法人契約のがん保険の特徴
『法人』が契約する『がん保険』は、法人が契約者(※1)、会社役員や従業員が被保険者(保障を受ける人)となり契約する保険です。
がん保険を契約すると、所定のがんと診断されたもしくは、所定の治療を行ったときに、給付金(※2)を受け取れます。がん保険で保障される給付金の一例は、以下のとおりです。
- 診断給付金
- 入院給付金
- 手術給付金
- 通院給付金
ここではまず、法人契約がん保険の特徴を見ていきましょう。
(※1:契約者とは、保険会社と契約を行う人です。保険の契約における権利や義務を持ち、契約内容の変更の請求ができるほか、保険料も支払います)
(※2:給付金とは、けがや病気などで入院や通院・手術などをした場合に、保険会社から受け取るお金です。保険金とは異なり、給付金が支払われたあとも、保険契約は継続します)
福利厚生に使えるところが多い
法人が契約するがん保険の特徴の一つは、従業員の『福利厚生』に利用できる点です。法人契約がん保険の保障には、以下の効果があります。
- 経営者のがん治療に備える
- 従業員のがん治療に備える
- 従業員の退職金を準備する
手厚い福利厚生は、従業員のモチベーションアップに繋がります。保険を利用することで、従業員が安心して前向きに業務できる環境作りを目指しましょう。
保険料が高い分保障が大きい
法人が契約するがん保険は、個人で契約する保険に比べ保険料が高く設定されますが、その分保障内容が大きい点も特徴です。
保険の契約では一般的に、保障内容を充実させると、保険料が上がります。保障内容を重視するあまり、高すぎる保険料の保険を契約してしまい、保険料が支払えない状況になることは防がなければなりません。
法人で契約するにあたっては、保障内容と保険料を確認し、財務状況や企業の規模に合った保険を選びましょう。
法人契約がん保険のメリット
法人によるがん保険の契約では、福利厚生を充実させる以外にも、いくつかのメリットがあります。がん保険を検討する材料として、知っておきましょう。
損金計上で節税対策
法人が加入するがん保険に対して支払った保険料は、『損金』(※1)として計上できます。これは、保険料が会社の費用として認められるからです。
保険料を損金として計上すると、課税される所得が減るため、課税される税金の軽減を図れます。支払った保険料に対し、どのくらいの割り合いが損金として認められるかは、以下のポイントにより異なります。
- 給付金(保険金)の受取人が誰か
- 解約返戻金(※2)の有無
- 保険期間(※3)が終身か定期か
- 保険料払込期間が終身か定期か
保険を契約することによる節税効果を、いくつかの商品でシミュレーションし、比較検討するとよいでしょう。
(※1:損金とは、企業が収益を得るために使った費用・減価・損失のうち、益金(収益)から差し引ける金額をいいます。益金から損金を差し引くことで、税金額が減少します)
(※2:解約返戻金とは、保険を解約したときに受け取れるお金です。受け取れる金額は、保険により異なります)
(※3:保険期間とは、契約による保障が続く期間です。保障期間が一定期間に限られる定期保険と、一生涯に渡り保障が続く終身保険があります)
退職金にできる
法人が契約したがん保険は、『解約返戻金』を従業員の退職金として活用することもできます。その場合、在職中は保険として保有し、退職時に解約をすることで、解約返戻金を退職金として利用するのです。
解約返戻金の金額は、解約するタイミングにより異なります。解約するタイミングによっては、払込保険料の90%を超える解約返戻金を受け取ることも可能です。
しかし、契約から短期間で解約した場合などは、ほとんど解約返戻金を受け取れない可能性もあります。退職時にまとまった金額を得られるよう、あらかじめ解約返戻金額のシミュレーションを確認することが重要です。
満了後の名義変更が可能
法人契約がん保険では、法人が契約者、従業員が被保険者です。しかし、契約後に契約者を従業員の個人名義に変更することもできます。名義を引き継ぐことによるメリットは、以下のとおりです。
- 法人を通さず保障が受けられるようになる
- 保険料を支払わなくてよい(※1)
- 引継後に解約すれば、解約返戻金を受け取れる
先述のとおり、個人契約の保険に比べ、法人契約のがん保険は保障が手厚くなっています。法人契約の保険の名義を変更すれば、個人でも保障の大きな保険を得ることが可能です。
なお、名義変更による課税の有無は、以下のとおりです。
- 解約返戻金相当額を法人に支払う:課税なし
- 解約返戻金相当額を法人に支払わない:課税あり(※2)
(※1:保険料を支払わなくてよいのは、保険料支払期間終了後に名義を変更した場合です)
(※2:課税の対象となる場合、解約返戻金相当額が給与所得(退職の場合は退職所得)となります)
受取人が法人の場合の取り扱い
ここからは、損金として計上できる保険料の金額を、がん保険の契約内容別に見ていきましょう。まずは、下表のケースを紹介します。
項目 | 該当する人 |
契約者 | 法人 |
被保険者 | 役員・従業員 |
給付金受取人 | 法人 |
期間が定期のケース
保険期間が定期の保険を契約している場合、 原則として支払った保険料は、保険期間の経過に応じて損金となります。
期間と支払いがともに終身のケース
保険期間および保険料の支払期間が終身の契約における損金の計算方法は、下表のとおりです。なお、損金を計算するにあたっての保険期間は、保険加入時の年齢から105歳までとします。
区分 | 保険料の取り扱い |
前払期間 (保険期間の前半1/2) |
保険料の1/2を損金とし、残りの1/2は前払保険料として資産に計上 |
前払期間経過後の期間 (保険期間の後半1/2) |
保険料の全額を損金とする。また、前払保険料を残りの期間の経過に応じ均等に取り崩し、損金に計上 |
期間が終身で支払いが有期のケース
保険期間が終身で保険料の支払期間が有期のケースの計算方法は、下表のとおりです。
区分 | 保険料 | 保険料の取り扱い |
前払期間 | 払込期間 | 当期分保険料(※1)の1/2を損金とし、残りの1/2を前払保険料として資産に計上 |
満了後 | 当期分保険料の1/2金額について、前払保険料を取り崩して損金に計上 | |
前払期間経過後の期間 | 払込期間 | ・各年の支払保険料のうち、当期分保険料を超える金額を前払保険料として資産に計上し、残額を損金とする ・取崩損金算入額(※2)を、前払期間のうち保険料払込期間が終了するまでに計上した、前払保険料から取り崩して損金に計上 |
満了後 |
当期分保険料の金額と取崩損金算入額を、保険料払込期間が終了するまでの前払保険料から取り崩して、損金に計上 |
(※1:当期分保険料は、支払保険料(年額)×(保険料払込期間/保険期間)で求めます)
(※2:取崩損金算入額の計算式は、(当期分保険料÷2×前払保険料)/(105-前払期間経過年数)です)
受取人が被保険者の場合の取り扱い
次に、下表の契約をした場合の、損金の取り扱いを見ていきましょう。
項目 | 該当する人 |
契約者 | 法人 |
被保険者 | 役員・従業員 |
給付金受取人 | 役員・従業員 |
死亡保険金を受け取る場合は、役員および従業員の遺族も給付金受取人に含まれます。
基本的には会社と同様
給付金の受取人が被保険者のケースも、原則としては被保険者が法人の場合と同様の損金処理が行われます。ただし、損金として計上する際の勘定科目(※)は、支払保険料ではなく福利厚生費です。
(※勘定科目とは、複式簿記などの仕訳における取り引きを、分かりやすく表したものです。勘定科目の一例は、現金や売掛金・未払金です。そのほか、売上高や仕入高・消耗品費などがあります)
対象が一部の場合は給与として扱う
特定の役員や従業員のみが被保険者となっている保険契約では、支払った保険料を被保険者の給与として処理します。
法人契約がん保険の注意点
最後に、法人ががん保険を契約する際の注意点を解説します。
種類により全額か半額かの違いがある
法人契約がん保険では、先述のとおり保険料の1/2を損金として計上可能です。ただし、解約返戻金がないがん保険は、保険料の全額を損金として計上できます。
退職金を保険以外で準備している場合などは、解約返戻金がないタイプを選び、より多くの金額を損金として計上するといった選択肢もあります。
保険を契約する目的をよく考えたうえで、加入する保険のタイプを選び、上手に節税を取り入れましょう。
福利規定を明確にする
がん保険を従業員の福利厚生として利用する際は、福利厚生規定を作成することで、以下の効果を得られます。
- 税務調査の証明となる
- 従業員に福利厚生の内容を通知できる
会社の規模によっては、計上する損金が多額になることもあります。その場合、税務署からの調査が厳しくなることも考えられるでしょう。
きちんと作成された福利厚生規定は、計上した損金が保険料であることを、税務署に対して証明する材料になります。
また、せっかく福利厚生を充実させても、従業員へ周知できていなければあまり意味がありません。福利厚生規定を作成し、内容を従業員に伝えることで、業務に対するモチベーションのアップを目指しましょう。
権利規定も明確にしよう
保険の契約では、契約者や被保険者・給付金受取人などの立場によって、それぞれの権利が変わってきます。法人でがん保険を契約するにあたっては、権利規定を明確にすることで後のトラブルを防ぎましょう。
給付金や解約返戻金を受け取る際の取り扱いや、名義変更のタイミングなどについても、あらかじめ明確にしておくと安心です。
まとめ
法人ががん保険を利用すれば、福利厚生の充実を図れるだけでなく、保険料を損金として計上することもできます。
がん保険の契約によるトラブルを防ぐためには、契約時に福利厚生規定を作成し、権利関係を明確にしておきましょう。