求ができる人
遺留分減殺請求ができる人のことを『遺留分権利者』といいます。誰が遺留分権利者となるのかは民法で定められています。
民法上、遺留分権利者となるのは、『配偶者・子およびその代襲相続人・直系尊属』です。つまり、『兄弟姉妹を除く法定相続人』になるということです。
これらの人であっても相続放棄をした人や相続権を剥奪された人などは、相続する権利がないので遺留分減殺請求権もありません。
遺留分減殺請求の時効と判例
遺留分減殺請求には時効があります。このことは、民法1042条に2種類の時効について規定されています。遺留分減殺請求権の2つの時効について判例を交えてみていきましょう。
消滅時効は1年間
遺留分減殺請求権は、相続分権利者が『相続の開始』あるいは『減殺すべき贈与又は遺贈があったこと』を知ったときから1年が経過すると、時効によって消滅してしまいます。この1年間の消滅時効については、時効の計算開始日がよく問題となります。
『相続の開始』とは、被相続人が死亡した場合のことをいいます。『減殺すべき贈与又は遺贈があったこと』とは、単に贈与や遺贈の事実を知っただけではなく、遺留分が侵害され減殺できることを知ったときからと捉えられています。
これを裏付ける判例が、最高裁第二小法廷昭和57年11月12日判決です。贈与が無効だと信じ遺留分減殺請求しなかった相続人に対し、『贈与の事実を知ったことが遺留分の侵害を知ったことになる』と判示しています。
除斥期間は10年間
『除斥期間(じょせききかん)』とは『一定期間権利を行使しないことにより,その権利を失うことになる期間』のことをいい、遺留分権利者の認識に関係なく、相続開始のときから10年を経過すると遺留分減殺請求はできなくなります。
遺留分減殺請求権には中断という考えはなく、期間内に1度でも権利を使用すれば,除斥期間によって権利が消滅することはなくなります。
また、減殺請求の結果から生じた登記請求権などの『物権的請求権』は、『所有権』という絶対的な権利から発生するため『時効消滅しない』と判定で示しています。(最高裁第一小法廷昭和57年3月4日判決)
時効取得と遺留分減殺請求
相続された不動産などの時効取得には問題になるケースがあります。ここでは、相続の時効取得についてみておきましょう。
時効取得とは
『時効取得』とは、他人の所有物を一定期間占有していた場合、占有者に所有権が移ることをいいます。たとえば、他人の建物や土地に勝手に居座っていると、それを自分のものとして主張できるということです。
ただし、長期間占有したからといって、無条件に所有権が得られるわけではありません。時効取得には次のような要件があります。
- 所有の意思があること
- 平穏かつ公然の占有であること
- 他人のものを一定期間占有していること
時効取得に関する判例
たとえば、兄が数十年前に父の所有していた建物を生前贈与され、長期間占有していたとします。父が亡くなり相続の際、自分の遺留分が侵害されていた場合、長期間占有していた兄に対し、遺留分減殺請求を行うことができるでしょうか。
最高裁平成11年6月24日判決では、以下の判決がなされています。
遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられない。
つまり、相続開始時より数十年前になされた贈与で、長期間占有していた場合であっても、時効取得を主張することはできず、遺留分減殺請求を行うことができるということです。
遺留分減殺請求は内容証明で
遺留分が侵害された場合、遺留分を侵害している相続人や受遺者に対して遺留分の減殺請求をする必要があります。実際どのような方法で手続を進めるか確認していきましょう。
請求方法と費用
遺留分減殺請求をするには、まず相手に『遺留分減殺請求通知書』を送付します。これには、確実に証拠が残るように配達証明付きの『内容証明郵便』を使うのが一般的です。この場合、かかる費用は1,000円~1,500円程度です。
また、弁護士に依頼することもできます。この場合、内容証明郵便を作成してもらうだけで、手数料として3万円~5万円程度かかります。さらに、相手方との交渉にかかる着手金・報酬金なども発生します。
内容証明とは
『内容証明』とは、いつどのような内容で誰から誰宛てに出されたか、『内容文書の存在』を証明するもので、郵便局と差出人の手元に、相手へ送ったものと同じ内容の控えが残ります。
請求後の流れ
請求した後は、裁判外の交渉からはじまります。話がつかなければ、家庭裁判所に調停を申し立てます。
調停でもまとまらない場合は、訴訟という方法があります。訴訟は、地方裁判所(140万円以下の場合は簡易裁判所)で提起します。
訴訟を起こしても、自分の希望通りの解決にならないこともあります。また、調停や訴訟において和解が成立しても,相手方がそれを支払ってくれなければ,別に民事執行の手続をとる必要があります。
困ったときは弁護士に相談しよう
遺留分減殺請求には、簡単には解決できないケースがいくつもあります。遺留分を計算したり相手と交渉したりするなど専門家でないと難しいことも多いので、弁護士の力を借りることをおすすめします。
相談費用の相場
相談費用などの料金体系は法律事務所や弁護士によって異なりますが、日本弁護士連合会(日弁連)が定めた『弁護士報酬の基準』をもとに料金体系を決めているところが多いです。
法律相談に必要な費用は、30分あたり5,000円~2万5,000円程度が相場です。初回相談は無料にしている法律事務所もあります。また、市区町村役場や各地にある弁護士会で無料法律相談を実施しているところもあります。
相談したほうが良いケースとメリット
遺留分減殺請求をすると相手と交渉しなければなりません。相手が親族の場合、お互い感情的になるケースが多く、解決までに時間がかかってしまう恐れがあります。相手が親族や直接話したくない場合は、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
また、弁護士によるサポートは精神的な支えになってくれます。調停や訴訟まで至ると、手続は複雑になるうえ精神的にも追い詰められる可能性があります。弁護士のサポートがあると心強く感じ、不安を抑えられるメリットがあります。
まとめ
遺留分減殺請求には、相続の開始と遺贈や贈与を知ってから1年以内という期限があります。また、遺留分権利者の認識に関係なく、相続開始から10年を経過すると請求権がなくなります。まずは、内容証明郵便を使って遺留分減殺通知をしましょう。
遺留分減殺請求は一般の方が思っている以上に、複雑な手続です。遺留分減殺請求をしたいと考えているなら、無料の相談窓口や法律相談を活用してはいかがでしょうか。