退職後の健康保険
日本では基本的にすべての国民が、何らかの公的な『健康保険』に加入しなければなりません。これが、医療にかかる負担をお互いに相互扶助する、いわゆる国民皆保険の制度です。
会社勤めの人は、勤務先が健康保険組合に加入しているので、その組合からさまざまな医療保険サービスを受けられます。しかし、保険料が毎月の給与から天引きされるので、自分で加入している意識が薄くなりがちだともいえます。
そんな会社員も退職することになると、それまで会社が行ってくれていたさまざまな手続きから切り離されます。そして、健康保険についても、どのように処理するか自分で決める必要が生じてきます。
3つの加入方法
会社が加入している健康保険からは、基本的には退職した時点で被保険者(保険に加入している人)としての資格が喪失されます。そして、その後の健康保険をどうするかについて、以下のように3つの選択肢があります。
- 国民健康保険に加入する
- 被扶養者となり、働いている家族の健康保険に加入する
- 健康保険任意継続の手続きを行う
会社の健康保険を抜けるのであれば、基本的には上記の1と2のどちらかへ進むことになりますが、一定の条件を満たしていれば上記3の健康保険任意継続によって、それまでの保険を継続的に受ける資格が得られます。
任意継続とは
従業員が会社を退職する際に希望すれば、個人の資格でそれまでの健康保険サービスを継続して受けられるというのが、健康保険の任意継続です。
これにより、転職する人が次の職に就くまでの空白期間においても、安定した医療保険サービスなどが受けられます。
任意継続を受けるための基本条件は以下の2つです。
- 退職日までに継続して2カ月以上の被保険者期間がある
- 離職した日から20日以内に任意継続被保険者資格取得申出書(後述)を提出している
会社を退職するとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
年金には任意継続はない
従業員に対して会社が提供している社会保険には、健康保険の他に、もうひとつ『厚生年金保険』があります。
2つの保険とも、会社が保険料の半額を支払ってくれるということで、被保険者である従業員としては同じようなものに感じるところですが、厚生年金保険のほうには、健康保険のような任意継続制度はないので、留意しておきましょう。
基本的には、会社を辞めた時点で年金は厚生年金から国民年金(※)へ自動的に切り替わっているとみなされます。その後、次の就職先が決まった際に、再び厚生年金へ再加入という流れになります。
※制度上では、国民年金を国民年金第1号、厚生年金を国民年金第2号と呼び、保険料やのちに受給される年金額に差が出ます
保険料の計算方法
健康保険の任意継続を行うと、退職後も在職中と変わらない保険サービスが受けられますが、納める保険料については変更があります。
在職中は、会社と自分の間で毎月納める保険料を折半しますが、退職後はその保険料の全額を被保険者が支払うことになります。
任意継続の計算方法
通常、健康保険料は、月々の給与を段階的に等級分けした『標準報酬月額』に応じた保険料率をかけて算出します。
任意継続の場合は、退職時点の給与をそのまま適用して保険料が計算されるわけですが、標準報酬月額の上限は28万円と決められています。また、実際に支払う健康保険料の金額は、加入している保険組合によって違ってきます。
一例として、平成30年度の『全国健康保険協会(協会けんぽ)』の、東京における保険料率は9.9%となっています。標準報酬月額が最も高い28万円のケースで毎月支払う保険料は27,720円(全額分)です。
平成30年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
国保の計算方法
国民健康保険は、各自治体(市区町村)が管理運営しているので、自治体ごとに保険料には差があります。
保険料の内訳は、以下のように大きく3つの区分があります。
- 健康保険に充てる医療給付分
- 後期高齢者の支援金などに充てる後期高齢者支援金分
- 介護保険料に相当する介護納付金分(40歳以上65歳未満の人が納付)
さらに、上記それぞれの区分は、以下のように構成されています。
- 総所得(所得額から33万円を控除)に保険料率をかける所得割
- 固定資産税額に保険料率をかける資産割
- 保険加入者の人数に均等金額をかけて決まる均等割
- 世帯に均等金額がかかる平等割
国民健康保険料の一例として、東京都内市町村における2017年度の国民健康保険料を、下のリンクに添付しておきます。
平成29年度国民健康保険税(料)率等の状況
保険料額について 東京都福祉保健局
任意継続を選択するメリット
会社を退職する際、健康保険を任意継続にする具体的なメリットには、どのようなものがあるでしょうか。
退職前と保険給付内容が変わらない
基本的には、在職中と同じ保険内容が継続して受けられることが最大のメリットといえます。
たとえば、在職中に人間ドックなどの助成をしている保険組合に入っていた人は、任意継続後も同様の仕組みを利用できます。
ただし、傷病手当金や出産手当金については、在職中にすでに受けているかその資格を持っている場合以外は、任意継続の後に受け取ることができないので、注意が必要です。
扶養も適用できる
在職中と同様に、自分の健康保険に(扶養)家族も加入させ続けることが可能です。ただし、この場合も以下のような条件があります。
- 同居している家族の場合は、家族の年収が130万円未満で被保険者の年収の2分の1未満であること
- 別居している家族の場合は、家族の年収が130万円未満で、被保険者からの仕送り額より少ないこと
また、同居しているのであれば、加入者本人の兄姉、配偶者の人の父母その他も、任意継続の扶養家族とすることが可能です。
任意継続の加入手続きについて | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
給料が高かった人におすすめ
保険料支払いが全額自己負担となる健康保険の任意継続ですが、その金額の算出基準となる標準報酬月額には28万円の上限が決められています。
したがって、在職中この額より高額の給与を受け取ていた人は、任意継続により保険料額が割引される場合もあります。
この点では、国民健康保険に加入するより、可能な限り任意継続を利用したほうが経済的だといえます。
保険の任意継続でも出産手当金はもらえる?受け取る方法と条件とは
任意継続にはデメリットも
上記のとおり、仕事を退職する人に数々のメリットをもたらす健康保険の任意継続ですが、デメリットも存在します。
2年間の期間限定
まず、デメリットとして意識しておきたいのが、任意継続として健康保険を使い続けられる期限は、2年間と決められている点です。
この期限を過ぎると資格を失ってしまうので、その時点において国民健康保険に加入するか、他の人の扶養家族になる、あるいは、次の勤務先で新たな健康保険に入り直すなど、どれかを選択しなければなりません。
滞納すると即資格喪失
健康保険の任意継続は、保険料を月の1日から10日の間に納付する決まりとなっており、その時期に納めなかった場合は、被保険者の資格を失います。
したがって、保険料の滞納により資格喪失にならないよう、十分な注意が必要です。
退職後の保険は任意継続すべきか?メリット、デメリット徹底比較
任意継続の加入手続き
会社を退職し、健康保険を任意継続すると決めた場合、必要な手続きとはどのようなものでしょうか。
20日以内の手続きが必須
上記のとおり、健康保険を任意継続をするためには、退職した翌日から20日以内に書類による手続きを、勤務先が加入している健康保険組合に行わなければなりません。
その際、扶養家族の保険継続を望むのであれば、その旨の申請も必要です。
必要書類
任意継続に必要な書類は以下のとおりです。
- 任意継続被保険者資格取得申出書(任意継続の申込用)
- 被扶養者届(家族を扶養することの申込用)
- 扶養の事実を確認できる書類(家族の所得を証明する、源泉徴収票や非課税証明書、確定申告書の写しなど)
扶養家族に関する書類は、家族を同じ健康保険に加入させたい場合だけに必要になります。
再就職した際の脱退手続き
健康保険を任意継続中に再就職すると、新しい健康保険組合に加入することになります。この場合、以前の健康保険から継続していた加入者資格は失くなります。
また、就職だけでなく、後期高齢者医療の被保険者資格を取得した場合も、健康保険からは抜けることになります。
任意継続被保険者の資格喪失 | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
資格喪失申出書と保険証の返却
上記のような場合に加え、任意継続が2年を経過した人や、所定の納付期日までに保険料を支払わなかった人は被保険者の資格を失うので、『資格喪失申出書』を健康保険組合に提出し、脱退の手続きをしなければなりません。
同時に、保険証は組合に返却することとなります。
まとめ
会社勤めの人は、勤務先を通じて健康保険証を受け取っています。したがって、基本的には、退職する時点で保険証を返却しなければなりませんが、一定の要件のもとで、健康保険を任意継続することも可能です。
ただし任意継続は、退職した翌日から20日以内に、申請書類を提出しなければなりません。また、任意継続中の健康保険料は、加入者が全額負担することになります。
任意継続の手続きを行うと、扶養家族の健康保険をカバーすることや他の医療保険サービスなども、在職中と同様に受けられます。
健康保険の任意継続は、保険料を期日内に納めないと直ちに資格を失ってしまうので、毎月の納付期日には十分気をつける必要があります。