健康保険とは
『健康保険』とは、病気やけがまたはそれによる休業、出産や死亡といった事態に備える公的医療保険のことです。サラリーマンなどの民間企業で働く人とその家族を対象としています。
日本は国民皆保険制度
現在の日本の医療制度は下図の仕組みになっており、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入し、お互いの医療費を支え合う『国民皆保険制度』です。
出典:実は恵まれている!日本の国民皆保険制度|健康保険の基礎知識|あしたの健保プロジェクト
現在は誰もが保険証 1枚で、ほとんどの医療機関を受診できます。しかし、海外では民間保険が中心であったり、国民の多くが無保険だったりします。日本の国民皆保険制度は、少ない負担で高度な医療を受けられる世界に誇れる制度といえるでしょう。
健康保険法で規定
健康保険法は、健康保険制度の運営や保険診療行為、保険給付などを規定する健康保険に関する法律です。
健康保険の保険者(全国健康保険協会・健康保険組合)は健康保険法の下、さまざまな保険事業を運営しています。
健康保険に種類はあるの?
健康保険には、どんな種類があるのでしょうか。
社会保険と国民健康保険
社会保険とは、国民の生活を保障するための公的な保険のことをいい、公的医療保険・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険を指します。
健康保険と国民健康保険は、社会保険のうち公的医療保険に分類されます。公務員などを対象とする共済組合も公的医療保険の一つです。
ここでは、公的医療保険の代表ともいえる健康保険と国民健康保険の2種類を詳しく見ていきましょう。
加入団体の違い
健康保険は、保険事業を運営する団体(保険者)の違いから大きく二つに分けられます。健康保険の保険者は、全国健康保険協会と健康保険組合の2種類です。
一方、国民健康保険の保険者は都道府県となっています。
扶養可否の違い
健康保険と国民健康保険の大きな違いとして、扶養の可否があげられます。
健康保険は配偶者や子供、親、兄弟姉妹などの、所定の条件を満たす一定範囲の親族を扶養に入れることが可能です。扶養に入ると、保険料の負担なしでさまざまな健康保険の給付を受けられます。
一方、国民健康保険には扶養の考え方がありません。健康保険であれば扶養に入ることが可能な、専業主婦や子供にも保険料が発生することを覚えておきましょう。
手当の有無の違い
社会保険には下表のような、傷病手当金・出産手当金などの給付制度がありますが、国民健康保険にはありません。
手当 | 内容 |
傷病手当金 | 被保険者が療養のために会社を休み、給与の支払いがない場合に給付 |
出産手当金 | 被保険者が出産のため会社を休み、給与の支払いがない場合に給付 |
健康保険給付について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
健康保険の保険者と被保険者
健康保険には、保険料の徴収や保険給付といった保険事業を運営する保険者と、病気やけがなどをした際に、必要な給付を受けられる被保険者が存在します。
ここでは、健康保険の保険者と被保険者について、見ていきましょう。
2種類の保険者が存在
健康保険の保険者は、全国健康保険協会と健康保険組合の2種類です。
ちなみに、保険者とは、保険料の徴収や保険給付といった保険事業の運営主体のことです。
全国健康保険組合とは
『全国健康保険協会』とは、政府管掌健康保険(協会けんぽ)を運営する組織です。政府管掌健康保険とは、健康保険組合のない中小企業に勤める従業員とその家族が主に加入する健康保険のことをいいます。
従来は、国(社会保険庁)が運営していましたが、平成20年に全国健康保険協会が設立され国に代わり保険者となりました。
全国健康保険協会の概要 | 協会けんぽについて | 全国健康保険協会
健康保険組合とは
健康保険組合とは、組合管掌健康保険(組合健保)を運営する目的で、事業主とその事業所に雇用される被保険者により組織される公法人(※)です。
常時700人以上の従業員が働く事業所が、厚生労働大臣の認可を得て組合を設立できます。また複数の事業所が共同で、健康保険組合を設立することも可能です。この場合は同業で3000人以上の従業員を集めなければなりません。
組合健保は大企業やそのグループ会社、子会社などで働く人とその家族が主な加入者といえるでしょう。
(※公法人とは、公共の事務を行うことを目的とする法人のことです)
健康保険でできること
ここでは、健康保険のさまざまな給付について見ていきます。
健康保険証の提示で医療費が安くなる
被保険者や被扶養者が病気やけがをした場合に、病院・診療所で健康保険証を提示すると、診察や処置などの治療を安い医療費で受けられます。
また、医師が発行する処方箋を持参し、保険薬局で薬を受け取ることも可能です。
このように、保険医療機関において必要な医療サービスが直接給付されることを『療養の給付』といい、窓口で一部の負担金を支払うだけで医療機関を受診できます。
保険証を提示して治療を受けるとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
健康保険が対象外のケース
日常生活に何ら支障がない場合に受ける診察は、療養の給付の対象外です。また、病気やけがで受診した場合でも、健康保険の給付目的から外れると給付制限を受けることがあります。
療養の給付の対象外として、以下があげられます。
- 美容を目的とする整形手術
- 近視の手術
- 研究中の先進医療
- 健康診断や人間ドック、予防接種
- 正常な妊娠・出産、経済的理由による人工妊娠中絶
ただし、例外的に対象となる場合もあります。例えば、労務に支障する斜視・けがの処置を目的とする整形手術などです。
また、業務上・通勤中の災害が原因のけがや病気に対しては、原則として健康保険は使えません。このような場合は、労災保険が適用されることを知っておきましょう。
自己負担は何割?
健康保険を提示して治療を受けると、医療費の一部を自己負担しなければなりません。
負担の割合は、健康保険の被保険者と被扶養者、また入院と外来で変わることはありません。年齢により、以下の自己負担割合が決められています。
年齢 | 自己負担の割合 |
小学校入学前 | 2割 |
小学校入学以降70歳未満 | 3割 |
70歳以上 | 2割(現役並み所得者は3割) |
高額療養費が払い戻される
医療機関での自己負担額が高額になった場合に、申請により自己負担限度額を超えた金額が払い戻されます。
標準報酬月額ごとの自己負担限度額(70歳未満の場合)は、以下の通りです。
標準報酬月額 | 自己負担限度額 |
83万円以上 | 25万2600円+(総医療費(※)-84万2000円)×1% |
53~79万円 | 16万7400円+(総医療費-55万8000円)×1% |
28~50万円 | 8万100円+(総医療費-26万7000円)×1% |
26万円以下 | 5万7600円 |
『高額療養費』は、1~末日までの1カ月にかかった医療費が算定の対象です。また、1人ごと、医療機関ごとに医科入院・医科外来・歯科入院・歯科外来などに分けて計算します。
(※総医療費とは、保険適用分も含めた診療費用の総額(10割)のことです)
高額な医療費を支払ったとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
世帯で合算できる
高額療養費制度では、個人の同一月内の自己負担額が限度額に達しない場合に、同じ健康保険に加入する家族の医療費を合算し申請することが可能です。
例えば、世帯で複数の人が同じ月に病気で医療機関を受診したとしましょう。受診したすべての人の自己負担額を合算し、その額が自己負担限度額を超えていれば、超過分が払い戻されます。
ただし、70歳未満の人には合算可能な自己負担額(1カ月)に、2万1000円以上という条件が設けられています。
高額な医療費を支払ったとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
傷病手当金が受け取れる
健康保険では病気やけがで仕事を休むと、傷病手当金を受け取れる場合があります。
傷病手当金は病気療養中に、被保険者とその家族の生活を保障することを目的とした給付制度です。ただし、一定の条件を満たさなければ、手当金を受け取れません。
給付条件を詳しく見ていきましょう。
給付の条件
以下の条件をすべて満たす場合に、傷病手当金を受け取れます。
- 業務外の事由による病気やけがの療養のための休養である(業務上・通勤災害・病気とみなされないもの(美容整形など)は対象外)
- 仕事に就けない状態である(療養担当医の意見・仕事内容により状態を判断)
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった
- 休業した期間の給与の支払いがない
通常は、療養を担当する医師による診断書などによって、仕事に就けないことを証明します。
また、傷病手当金は仕事を休んだ日から連続して3日間(待機)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給される決まりです。なお、待機の3日間には、土日・祝日・有給休暇なども含まれ、給与の支払いの有無は関係ありません。
出典:病気やケガで会社を休んだとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
健康保険料の計算方法は?
健康保険料はどのような方法で計算するのでしょうか。
国民健康保険は市町村によって異なる
国民健康保険料は以下の三つの区分の保険料を所定の算定方式で計算し、その額を合計して世帯全体の保険料を算出します。
区分 | 内容 |
医療分 | 診療費などの医療給付費に充てる財源 |
支援分 | 公庫高齢者医療制度にかかる医療費に充てる財源 |
介護分 | 介護保険料として40~65歳未満の人が納付 |
算定方式は、以下の四つです。
算定方式 | 内容 |
所得割 | 基礎控除後の所得に、一定の割合をかけて算定 |
均等割 | 世帯内で国保加入者1人あたりいくらとして算定 |
平等割 | 1世帯あたりいくらとして算定 |
資産割 | 世帯の年間の固定資産税に、一定の割合をかけて算定 |
しかしながら、現状は平等割と資産割を算定しない自治体が多いため、算定する自治体との間で保険料に差が出ます。例えば、以下は横浜市の保険料の算定方法ですが、平等割と資産割はありません。
また、高齢者の割合が高い自治体では医療費が多くかかるため、その分、保険料の負担が大きいといえます。
社会保険は標準報酬月額が基準
健康保険には『協会けんぽ』と『組合健保』がありますが、保険料の算定基準が異なります。ここでは、協会けんぽに絞って解説していきます。
協会けんぽの保険料は、『標準報酬月額』を基準に算定されます。標準報酬月額とは、給与の金額を区切りの良い幅で1から50等級までに区分したものです。保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけて算定します。
ただし、保険料率は都道府県ごとに異なることを知っておきましょう。例えば、北海道は10.31%ですが、東京都は9.90%となっています。また、算出した保険料のうち1/2を事業主が負担する仕組みです。
平成31年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
標準報酬月額って何?
標準報酬月額は、4・5・6月の3カ月間の給与(※)の平均額(報酬月額)をもとに毎年1回決まります。決定した標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月まで保険料の計算に使用される仕組みです。
仮に、3カ月間の給与の平均を30万円とすると、22等級の報酬月額29~31万円未満に該当します。なお、22等級の標準報酬月額は30万円と決められています。平均額が31万円の場合は、23等級(報酬月額31~33万円未満)、標準報酬月額は32万円です。
上記の通り報酬月額にはある程度の幅があるため、標準報酬額と給与の平均にずれが生じるケースがあります。
標準報酬月額と負担する保険料額は、協会けんぽのホームページから都道府県別の保険料額表により確認できます。つまり、報酬月額がわかれば、保険料額表から保険料を調べられるいうことです。
(※給与には、通勤手当や家族手当、時間外手当など、労働の対価として会社から支払われるものすべてを含めます)
平成31年度保険料額表(平成31年3月分から) | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
健康保険の切り替え方法
ここでは、健康保険の切り替え方法を紹介していきます。
社会保険への切り替え
国民健康保険から健康保険へ切り替えるケースとして、健康保険がある会社へ就職・転職する場合などが考えられます。
健康保険に加入する際には、市区町村役場での国民健康保険の脱退手続きが必要です。手続きをしないと、保険料を二重に支払うことになります。
一方の社会保険への加入手続きは、事業所によって行われます。協会けんぽの場合は事業主が『被保険者資格取得届』を日本年金機構へ提出しなければなりません。
資格取得届には氏名や住所のほか、マイナンバーなどの記入が必要です。事業所から確認を求められた際に、速やかに対応できるよう準備しておきましょう。
国民健康保険への切り替え
社会保険の加入者が退職すると、健康保険任意継続・国民健康保険・家族の健康保険の被扶養の、いずれかに加入が必要です。
国民健康保険に加入する人は、住所地の市区町村役場で手続きをします。
一般的に手続きには、マイナンバーカード・本人確認書類(運転免許証・パスポートなど)・印鑑などの準備が必要です。事前に市区町村のホームページなどで確認しておくとよいでしょう。
任意継続という選択肢も
『任意継続』とは、健康保険の被保険者の資格を喪失した際に、希望すると最長で2年間、引き続き現在の保険に加入できる制度です。
保険料は退職時の標準報酬月額で計算され、原則2年間変わりません。また、扶養家族の保険料がかからないことも知っておきましょう。
ただし、在職中は保険料の半分を会社が負担しますが、退職後はすべて被保険者の負担です。
任意継続に加入するには資格喪失日の前日までに、社会保険の被保険者である期間が継続して2カ月以上必要となります。また、申請は資格喪失日から20日以内に行わなければなりません。
アメリカの健康保険ってどうなってるの?
アメリカの健康保険制度は、どうなっているのでしょう。
日本のような国民皆保険制度はない
アメリカには、日本のような国民皆保険制度はありません。公的医療保険として、65歳以上の高齢者や身体に障害のある人などを対象とする連邦政府運営の保険や、低所得者が対象の州・連邦政府運営の保険があります。
公的医療制度の対象でない人たちが保険に加入する場合は、民間の医療保険を選択する仕組みです。
民間の医療保険は高い
アメリカの医療費は各国に比べ、非常に高額です。外務省のホームページによると、ニューヨーク市マンハッタン区の医療費として、一般の初診料が150~300ドル、入院は室料だけで1日数千ドルの請求を受けるとしています。
このように、医療費は高額ではありますが、民間の医療保険は保険料が高額であるため、未加入の人も多い状況です。
まとめ
私たちは健康保険に加入することで、少ない負担で医療機関で診察や投薬を受けられます。また、医療費が高額になった場合は、高額療養費制度を利用することも可能です。
健康保険制度をしっかり理解して、活用しましょう。