障害年金をもらえる条件
障害年金とは、障害によって日常生活や仕事に支障が出ている人が受給できる年金です。ただし、受給するためには所定の条件を満たす必要があります。まずは、障害年金の受給要件について見ていきましょう。
初診日に公的年金加入
障害年金を受給するには、障害の原因となった病気やケガの初診日に、公的年金に加入している必要があります。初診日に国民年金に加入していた場合は『障害基礎年金』、厚生年金に加入していた場合は『障害厚生年金』の対象です。
ただし、初診日に20歳未満、もしくは60歳以上65歳未満で日本国内に居住していた人は、公的年金に加入していなくても『障害基礎年金』が受給できます。
なお、厚生年金加入者は同時に国民年金にも加入しているため、障害基礎年金と障害厚生年金の2種類を受け取れます。
20歳未満の場合
20歳未満の人は、公的年金の保険料を納めた実績がありません。そのため、障害年金の受給に関して、所得制限がかけられています。
世帯人数 | 所得額 | 支給額 |
1人 | 360万4000円以下 | 全額支給 |
360万4000円超 462万1000円以下 |
1/2支給 | |
462万1000円超 | 支給なし | |
2人 | 398万4000円以下 | 全額支給 |
398万4000円超 500万1000円以下 |
1/2支給 | |
500万1000円超 | 支給なし |
- 3人以上の世帯:扶養親族1人につき38万円加算
- 扶養親族が老人控除対象の配偶者・老人扶養家族の場合:扶養親族1人につき48万円加算
- 扶養親族が特定扶養親族の場合:扶養親族1人につき63万円加算
保険料の未納は要注意
障害年金の受給を希望する場合は、公的年金の保険料の未納に注意しましょう。障害年金を受給するには、以下のいずれかの保険料の納付要件も満たす必要があるためです。
- 初診月の前々月までの公的年金の加入期間のうち、2/3以上保険料を納付していること(免除期間含む)
- 初診日時点での年齢が65歳未満で、かつ初診月の前々月までの1年間で、公的年金の保険料の未納がないこと
なお、公的年金未加入者である20歳未満には、保険料の納付要件は課せられません。
障害年金は初診日が重要
障害年金の請求では、『初診日』が重要なポイントです。障害年金は、『障害の原因となる病気やケガの初診日から1年6カ月たった日(障害認定日)』に所定の障害状態であると認定された場合に、初めて受給権が発生するものだからです。
ただし、これ以上の回復の見込みがないとみなされた場合は、その判定がなされた日(症状固定日)が障害認定日とされるので、1年6カ月経過する前でも手続き可能です。
なお、20歳未満の人は20歳になった日、60歳以上65歳未満の人は65歳を迎える前日までに所定の障害状態となった場合に、受給権が発生します。
いつが初診日になるのか
初診日とは、『障害の原因となる病気やケガについて、初めて医師の診療を受けた日』のことを指します。ただし、再発した場合など、ケースごとに初診日の扱いが変わることがあるので注意が必要です。
- 再発した場合の初診日:再発後に初めて医師の診療を受けた日
- 転院した場合の初診日:1番最初の病院で初めて診療を受けた日
- 誤診があった場合:誤審をした医師の診療を初めて受けた日
- 健康診断で異常が見つかり、その後病院を受診した場合の初診日:健康診断を受けた日
相当因果関係が認められるケース
現在の障害の原因となった病気にかかる前に別の病気にかかっていて、双方の病気に相当因果関係が認められる場合は、過去の病気について初めてが診療を受けた日が初診日です。
仮に、肝炎を発症していた人が肝硬変になったとします。この場合、双方の病気に因果関係が認められるため、肝炎について初めてが診療を受けた日が初診日とみなされます。
障害年金の等級
障害年金は、『障害等級』に応じて支給の有無や受給額が決まります。
種類 | 対象者 |
障害基礎年金 | 障害等級1級:78万100円×1.25+子どもの加算分(※1) 障害等級2級:78万100円+子どもの加算分 |
障害厚生年金 | 障害等級1級:報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額(※2) 障害等級2級:報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額 障害等級3級:報酬比例の年金額(最低保障額58万5100円) |
障害等級とは障害の程度を表すもので、『障害等級表』を基準に決められます。なお、『障害者手帳』の障害等級も障害等級表を基準としていますが、両者で使用される障害等級表は別物なので、障害年金の障害等級表を確認しましょう。
(※1.子どもの加算分は、第1子、第2子は各22万4500円、第3子以降は各7万4800円が加算されます)
(※2.配偶者の加給年金の加算額は、一律22万4500円と決められています)
国民年金・厚生年金保険 障害認定基準|日本年金機構
障害者手帳/ 茨城県神栖市
用語の説明
先ほど障害の等級で出てきた用語を説明します。
用語 | 説明 |
子どもの加算分 | 障害年金の受給者に子どもがいる場合に、本来の年金額に上乗せして支払われるもの |
報酬比例の年金額 | 収入や公的年金の加入期間などから算出される金額 |
配偶者の加給年金 | 障害年金の受給者に、受給者の収入により生活を維持している配偶者がいる場合に加算されるもの |
障害者手帳 | 障害者の支援制度の対象であることを証明する手帳 |
障害等級1級とは
障害等級1級とは、もっとも症状が重い等級です。
- 矯正視力(※1)によって測定した両眼の視力の和が0.04以下
- 両耳の聴力レベルが100デシベル以上
- 両上肢(※2)の機能に著しい障害がある
- 両上肢のすべての指を欠くもの
- 両上肢のすべての指の機能に著しい障害がある
- 両下肢(※3)の機能に著しい障害がある
- 両下肢を足関節以上で欠くもの
- 座れない、立ち上がれない程度の体幹の機能障害がある
- 身体機能の障害、または長期にわたる安静を必要とする症状が上記と同程度以上と認められる状態で、かつ介助がなければ日常生活の用事が済ませられない状態である
- 精神障害で、上記と同程度以上の状態である
- 身体機能の障害と精神障害が重複しており、その状態が上記と同程度以上の状態である
(※1.矯正視力とは、眼鏡やコンタクトレンズなどの着用で矯正された視力のことをいいます)
(※2.両上肢とは、肩関節以下における腕の部位の総称です)
(※3.両下肢とは、股関節以下における脚の部位の総称です)
障害等級2級とは
障害等級2級とは、1級よりも症状が軽いものの、日常生活や仕事に支障がある状態の等級です。
- 矯正視力によって測定した両眼の視力の和が0.05以上0.08以下
- 両耳の聴力レベルが90デシベル以上
- 平衡(へいこう)機能に著しい障害がある
- そしゃく機能を欠くもの
- 音声や言語機能に著しい障害がある
- 両上肢の親指・ひと指し指・中指を欠くもの、または機能に著しい障害がある
- 1上肢の機能に著しい障害がある
- 1上肢のすべての指を欠いているか、すべての指の機能に著しい障害がある
- 両下肢のすべての指を欠くもの
- 1下肢の機能に著しい障害があるか、1下肢を足関節以上で欠くもの
- 歩けない程度体幹の機能障害がある
そのほか、上記と同程度の障害状態である場合は、障害等級2級に認定されます。
障害等級3級とは
障害等級3級とは、1級・2級には該当しない程度の障害状態の等級です。
- 矯正視力によって測定した両眼の視力が0.1以下
- 両耳の聴力が40cm以上では通常の話声を聞き取れない程度である
- そしゃくや言語機能に相当程度の障害がある
- 脊柱機能に著しい障害がある
- 上肢、または下肢の3大関節のうち、2関節が動かせない状態
- 長管状骨に偽関節があり、運動機能に著しい障害がある
- 上肢の親指・ひと差し指を失った、または親指・ひと差し指を含む、1上肢の3指以上を失った、親指・ひと差しを併せ1上肢の4指が動かせない状態
- 1下肢をリスフラン関節以上で失った
- 両下肢の10指が動かせない状態
そのほか、身体機能や労働に制限があるとみなされた場合は、障害等級3級に認定されます。
申請時期によって異なる障害年金の申請方法
障害年金の申請方法は、申請時期によって異なります。ケース別の申請方法を知っておきましょう。
認定日請求の流れ
『認定日請求(本来請求)』とは、障害認定日から1年以内に、初めて障害年金を請求することです。認定日請求は、以下の流れで進めます。
- 障害認定日から3カ月以内に医師に診断書を作成してもらう
- 日本年金機構に診断書と必要書類を提出する
- 書類の審査を経て、障害年金の支給の有無が決定される
認定日請求によって障害年金の支給が決定された場合は、障害認定日がある月の翌月から障害年金の支給対象となります。ただし、初回の振り込みは請求から5カ月以上かかるのが一般的です。
そのため、初回の振り込み時には、障害認定日がある月の翌月から、その月までの障害年金を合計した金額が振り込まれます。
障害基礎年金を受けられるとき|日本年金機構
障害厚生年金を受けられるとき|日本年金機構
遡及請求の流れ
『遡及(そきゅう)請求』とは、何らかの理由ですぐに障害年金を請求せず、障害認定日から1年以上経過してから障害年金を請求することです。遡及請求は、以下の流れで進めます。
- 障害認定日から3カ月以内と請求時点の、2種類の診断書を用意する
- 日本年金機構に診断書と必要書類を提出する
- 書類の審査を経て、障害年金の支給の有無が決定される
遡及請求では、障害認定日がある月の翌月分までさかのぼって障害年金が振り込まれます。ただし、障害年金の受給権には『支給事由が生じた日の翌日から5年』の時効があるため、5年以上前の分の障害年金は受け取れません。
事後重症による請求の流れ
『事後重症による請求(額改定請求)』とは、障害年金受給中に症状が悪化したときに、障害等級の改定を求めることです。障害等級が落ちて受給額が下がり、障害等級の改定を求める場合も同じくこの手続きをします。事後重症による請求の流れは以下の通りです。
- 請求前3カ月以内の診断書を用意する
- 『障害給付 額改定請求書』に診断書を添付して、年金事務所に提出する
- 書類の審査を経て、障害等級の改定が行われる
額改定請求によって障害等級が改定された場合は、請求月の翌月分から障害年金の金額も変更されます。なお、額改定請求は、明らかに重症化した場合を除き、以下の期間が経過するまで手続きできません。
- 年金を受給権が発生した日から1年間
- 前回障害等級の審査を受けた日から1年間
基準傷病請求の流れ
『基準傷病請求(初めて1級・2級の請求)』とは、障害認定日において障害等級3級以下だった人が、新たな病気やケガによって障害等級2級以上になり、障害年金を請求することです。
事後重症による請求は、これまでの病気が悪化した場合に行う請求です。よって、新たな病気やケガによる請求をする場合は、基準傷病請求を選択します。基準傷病請求の流れは以下の通りです。
- 請求前3カ月以内の、今までの病気・ケガの診断書と新たな病気・ケガの診断書を用意する
- 日本年金機構に診断書と必要書類を提出する
- 書類の審査を経て、障害年金の支給の有無が決定される
基準傷病請求によって障害年金の支給が決定された場合は、翌月から障害年金の支給が開始されます。
必要な申請書類
障害年金の申請には、さまざまな書類が必要です。ここでは、ケース別の必要書類を紹介します。
障害基礎年金を受けられるとき|日本年金機構
障害厚生年金を受けられるとき|日本年金機構
全員提出が必要なもの
障害年金を請求する人は、全員以下の書類を提出する必要があります。
- 年金手帳
- 戸籍謄本・戸籍抄本・戸籍の記載事項証明・住民票・住民票の記載事項証明書のいずれか
- 医師の診断書
- 受診状況等証明書
- 病歴・就労状況等申立書
- 受取先金融機関の通帳等(インターネット銀行は以下のURLで確認可能)
また、手続きの際には印鑑(認印も可)も必要です。
20歳未満の提出に必要なもの
受給者が20歳未満の場合は、上記とは別に以下の書類も提出しなくてはなりません。
- 請求者本人の所得証明書
また、受給者に18歳未満の子ども、あるいは20歳未満の障害状態にある子どもがいる場合は、以下の書類が必要です。
- 戸籍謄本
- 世帯全員の住民票
- 子どもの収入が確認できる書類
- 医師または歯科医師の診断書(20歳未満の障害状態にある子どもがいる場合)
第三者によって受けた障害の場合
障害の原因となる病気やケガが第三者によって受けたものである場合は、以下の書類が必要です。
- 第三者行為事故状況届
- 事故が確認できる書類(交通事故証明など)
- 確認書
- 被害者に被扶養者がいる場合、扶養していたことが確認できる書類
- 損害賠償金の算定書
申請時の注意点
障害年金を申請するときには、診断書の内容に注意が必要です。障害年金の審査では、診断書の内容が非常に重要視されており、その影響は審査の90%を占めるともいわれています。ここでは、障害年金の申請のための診断書作成で、とくに注意したい点を解説します。
初診と診断書の病院が違う場合
障害年金は、初診日から1年6カ月たって初めて請求できるようになため、審査の際に初診日が確認できるようにしておく必要があります。
通常、初診日は診断書に記載されるので、申請時に別途証明書などは必要ありません。しかし、障害年金を申請手続き時に、初診時とは違う病院に通っている場合は、初めの病院での初診日が診断書に記載されないのです。
よって、初めの病院で『受診状況等証明書』を発行してもらい、障害年金の申請手続きの際に、その他の書類と併せて提出する必要があります。
うつ病は診断書の内容に注意
うつ病によって日常生活や仕事に支障をきたしている場合も、障害年金が受給できる可能性があります。ただし、うつ病で障害年金を申請する場合は、診断書の内容に注意が必要です。
うつ病は症状が目に見えてわかる病気ではないので、診断書には気分の落ち込みや不安感、希死念慮(死を考えること)、不眠など、今出ている症状を詳細に書きましょう。
また、申請手続きの際には、『病歴・就労状況申立書』という書類も提出します。病歴・就労状況申立書とは、病気の発症時期や治療の経過、日常生活や就学・就労の様子などを細かく記載した書類です。
この書類の内容と診断書の内容に整合性が取れないと、障害年金不支給の判定になる可能性が高いので、双方の内容を合致させることが重要です。
病歴・就労状況等申立書は具体的に
病歴・就労状況申立書は、できる限り具体的に記載しましょう。障害年金の審査では、病歴・就労状況申立書の内容も重視されるためです。
むずかしい医学用語を使う必要はありません。それよりも、どんな症状があるのか、日常生活や仕事にどれほど影響が出ているのかを詳しく記載することが大切です。
申請は自分でできるの?
多くの書類を必要とする障害年金の申請手続きですが、自分で手続きを済ませることはできるのでしょうか。
障害年金は認定されない可能性も
自分でも家族でも、障害年金の申請手続きを済ませることは可能です。しかし、障害年金の手続きには多くの書類が必要なので、非常に手間がかかります。
また、診断書は医師が作成しますが、病歴・就労状況申立書は自分で作成しなくてはなりません。診断書と整合性が取れるように、かつ細かな病状や状態を記載しきれないと、障害年金の支給が認定されない可能性もあります。
代行を依頼する方法もあり
手続きの手間を省きたい人や書類作成に自信がない人は、社会保険労務士などに申請代行を依頼することも検討しましょう。
社会保険労務士に依頼すれば書類作成の手間を省けるほか、より認定を得やすいよう、記載内容を考えてもらえます。
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障害年金の審査にかかる期間
障害年金は申請から審査、入金までに時間がかかります。各段階でかかる時間と進捗状況の確認について知っておきましょう。
3カ月以上かかるのが一般的
障害年金の審査は、書類を提出してから3カ月以上かかるのが一般的です。障害基礎年金と障害厚生年金の2種類を受ける場合は、さらに時間がかかります。書類の不備などがあると半年近くかかることもあるので、提出書類をよく確認しましょう。
進捗状況の確認はできるの?
審査の進捗状況は、基本的に確認できません。年金事務所などに問い合わせても、審査中としか答えてもらえないでしょう。
障害年金の支給が認定されると年金証書が発送されます。この段階での問い合わせであれば、年金証書発送の段階であることは教えてもらえる可能性があります。
入金までにも時間はかかる
障害年金が入金されるまでにも時間がかかります。障害年金の支給認定後、まずは年金証書が発送され、その後年金決定通知書が送られてきます。
この年金決定通知書が届いてから入金までに、1~2カ月程度かかるのです。よって、スムーズに手続きが進んだとしても、申請手続きから初回の入金までに4~5カ月かかるでしょう。
まとめ
障害年金の申請手続きは、自分や家族で済ませることが可能です。ただし、手続きにはさまざまな書類が必要で、書類の内容が非常に重要になるので、専門家に代行を依頼するのもよいでしょう。