医療保険とは
医療保険とは、病気やけがの治療によってかかった医療費の負担を、保険者(※1)から支給される給付金によって軽減する制度のことです。
(※1.保険者とは、保険事業の運営者のことです)
国民皆保険が基本
日本は『国民皆保険』が基本であり、全国民に公的医療保険に加入する義務が課せられています。日本のどこにいても、誰でも保険医療を受けられる仕組みが作られているのです。
公的医療保険と民間医療保険
医療保険には、公的医療保険と民間医療保険があります。
- 公的医療保険:国や市町村などの公的機関が運営する医療保険
- 民間医療保険:保険会社などの民間の事業者が運営する医療保険
保険証の番号でさまざまなことがわかる
公的医療保険に加入した際に発行される保険証には、個別の番号や記号が割り振られていますが、これを見るとさまざまなことがわかります。
種類 | 詳細 |
記号 | ・正式名は事業所別整理番号 ・その保険証の保険者が識別できるようになっている |
番号 | ・その保険証が使用された場合に、給付金を支給する保険者が識別できるようになっている |
保険者番号 | ・法的番号、都道府県番号、保険者別番号、検証番号の4種類から成り立つ ・法的番号:対象の医療保険制度がわかる ・都道府県番号:保険証に記載されている都道府県がわかる ・保険者別番号:医療保険の種別がわかる ・検証番号:保険者別番号が正確か確認できる |
公的医療保険について
ここでは、公的医療保険の保険者や統括機関、主な保障内容などについて解説します。
厚生労働省が統括
公的医療保険は、市区町村・全国健康保険協会・健康保険組合・共済組合などの機関が保険者であり、それを厚生労働省が統括しています。
- 市区町村:国民健康保険を運営
- 全国健康保険協会:協会けんぽ(健康保険・船員保険)を運営
- 健康保険組合:組合健保(組合管掌健康保険)を運営
- 共済組合:国家公務員共済組合や地方公務員共済組合などを運営
そして、以下の5種類を財源として運営されています。(厚生労働省『我が国の医療保険について』より)
- 国庫:25.7%
- 地方自治体からの公費:13.2%
- 事業主が納める保険料:20.6%
- 被保険者(※)が納める保険料:28.2%
- 患者負担:11.6%
ただし、国民健康保険は事業主の保険料がないため、被保険者の保険料の割合が多くなります。
(※被保険者とは、その保険の保障の対象者となる人のことを指します)
主な内容
公的医療保険の主な保障内容には、以下のようなものがあります。
種類 | 詳細 |
療養の給付 | ・業務外の病気やけがの治療で医療費が発生した場合に受けられる給付 ・保険証の提示で、自己負担額が総医療費の1~3割に減額される |
高額療養費 | ・1カ月の医療費の自己負担額が自己負担の上限を超えた場合に利用できる制度 ・保険者に申請すると、上限を超過した分が払い戻される |
傷病手当金 | ・業務上の病気やけがの治療で休業し、十分な収入が得られない場合に受けられる給付 ・国民健康保険加入者は利用不可 |
出産に関する給付 | ・出産費用が発生したり、出産のために休業したりした場合に受けられる給付 ・出産育児一時金:出産費用の補助金 ・出産手当金:出産による休業中の収入保障が目的の給付金 |
公的医療保険の種類
公的医療保険は、対象者や保障内容によっていくつかの種類に分かれます。ここでは、種類別の詳細を見ていきましょう。
健康保険
『健康保険』は、協会けんぽや組合健保といった公的医療保険を指すものです。協会けんぽは主に中小企業の会社員、組合健保は常時700人以上(共同設立の場合は合算で常時3000人以上)の社員がいる大企業を対象としています。
協会けんぽ(管掌健康保険含む)が約3600万人、組合健保が約2900万人の合計約6500万人と、最も加入者数が多い公的医療保険です。
健康保険の保険料は、都道府県と被保険者の標準報酬月額(※)で決定されます。そして、決定した保険料を、被保険者と勤め先で折半して保険者に納付します。
(※標準報酬月額とは、賃金や手当などの合計である報酬額を、第1~50等級に区分した金額のことです)
我が国の医療保険について |厚生労働省
標準報酬月額・標準賞与額とは? | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
船員保険
船員保険は協会けんぽのひとつで、海上で業務を行う船員を対象とした公的医療保険です。基本的な保障内容は、健康保険と同じです。
ただし、傷病手当金が健康保険よりも手厚いという特徴があります。健康保険の場合、連続3日間の待機期間が経過した後からでないと、傷病手当金が支給されません。
しかし、船員保険では、待機期間なしで傷病手当金を受け取ることが可能です。また、健康保険の傷病手当金の給付期間は最長1年6カ月ですが、船員保険は3年と定められています。
さらに、法律で妊娠中の女性の船舶での業務が禁じられていることから、出産手当金の支給開始が通常よりも早かったり、行方不明手当金が設けられていたりといった違いもあります。
共済組合
共済組合とは、公務員を対象とした公的医療保険です。大きく、『国家公務員共済組合』『地方公務員共済組合』『私立学校教職員共済組合』に分かれます。
種類 | 詳細 |
国家公務員共済組合 | ・国家公務員が対象 ・衆議院や参議院、各省庁の共済組合の連合組織 |
地方公務員共済組合 | ・地方公務員が対象 ・都道府県や市区町村の職員、公立学校や教育委員会の職員、警察などの共済組合の連合組織 |
私立学校教職員共済組合 | ・私立学校の職員が対象 |
保障内容は健康保険と大差ありませんが、健康保険よりも保険料が安いという特徴があります。
国民健康保険
国民健康保険は、自営業者や無職の人などを対象とした公的医療保険です。健康保険や船員保険、共済は勤め先が加入手続きをしてくれますが、国民健康保険は自分で居住している自治体の窓口に出向いて手続きをしなければなりません。
保険料は『医療分』『後期高齢者支援金分』『介護分(40~64歳の加入者のみ)』で構成されており、それぞれの金額は以下の4種類の合計額で決定されます。
- 所得割:前年の所得額(※)に応じた金額
- 均等割:その世帯の加入者数に応じた金額
- 平等割:1世帯あたり定額で加算される金額
- 資産割:固定資産税に応じた金額
国民健康保険料は被保険者が全額負担するため、健康保険と比べて負担が重くなります。また、傷病手当金などの保障が受けられません。
(※所得額とは、賃金や手当などの収入額から、給与所得者は給与所得控除、自営業者は必要経費を差し引いて算出する金額のことです)
職域保険や後期高齢者などの地域保険の分類
公的医療保険は、『職域保険』と『地域保健』に分類されます。
- 職域保険:健康保険、船員保険、共済組合が該当する
- 地域保健:国民健康保険が該当する
職域保険には『扶養』という制度があるため、所定の条件に該当する扶養家族は保険料を負担することなく、世帯主が加入している公的医療保険に加入できます。一方、地域保健には扶養制度がないため、その世帯の家族が個別に保険料を負担しなければなりません。
なお、75歳以上になると、どの公的医療保険に加入している人でも、後期高齢者医療制度に移行されます。後期高齢者医療制度は地域保険に該当するため、個別に保険料を負担する必要があります。
後期高齢者医療制度(75歳以上の方の医療費)|70歳以上の方の医療について|健保のしくみ|SCSK健康保険組合
民間医療保険の種類
民間医療保険にも、さまざまな種類があります。ここでは、主な民間医療保険の詳細について解説します。
終身医療保険
終身医療保険とは、満期がない医療保険のことです。被保険者が死亡、あるいは契約解除するまで保障が続きます。
終身医療保険は、契約を解除した場合に解約返戻金(かいやくへんれいきん※)が受け取れる、貯蓄性が高い商品が多いという特徴があります。ただし、その分保険料が高い傾向にあるので、加入前にしっかりシミュレーションすることが大切です。
できるだけ安い保険料で終身医療保険に加入したい場合は、解約返戻金が少ない低解約返戻金型や、解約返戻金がない無解約返戻金型も検討するとよいでしょう。
(※解約返戻金とは、保険契約を解除した際に、それまでの契約内容に応じて支払われる払戻金のことです)
定期医療保険
定期医療保険とは、満期がある医療保険のことです。契約時に設定した期間内だけ保障が受けられます。定期医療保険は、基本的に解約返戻金などの支払いがない掛け捨て型になるので、保険料が安いのが特徴です。
ただし、定期医療保険の中には、満期時に契約を更新して保障期間を延長できる商品がありますが、更新するとその時点の年齢に応じて保険料が高くなる可能性があります。場合によっては、終身医療保険よりも保険料が高くなることがあるので注意しましょう。
定期医療保険のシミュレーション | アクサダイレクト生命保険
女性保険
女性保険とは、女性疾病にかかった場合に給付金額が加算されるなど、女性疾病に対する保障が手厚い医療保険です。通常の医療保険の保障に女性疾病特約を付けることになるのが一般的で、特約を付けた分保険料が高くなります。
通常の医療保険でも女性疾病の保障は受けられるので、貯蓄などの備えがある場合は、女性保険の必要性はあまり高くありません。貯蓄が少ない人や女性疾病に対する不安が強い人は、加入を検討しましょう。
女性向け医療保険 新CURE Lady[キュア・レディ]|オリックス生命保険株式会社
引受基準緩和型保険
引受基準緩和型医療保険とは、健康状態に問題がある人や、持病がある人でも加入しやすい医療保険です。通常の医療保険は、給付金を支給する可能性が非常に高いことから、健康状態に問題がある人の加入を原則として認めていません。
しかし、引受基準緩和型医療保険では、健康状態に問題がある人でも加入できるように、健康状態に関する加入条件の基準が引き下げられています。
その代わりに、ほかの医療保険に比べて保険料が高いので、無理なく保険料を払い続けられるかどうかを、よく検討することが重要です。
引受基準緩和型医療保険 新CURE Support[キュア・サポート]|オリックス生命保険株式会社
民間医療保険について
民間医療保険とはどのようなものなのか、主な保障内容や公的医療保険との違いを知っておきましょう。
公的医療保険との違い
公的医療保険と民間医療保険には、以下のような違いがあります。
公的医療保険 | 民間医療保険 |
・国などの公的機関が運営している ・全国民に加入の義務がある ・誰でも審査なしで加入できる ・手術や検査などの、直接的な医療行為のみが対象 |
・民間企業が運営している ・加入は任意 ・加入時に審査がある ・直接的な医療行為以外の保障が受けられる場合がある |
主な内容
民間医療保険は、入院と手術に対する保障が主な保障内容です。
- 入院した場合:『給付金日額×入院日数』の入院給付金が支給される
- 手術した場合:『1回の手術で〇円』など、一律の金額の手術給付金が支給されるのが基本
もし、入院や手術以外の保障が必要な場合は、『特約』という有料オプションを付けて対応します。特約の内容は商品によって異なるので、いろいろな医療保険を比較してみましょう。
社会保険制度とは
公的医療保険の話をしていると、『社会保険』という言葉が出てくることがあります。この社会保険とはどのような制度なのか、具体的な内容について解説します。
医療保険に年金や介護などが加わる
社会保険制度とは、公的医療保険に『公的年金』『介護保険』『雇用保険』『労災保険』を加えた、公的保障制度の総称です。健康保険を社会保険と呼ぶこともありますが、厳密にいうと『社会保険制度の中の健康保険』です。
医療や介護、雇用などで、個人の力だけでは対応しきれないような大きな問題が起きた場合のセーフティネットとして、社会保険制度の仕組みが作られています。
I. 社会保障制度 ─ わかりやすい社会保障制度|知るぽると
社会保険料や民間医療保険の控除
社会保険制度や民間医療保険に加入すると、必ず保険料が発生します。この保険料の負担を軽減するための制度として、『社会保険料控除』や『生命保険料控除』といった控除が設けられています。
- 社会保険料控除:納税者が自分や配偶者などの社会保険料を納めた場合に適用される控除
- 生命保険料控除:納税者が民間医療保険に保険料を支払っている場合に適用される控除
これらの控除が適用されると、所定の金額が所得額から差し引かれ、税負担が軽減されます。控除を受けるには、年末調整や確定申告の際に手続きする必要があるので、忘れないようにしましょう。
No.1130 社会保険料控除|国税庁
No.1140 生命保険料控除|国税庁
訪問看護について
公的医療保険加入者は、『訪問看護』にかかる費用も軽減できます。ここでは、訪問看護の概要について見ていきましょう。
訪問看護とは(一般の方むけ) | 訪問看護とは | 公益財団法人 日本訪問看護財団 公式ウェブサイト
訪問看護の内容や対象
訪問看護とは、医療従事者が病気や障害状態にある人の自宅を訪問し、必要に応じて療養の補助や注射などの医療行為を行うサービスのことです。
訪問看護の対象となるのは、自宅で療養中の病気や障害状態にある人のうち、主治医が訪問看護が必要と認めた人です。年齢は問いません。ただし、要介護状態で自宅で療養中の場合は、訪問看護ではなく、介護保険の『訪問介護』の対象となります。
医療保険と介護保険によるサービス
医療従事者が自宅に訪問するサービスは、医療保険の『訪問看護』と介護保険の『訪問介護』の2種類があります。訪問看護の場合は、注射などの医療行為もサービス内容に含まれますが、訪問介護では医療行為は行われません。
また、訪問時間なども大きく異なります。訪問看護では、訪問看護師が原則週3回まで、1回あたり30分~1時間30分ほど滞在します。
一方、訪問介護ではケアプランに沿って訪問回数が決まるほか、1回あたりの滞在時間も20分・30分・1時間・1時間30分の4区分から決定されるのか基本です。
医療保険と介護保険で、料金体系や自己負担額の割合も異なるので、サービスを利用する前に訪問看護相談窓口に確認しておきましょう。
まとめ
医療保険は、公的医療保険と民間医療保険に分かれています。どちらも医療費の軽減を目的とした制度ですが、それぞれ保険者や保障内容などが異なります。各医療保険の詳細をよく理解して、適切に利用できるようになりましょう。