生命保険の保険金に税金かかる?
生命保険の被保険者(※1)が亡くなると、保険加入時に設定した受取人(※2)に死亡保険金が支払われます。この死亡保険金は課税対象であり、受取額に応じた税金が課せられるので注意が必要です。
死亡保険金に課せられる税金は、被保険者と受取人、契約者(※3)の関係性などによって種類が変わります。まずは、死亡保険金に課せられる税金の種類を把握しておきましょう。
(※1.被保険者とは、保険の保障対象になっている人のことです)
(※2.受取人とは、保険に加入する際に、保険金や給付金を受け取る人として設定した人のことです)
(※3.契約者とは、保険料を支払う人のことです)
発生する税金の種類
死亡保険金を受け取ったときには、『相続税』『所得税』『贈与税』のいずれかの税金が発生します。それぞれどのような税金なのか、概要を見ていきましょう。
相続税とは
相続税とは、故人の遺産を相続したときに発生する税金のことです。死亡保険金は、正確には故人が保有していた財産ではありません。
しかし、故人の死亡によって相続人に支払われるものであるため、遺産の一部とみなされ(みなし相続財産)、相続税が発生することがあります。
所得税とは
所得税とは、1月1日~12月31日の間に何らかの所得(※)を得た場合に発生する税金のことです。死亡保険金が所得とみなされた場合には、所得税が課せられます。
(※所得とは、総収入額から給与所得控除、あるいは必要経費を差し引いた金額のことです)
贈与税とは
贈与税とは、個人から財産を譲り受けた場合に発生する税金のことです。死亡保険金の受け取り方によっては、財産を贈与されたとみなされ、贈与税が課せられます。
生命保険の保険金は課税対象と非課税がある
加入している生命保険によっては、死亡保険金以外にも、生存給付金や満期保険金などが受け取れることがあります。
また、生命保険に医療保障が付いていたり、生命保険とは別に民間の医療保険などに加入していたりする場合は、入院給付金などを受け取ることもあるでしょう。
これらの保険金や給付金には、課税対象になるものと非課税になるものがあります。ここでは、保険金や給付金の課税、非課税の違いについて解説します。
課税対象となる保険金
以下のような保険金や給付金には、税金が課せられます。
- 死亡保険金:被保険者が死亡した場合に支払われる保険金
- 生存給付金:所定の期間、あるいは年齢まで被保険者が生存していた場合に支払われる保険金
- 満期保険金:加入している保険が満期(※)を迎えたときに、被保険者が生存していた場合に支払われる保険金
- 解約返戻金(かいやくへんれいきん):保険を解約したときに支払われる保険金
これらの保険金や給付金は、医療費などの何らかの費用を補てんする目的で支払われるものではありません。よって、所得を得たとみなされ、税金が発生します。
(※満期とは、その保険の保障期間が終了する時期のことです)
非課税となる主な保険金
以下のような保険金、給付金は非課税です。
- 入院給付金:被保険者が入院した場合に支払われる給付金
- 手術給付金:被保険者が手術を受けた場合に支払われる給付金
- 通院給付金:被保険者が通院治療を受けた場合に支払われる給付金
- 3大疾病給付金:3大疾病と呼ばれる、日本人の死因上位を占めるがん・急性心筋梗塞・脳卒中のいずれかにかかり、所定の状態になった場合に支払われる給付金
これらの保険金や給付金は、医療費など被保険者が支払った費用を補てんする目的で支給されるもので、所得とはみなされないため非課税です。
死亡保険金に所得税がかかるパターン
死亡保険金には、『相続税』『所得税』『贈与税』のいずれかの税金がかかることがあります。どのようなケースでどの種類の税金が発生するのか、詳細を見ていきましょう。まずは、死亡保険金に『所得税』がかかるケースです。
一時所得扱いの総合課税
契約者と受取人が同一で被保険者が異なる場合には、死亡保険金に『所得税』が課せられます。夫婦を例として関係性を見てみましょう。
被保険者 | 契約者 | 受取人 |
妻 | 夫 | 夫 |
仮に、被保険者が妻の生命保険の保険料を夫が負担していて、妻の死亡により夫が死亡保険金を受け取った場合、夫が所得を得たとみなされ所得税が発生します。
なお、死亡保険金を一括で受け取ると『一時所得』として扱われますが、収入保障保険(※1)などで分割で受け取った場合は、『雑所得』として扱われます。
一時所得も雑所得も『総合課税(※2)』の対象です。よって、死亡保険金の所得税額を計算するときには、その年に得た死亡保険金と、それ以外の所得との合計額に対する税額を計算します。
(※1.収入保障保険とは、被保険者が死亡した場合に、保障期間が満期を迎えるまでの間、分割で死亡保険金が支払われる生命保険のことです)
(※2.総合課税とは、他の所得と合算して税額を算出する制度のことです)
課税対象金額の計算方法
所得税は受け取った死亡保険金全額に対して課せられるものではなく、『課税対象金額』に対して課せられるものです。課税対象金額の算出方法は、死亡保険金が一時所得扱いになる場合と、雑所得扱いになる場合とで異なります。
- 一時所得の場合:(死亡保険金額−払込保険料の総額−特別控除額50万円)×1/2
- 雑所得の場合:年間の保険金の受取総額−年金額に応じた払込保険料の総額
そして、上記の金額とその年得た他の収入の課税対象額を合算した金額に、所定の所得税率を掛け控除額を差し引けば、所得税額が算出できます。
- 所得税額=課税対象額×所得税率-控除額
また、2037年までは『所得税額×2.1%』の復興特別所得税が加算されます。
No.1750 死亡保険金を受け取ったとき|国税庁
所得税の税率|所得税|国税庁
個人の方に係る復興特別所得税のあらまし|国税庁
死亡保険金に相続税がかかるパターン
契約者と被保険者が同一で受取人が異なる場合には、『相続税』が発生します。再び、夫婦を例に関係性を見てみましょう。
被保険者 | 契約者 | 受取人 | 税金の種類 |
夫 | 夫 | 妻 | 相続税 |
夫が被保険者の生命保険の保険料を、夫本人が負担していたとします。そして夫の死亡により妻が死亡保険金を受け取ると、みなし相続財産を得たとして相続性が発生します。
相続税には軽減措置がある
相続税は死亡保険金を含むすべての遺産(遺産総額)から、基礎控除額を控除した『課税遺産総額』に対して課せられるものです。
- 『(プラスの財産※1+みなし相続財産-非課税の財産)+相続開始前3年以内に贈与された財産-(マイナスの財産※2+葬儀費用)』で遺産総額を算出
- 『遺産総額-基礎控除額』で課税遺産総額を算出
ただし、相続税には様々な税額軽減措置が設けられており、それらが適用されれば税額が大きく下がる可能性があります。
(※1.プラスの財産とは、現金・預金・土地・建物といった財産のことです)
(※2.マイナスの財産とは、借入金や葬儀費用など、資産を減らすものです)
非課税枠
相続税には、死亡保険金の非課税枠が設けられています。死亡保険金は遺族の生活を支える目的を持つお金であることから、税負担を軽くできるよう考慮されているのです。非課税枠は以下の式で計算します。
- 死亡保険金の非課税枠=500万円×法定相続人数
法定相続人とは、民法で規定された相続人のことです。法定相続人の数には、遺産相続を放棄した人も含まれます。
なお、死亡保険金の非課税枠は法廷相続人にしか適用されません。それ以外の人が死亡保険金を受け取った場合は、死亡保険金全額に相続税が課せられます。
基礎控除
相続税は、遺産総額から基礎控除を控除した後の課税遺産総額に対して課せられます。基礎控除額は以下の式で計算した金額です。
- 基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
死亡保険金の非課税枠の計算と同じく、遺産相続を放棄した人がいても、その人を含めた人数で計算します。
配偶者控除
相続税には配偶者控除という税額軽減措置があり、被相続人(※)の配偶者は大幅に相続税を軽減できるようになっています。配偶者は、被相続人が財産を形成することに大きく貢献していると判断されるためです。
配偶者控除を受けると、以下のいずれか高い方の金額が控除されるため、相続税が非課税になる可能性があります。
- 1億6000万円
- 配偶者の法定相続分
法定相続分とは民法で規定されている、法定相続人ごとの相続割合のことです。遺言などがない限り、基本は以下のように遺産が分割されます。
出典:法定相続分│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券
(※被相続人とは、遺産の元の持ち主である故人のことを指します)
死亡保険金に贈与税がかかるパターン
契約者、被保険者、受取人がすべて異なると、『贈与税』が発生します。夫婦と子ども1人の家族を例に関係性を見てみましょう。
被保険者 | 契約者 | 受取人 | 税金の種類 |
妻 | 夫 | 子ども | 贈与税 |
仮に、妻が被保険者の生命保険の保険料を夫が負担していたとします。そして、妻の死亡により、死亡保険金を子どもが受け取った場合、夫が子どもに財産を譲り渡したとして、贈与税が課せられるのです。
最もデメリットが大きい
死亡保険金に贈与税が課せられるパターンは、最もデメリットが大きいといえます。贈与税は所得税や相続税よりも税率が高いためです。仮に、死亡保険金を1000万円受け取ったとして、税率を比較してみましょう。
- 所得税の税率:33%
- 相続税の税率:10%
- 贈与税の税率:40%
また、死亡保険金の非課税枠などもないので、死亡保険金にかかる税金が高くなります。死亡保険金の受取人は、こういったことを考慮して決めることが重要です。
贈与税の計算方法
贈与税の税額は、以下の流れで計算します。
- 『譲り受けた財産の総額-基礎控除110万円』で課税対象金額を算出
- 『課税対象額×贈与税率-控除額』で贈与税額を算出
贈与税は『一般贈与財産』と『特例贈与財産』のどちらに該当するのかで税率が異なるので、税額を計算する際には注意しましょう。
- 一般贈与財産:夫婦間・兄弟間・親子間(子どもが未成年の場合)で贈与された財産
- 特例贈与財産:父母や祖父母などと、その年の1月1日時点で20歳以上の者との間で贈与された財産
解約返戻金や満期保険金にかかる税金
生命保険に加入していると、解約返戻金や満期保険金を受け取ることがありますが、解約返戻金や満期保険金にも税金が課せられます。やはり、契約者と受取人の関係などで課せられる税金の種類が異なるので、注意が必要です。
契約者が受取人のとき
生命保険の契約者と解約返戻金や満期保険金の受取人が同一である場合は、死亡保険金を受け取ったときと同じく所得を得たとみなされ、所得税が発生します。
一時金で受け取ると一時所得になる
解約返戻金や満期保険金を一時金(一括)で受け取った場合は『一時所得』として扱われます。『(保険金額−払込保険料の総額−特別控除額50万円)×1/2』で課税対象金額を算出し、その他の所得と合算して税額を計算しましょう。
年金で受け取ると雑所得になる
解約返戻金や満期保険金を年金(分割)で受け取った場合は『雑所得』として扱われます。『年間の保険金の受取総額−年金額に応じた払込保険料の総額』で課税対象金額を算出し、その他の所得と合算して税額を計算しましょう。
契約者が受取人でないとき
それでは、生命保険の契約者と解約返戻金や満期保険金の受取人が異なる場合はどうなるのでしょうか。
贈与税がかかる
解約返戻金や満期保険金は被保険者の死亡によって支払われるものではないので、相続が発生することはありません。よって、契約者と受取人が異なる場合には、財産を贈与したとみなされ、贈与税がかかります。
『譲り受けた財産の総額-基礎控除110万円』で課税対象金額を算出し、そこに贈与税率を掛けて控除額を差し引き、税額を算出しましょう。
法人の生命保険について
生命保険には、『法人向け生命保険』という商品があります。法人向け生命保険は、名前の通り法人を対象とした生命保険です。経営者の死亡による経営悪化を防止する目的もかねており、個人向けの生命保険よりも死亡保険金が高額という特徴があります。
また、法人向け生命保険は解約返戻金が受け取れるのが基本です。返戻率にピーク期間が設定されており、ピーク期間中に解約すれば、払込保険料の総額の100%以上が戻る商品もあります。
節税効果があるメリット
法人向け生命保険は、法人税の節税効果があるといわれています。法人向け生命保険の保険料は、損金として経費に算入することが認められているためです。
法人税は、益金から損金を差し引いた課税対象金額に応じて税額が決まります。法人向け生命保険への払込保険料を損金に算入することで課税対象金額が下がるため、法人税額も下がるのです。
なお、年間の払込保険料を全額損金にできるもの、1/2だけ損金にできるものなど、商品によって損金に算入できる割合が異なります。法人向け生命保険への加入を検討する際には、保障内容や保険料だけでなく、保険料を損金に算入できる割合も調べておきましょう。
結果的には税金の先送りでしかない
法人向け生命保険の保険料を損金に算入することは、結果的には納税の先送りにしかなりません。法人向け生命保険から受け取る死亡保険金や解約返戻金は、益金に算入しなければならないからです。
保険料を損金に算入して、いったん法人税の税額が下がっても、あとから死亡保険金や解約返戻金によって法人税が上がるので、厳密には節税とはいえません。
死亡保険金や解約返戻金の金額によっては、その年の法人税額が非常に高額になり、かえって多くの法人税を納めることになる可能性もあります。法人向け生命保険に加入する際には、死亡保険金や解約返戻金を受け取ったときのことまで考えることが重要です。
まとめ
生命保険から死亡保険金や解約返戻金、満期保険金などを受け取ると、税金がかかる可能性があります。契約者と被保険者、受取人の関係や保険金の受け取り方法などで課せられる税金の種類が変わるので、あらかじめ税金のことまで考えて受取人を決めましょう。
また、税金の種類によっては非課税枠や控除など、税額を軽減できる制度が設けられていることがあります。できるだけ税額を抑えられるよう、こういった制度について調べておきましょう。