小規模企業共済制度とは
まずは、小規模企業共済の概要や加入資格、メリットについて解説します。
経営者にも退職金を
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や個人事業主の退職金を確保する目的で、1965年に導入された制度です。
小規模企業の経営者や個人事業主は基本的に退職金がなく、会社員や公務員と比較して、社会保障の恩恵も少ないという特徴があります。また、経営資金の不足や廃業といったリスクも抱えています。
そこで、小規模企業の経営者や個人事業主がいざというときの保障を確保できるよう、小規模企業共済が導入されたのです。
小規模企業共済に加入し、毎月掛金を積み立てておくと、退職や廃業時に共済金が受け取れるほか、所定の範囲内で事業資金を借り入れできます。
沿革|小規模企業共済(中小機構)
貸付制度について|小規模企業共済(中小機構)
加入できるのはどんな人?
小規模企業共済には、小規模企業の経営者や役員、個人事業主のうち、以下に該当する人が加入できます。
- 建設業・製造業・運輸業・宿泊業・娯楽業・不動産業・農業などを経営している、常時使用する従業員数が20人以下の個人事業主や会社役員
- 卸売業・小売業・宿泊業・娯楽業以外のサービス業を経営している、常時使用する従業員数が5人以下の個人事業主や会社役員
- 事業に従事する組合員数が20人以下の企業組合役員
- 常時使用する従業員数が20人以下の協業組合役員・農事組合法人の役員(主要業務が農業であること)
- 常時使用する従業員数が5人以下の士業法人の社員
- 『1』、または『2』に該当する個人事業主が経営している事業の共同経営者(※)
(※共同経営者は、個人事業主1人につき2人までが対象です)
最大のメリットは所得控除
小規模企業共済の最大のメリットは、掛金全額が『小規模企業共済等掛金控除』という所得控除(※1)の対象であることです。所得税や住民税などの税額は、所得額(※2)から所得控除を引いた後の、『課税所得額』によって決定されます。
小規模企業共済等掛金控除によって、小規模企業共済に支払った掛金1年分が所得から差し引けるため、課税所得額が下がり、所得税や住民税の税額も下がります。
(※1.所得控除とは、所定の条件を満たす場合に、所得額から一定の控除額を差し引いて、税負担を軽減できる制度のことをいいます)
(※2.所得額とは、収入から個人事業主は必要経費、給与所得者は給与所得控除を引いた後の金額です)
小規模企業共済は解約できるのか
小規模企業共済には、保障期間の満期や掛金の満額などの制限がありません。よって、解約したいときに、いつでも解約することが可能です。
解約の理由はさまざま
小規模企業共済の解約の理由は、退職や事業の廃業以外にも、契約者の死亡や病気、加入資格の喪失など、人によってさまざまです。どんな理由であっても、解約を拒否されるようなことはなく、解約時には共済金、または解約手当金が支払われます。
もらえる解約手当金の種類
小規模企業共済では、契約者の立場と請求事由に応じて、以下のいずれかの共済金、または解約手当金が支払われます。
- 共済金A
- 共済金B
- 準共済金
- 解約手当金
上記の内、共済金A、Bは、『基本共済金(※1)+付加共済金(※2)』が支払われるため、準共済金や解約手当金よりも受取額が多くなります。それでは、どのようなケースで、どの種類の共済金・解約手当金が支払われるのか、詳細を見ていきましょう。
(※1.基本共済金とは、掛金額や掛金の納付月数、共済金の請求事由ごとに定められている金額のことです)
(※2.付加共済金:経済産業大臣が、その年の運用益などに応じて設定した利率で算定される金額のことです)
個人事業主が解約するケース
契約者が個人事業主の場合は、以下のように分類されます。
種類 | 請求理由 |
共済金A | ・個人事業を廃業した ・契約者が死亡した |
共済金B | ・65歳以上で180カ月以上掛金を払い込んでいる(老齢給付) |
準共済金 | ・法人成り(※1)によって加入資格を喪失して解約した |
解約手当金 | ・上記以外の任意の事由で解約した ・機構解約(※2)された ・法人成りしても加入資格は喪失しなかったが解約した |
個人事業主が複数の事業を経営している場合は、すべての事業を廃業した場合のみ共済金Aが受け取れます。
(※1.法人成りとは、個人事業主が法人を設立し、それまでの事業をその法人内に引き継いで継続することをいいます)
(※2.機構解約とは、12カ月以上掛金の納付を滞納した、または何らかの不正があった場合に、共済契約を強制解約されることです)
会社の役員がもらえるケース
契約者が会社の役員のケースでは、以下のように定められています。
種類 | 請求理由 |
共済金A | ・法人が解散した |
共済金B | ・病気やケガ、または65歳以上になって役員を引退した ・契約者が死亡した ・65歳以上で180カ月以上掛金を払い込んでいる(老齢給付) |
準共済金 | ・法人の解散や病気、ケガ以外の理由による引退、または65歳未満で役員を他印した |
解約手当金 | ・上記以外の任意の事由で解約した ・機構解約された |
共同経営者が解約するケース
契約者が共同経営者のケースも把握しておきましょう。
種類 | 請求理由 |
共済金A | ・個人事業の廃業により、共同経営者を引退した ・病気やケガにより共同経営者を引退した ・契約者が死亡した |
共済金B | ・65歳以上で180カ月以上掛金を払い込んでいる(老齢給付) |
準共済金 | ・法人成りによって加入資格を喪失して解約した |
解約手当金 | ・上記以外の任意の事由で解約した ・機構解約された ・共同経営者を任意退任して解約した ・法人成りしても加入資格は喪失しなかったが解約した |
経営者が個人事業主のケースと同じく、複数の事業を経営している場合は、すべての事業を廃業した場合のみ共済金Aが受け取れます。また、転職や独立などの理由で共同経営者を引退した場合は、任意退任として扱われます。
解約手当金はいくらもらえるのか
小規模企業共済を任意解約した場合、あるいは機構解約された場合には、解約手当金が支払われます。ここでは、解約手当金の金額や注意点について解説します。
12カ月未満は掛け捨て
小規模企業共済を12カ月未満で任意解約した、あるいは機構解約された場合には、解約手当金、および準共済金は支払われません。短期での解約の場合、掛金は掛け捨てとして扱われます。
返戻率は80%から120%
解約手当金の返戻率は、払い込んだ掛金の80~120%です。掛金の納付月数が240カ月(20年)未満であった場合は、解約手当金が払い込んだ掛金額を下回るので注意しましょう。
解約手当金の計算方法
解約手当金の金額は、掛金500円を1口とし、そこに小規模企業共済法施行令で定められた金額を掛けて算出します。しかし、計算方法が複雑であるため、自分で計算するのはむずかしいでしょう。
中小機構の『定型書類の自動発送サービス』を利用すれば、現時点で受け取れる共済金や解約手当金の試算表を取り寄せられます。
土日祝日を含む、午前6時~午前0時まで受け付けており、申し込みから1週間程度で届くので、解約手当金の金額を知りたい人はこちらを利用するとよいでしょう。
共済金の額の算定方法|小規模企業共済(中小機構)
共済金(解約手当金)の受け取り|小規模企業共済(中小機構)
中小機構で試算が可能
中小機構のホームページに、共済金額のシミュレーターが公開されています。試算できるのは共済金A・Bのみであり、その日に加入した場合の試算ではありますが、参考にはなるでしょう。
解約手当金に税金はかかるのか
解約手当金や共済金は、税法上所得として扱われるので税金がかかります。解約手当金・共済金の種類と受取方法によって、課せられる税金の種類が変わるので注意しましょう。
任意解約は一時所得に
小規模企業共済を任意解約した場合に支払われる解約手当金は、『一時所得(※)』として扱われるため、所得税・復興特別所得税が課税されます。
(※一時所得とは、賞金や生命保険の一時金など、営利を目的とした継続的行為によって発生した所得以外の所得で、労務・役務の対価、あるいは資産の譲渡による対価としての性質を持たない一時の所得のことです)
掛金の経費計上は不可
小規模企業共済の掛金は、契約者個人が払い込むものであり、契約者個人の銀行口座から引き落とされます。よって、事業上の経費、または損金に計上することはできません。
共済金なら退職所得控除あり
共済金A・Bを一括で受け取った場合は、税法上『退職所得』として扱われます。退職所得とは、勤務先や生命保険などから、退職時に受け取る手当金や一時金のことです。
所得なので、所得税・復興特別所得税が課税されますが、退職所得には『退職所得控除』という所得控除が適用されるため、税額が軽減できます。
退職所得控除額は、以下のいずれかで算出可能です。勤続年数には小規模企業共済の加入期間を当てはめて計算しましょう。
- 勤続年数が20年以下の場合:40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 勤続年数が20年超の場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
分割受け取りは雑所得に
共済金A・Bは分割受取も可能です。分割受取の場合は、税法上『公的年金等の雑所得』として扱われます。
やはり、所得税・復興特別所得税が課税されますが、『公的年金等控除』という所得控除が適用されるため、税額が軽減できます。
年齢 | 公的年金等の年間収入額 | 控除額 |
130万円以下 | 70万円 | |
130万円超 410万円以下 | 収入額×25%+37万5000円 | |
410万円超 770万円以下 | 収入額×15%+78万5000円 | |
770万円超 | 収入額×5%+155万5000円 | |
330万円以下 | 120万円 | |
330万円超 410万円以下 | 収入額×25%+37万5000円 | |
410万円超 770万円以下 | 収入額×15%+78万5000円 | |
770万円超 | 収入額×5%+155万5000円 |
解約のデメリット
小規模企業共済の解約は、デメリットを把握したうえで慎重に検討しましょう。
240カ月未満では元本割れのリスク
小規模企業共済は、掛金の納付月数が240カ月未満の状態で任意解約すると、元本割れを起こすリスクがあります。
また、途中で掛金を増額・減額した場合は、変更前の掛金額と変更後の掛金額、それぞれで解約手当金の計算が行われます。その結果、解約手当金が払い込んだ掛金額よりも少なくなる可能性があるので、解約、および掛金額の変更は慎重に行いましょう。
掛金が払えない場合掛け止めができる
小規模企業共済に長期間加入していると、掛金を払えなくなる事態が起こることもあるでしょう。以下の事情により掛金の払い込みがむずかしい場合には、半年~1年間の掛け止め(掛金の払い込み停止)が可能です。
- 所得がない状態である
- 災害に遭った
- 入院した
掛け止めしたい場合は、中小機構のコールセンターに連絡し、手続きをする必要があります。なお、掛け止め期間中の掛金を追納することはできないので注意しましょう。
解約の手続き方法
解約手当金や共済金を受け取るには、所定の手続きが必要です。請求事由によって必要書類が変わるので、よく確認しておきましょう。
手続きの流れ
どの請求事由であっても、手続きの基本的な流れは変わりません。
- 必要書類を集め、必要事項を記入する
- 掛金の引落し口座がある金融機関に『預金口座振替解約申出書兼委託団体払解約申出書』を提出する
- 解約手当金・共済金の受け取り用口座がある金融機関で、『共済金等請求書』に口座の確認印を押してもらう
- 『預金口座振替解約申出書兼委託団体払解約申出書』以外のすべての必要書類を、中小機構に提出する
書類提出後に審査が行われ、3週間程度で指定の口座に解約手当金、または共済金が振り込まれます。商工組合中央金庫以外の金融機関の口座を指定している場合や書類に不備がある場合は、振り込みまでにさらに時間がかかることがあるので注意しましょう。
必要書類
どの請求事由でも、手続きの流れに大きな違いはありませんが、必要書類は異なります。ここでは、自己都合の任意解約した場合、廃業した場合、役員を引退した場合、3つのケースの必要書類を紹介します。
なお、どの請求事由でも、手続きの際には『共済契約締結証書』が必要です。共済契約締結証書とは、小規模企業共済の契約書のようなものです。もし紛失した場合は、請求手続きの前に再発行しておきましょう。
自己都合で任意解約する場合
自己都合により小規模企業共済を解約する場合は、以下の書類を提出する必要があります。
- マイナンバー確認書類
- 共済金等請求書(様式:小701)
- 退職所得申告書
- 預金口座振替解約申出書兼委託団体払解約申出書(様式:小202・321)
- 共済契約締結証書
廃業した場合
事業を廃業し、共済金を請求する場合には、以下の書類が必要です。
- 個人事業の廃業届
- 印鑑登録証明書(発行から3カ月以内の原本)
- マイナンバー確認書類
- 共済金等請求書(様式:小701)
- 退職所得申告書
- 預金口座振替解約申出書兼委託団体払解約申出書(様式:小202・321)
- 共済契約締結証書
役員を退任した場合
小規模企業の役員を引退した場合の手続きでは、以下の書類を準備しましょう。
- 印鑑登録証明書(発行から3カ月以内の原本)
- マイナンバー確認書類
- 履歴事項全部証明書、または商業登記簿謄本(発行から3カ月以内の原本)
- 共済金等請求書(様式:小701)
- 退職所得申告書
- 預金口座振替解約申出書兼委託団体払解約申出書(様式:小202・321)
- 共済契約締結証書
また、病気やケガによる引退の場合は、上記と併せて医師による診断書(就業不能であることが明記されているもの)も提出する必要があります。
法人の役員を退任して、共済金を受け取る場合|小規模企業共済(中小機構)
まとめ
小規模企業共済には、保障期間の満期や掛金の満額などの制限がないため、いつでも解約可能です。
ただし、契約者の立場や請求事由によって受け取れる共済金・解約手当金の種類や金額が異なります。短期間での解約は元本割れを起こすリスクがあるので、解約は慎重に検討しましょう。