控除とは
まず初めに、『控除』とはどのようなものなのでしょうか。ここでは、言葉の意味から控除の種類までを簡単に説明します。
差し引くという意味
控除とは『差し引く』という意味です。『税金の控除』とは、条件を満たした場合に所得(※)から一定の金額を差し引いて、所得税額や住民税額を軽減できる制度をいい、『所得控除』と『税額控除』の2種類に分かれます。
(※所得とは、収入から給与所得者は給与所得控除を、自営業者は必要経費を控除した後の金額です)
所得控除
所得控除とは、所得額から差し引く控除をいいます。所得税や住民税は、所得から所得控除を差し引いた後の課税所得額に応じて税額が決定されるのです。
受けられる所得控除の数が多いほど課税所得額が下がるので、その分所得税額・住民税額も下がります。所得控除は、以下の14種類です。
- 基礎控除
- 社会保険料控除
- 医療費控除
- 生命保険料控除
- 扶養控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦(寡夫)控除
- 勤労学生控除
- 雑損控除
税額控除
税額控除とは、所得税額・住民税額から差し引く控除です。税額から直接控除額を差し引くことにより、控除額分税額が下がります。税額控除は全部で19種類ありますが、ここでは主な税額控除のみ紹介しましょう。
- 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
- 配当控除
- 政党等寄附金特別控除
- 外国税額控除
- 認定NPO法人等寄附金特別控除
- 公益社団法人等寄附金特別控除
- 住宅耐震改修特別控除
- 住宅特定改修特別税額控除
- 認定住宅新築等特別税額控除
生命保険料控除
『生命保険料控除』は、生命保険や医療保険、がん保険など、民間の保険に加入している場合に受けられる控除です。
1年間で支払保険料の総額と新旧どちらの対象かで、控除額が決まります。また、所得税と住民税で控除額が異なるので、控除額を計算する際には注意しましょう。
税金の負担が軽くなる「生命保険料控除」|公益財団法人 生命保険文化センター
旧制度の控除額
旧制度は、契約日が2011年12月31日以前の保険が対象です。まずは、所得税の控除額を見てみましょう。
年間の支払保険料の総額 | 控除額 |
2万5000円以下 | 年間の支払保険料全額 |
2万5000円超5万円以下 | 年間の支払保険料÷2+1万2500円 |
5万円超10万円以下 | 年間の支払保険料÷4+2万5000円 |
10万円超 | 5万円 |
こちらは、住民税の控除額になります。
年間の支払保険料の総額 | 控除額 |
1万5000円以下 | 年間の支払保険料全額 |
1万5000円超4万円以下 | 年間の支払保険料÷2+7500円 |
4万円超7万円以下 | 年間の支払保険料÷4+1万7500円 |
7万円超 | 3万5000円 |
新制度の控除額
新制度は、12年1月1日以降に契約した保険が対象です。所得税の控除額は以下になります。
年間の支払保険料の総額 | 控除額 |
2万円以下 | 年間の支払保険料全額 |
2万円超4万円以下 | 年間の支払保険料÷2+1万円 |
4万円超8万円以下 | 年間の支払保険料÷4+2万円 |
8万円超 | 4万円 |
次に、住民税の控除額です。
年間の支払保険料の総額 | 控除額 |
1万2000円以下 | 年間の支払保険料全額 |
1万2000円超3万2000円以下 | 年間の支払保険料÷2+6000円 |
3万2000円超5万6000円以下 | 年間の支払保険料÷4+1万4000円 |
5万6000円超 | 2万8000円 |
生命保険料控除の種類
生命保険料控除の新旧各制度の種類は、以下のように分かれます。
- 旧制度:一般生命保険料控除・個人年金保険料控除
- 新制度:一般生命保険料控除・個人年金保険料控除・介護医療保険料控除
控除額の計算と上限
控除額の計算方法と、上限について見ていきましょう。仮に、新制度の対象となる生命保険に年間5万円の保険料を支払っているとします。この場合、所得税の控除額は3万2500円、住民税の控除額は2万6500円です。
- 所得税の控除額:5万円÷4+2万円=3万2500円
- 住民税の控除額:5万円÷4+1万4000円=2万6500円
ただし、生命保険料控除は、該当する控除数で上限額が決まります。そのため、複数の民間保険に加入している場合は、上限を超える可能性があるのです。
出典:税金の負担が軽くなる「生命保険料控除」|公益財団法人 生命保険文化センター
上限を超えた部分は控除の対象外になるので、上限額を考えた上で保険料を決める必要があります。
新旧制度の違い
新旧の各制度では、控除額や控除の上限が異なっています。また、新しく介護医療保険料控除が設定されて対象となる控除が変わった保険契約があるので、控除を申告する際にはよく確認してください。
対象となる保険契約
ここでは、各保険料控除の対象となる保険契約について把握しておきましょう。
No.1141 生命保険料控除の対象となる保険契約等|国税庁
生命保険契約
以下は、一般生命保険料控除の対象となる契約です。ただし、保険金の受取人が契約者(※1)・配偶者などに限られます。
- 生命保険会社や外国生命保険会社、農業協同組合、旧簡易生命保険などと締結した保険契約のうち、被保険者(※2)の生存・死亡に対して保険金が支払われる保険
- 確定給付企業年金にかかる規約または適格退職年金契約
旧制度では上記以外に、以下の保険契約も対象です。
- 生命保険会社や損害保険会社と締結した、病気やケガなどに対して保険金が支払われる保険契約のうち、医療費支払事由に基因して保険金が支払われる保険
(※1.契約者とは、保険料を支払っている人をいいます)
(※2.被保険者とは、保険の対象となる人のことです)
介護医療保険契約
介護医療保険料控除の対象は以下になります。
- 生命保険会社や損害保険会社と締結した、病気やケガなどに対して保険金が支払われる保険契約のうち、医療費支払事由に基因して保険金が支払われる保険
- 病気やケガなどに対して保険金が支払われる一定の旧簡易生命保険契約や生命共済契約などのうち、医療費支払事由により保険金が支払われるもの
また、一般生命保険料控除と同様に、保険金の受取人が契約者・配偶者などであることが条件です。
個人年金保険契約
個人年金保険料控除は、『個人年金保険料税制適格特約を付加した個人年金保険』が対象です。個人年金保険は、個人年金保険料税制適格特約がなければ対象外になります。
なお、個人年金保険料税制適格特約を付加するためには、以下をすべて満たしていなければなりません。
- 年金の受取人が契約者あるいはその配偶者
- 年金の受取人と被保険者が同一
- 保険料の払込期間が10年以上
また、確定年金の場合は上記に加え、以下も満たす必要があります。
- 年金支給開始日における被保険者の年齢が60歳以上
- 年金支給期間が10年以上
地震保険料控除
ここでは、『地震保険料控除』について解説します。地震保険料控除とは、特定の損害保険契約の地震等損害部分の保険料や掛金を支払った場合に受けられる控除です。
旧長期損害保険の経過措置
以前は『損害保険料控除』がありましたが、地震保険料控除の新設時に廃止されました。ただし経過措置として、以下の条件を満たす損害保険契約に限り、地震保険料控除の対象となります。
- 06年12月31日までに締結している(保険期間・共済期間の開始が07年1月1日以後のものは対象外)
- 満期返戻金などがあり、保険期間・共済期間が10年以上
- 07年1月1日以後にその損害保険契約などを変更していない
控除される金額の計算と上限
地震保険料と旧長期損害保険料の控除額は以下の通りです。
区分 | 年間の支払保険料の総額 | 控除額 |
地震保険料 | 5万円以下 | 年間の支払保険料全額 |
5万円超 | 5万円 | |
旧長期損害保険料 | 1万円以下 | 年間の支払保険料全額 |
1万円超2万円以下 | 年間の支払保険料÷2+5000円 | |
2万円超 | 1万5000円 |
地震保険料と旧長期損害保険料の2種類を支払っている場合は、5万円を上限としてそれぞれの控除額を合計した金額を控除できます。
対象となる保険契約
地震保険料控除の対象となるのは、以下に該当する保険・共済契約のうち、自分や同一生計の配偶者などが所有する家屋や家具などの損害を補てんするものです。
- 損害保険会社・外国損害保険会社などと締結した損害保険契約のうち、一定の偶然の事故によって生じた損害を補てんするもの
- 農業協同組合・農業協同組合連合会と締結した建物更生共済契約または火災共済契約
- 農業共済組合などと締結した火災共済契約または建物共済契約
- 漁業協同組合などと締結した、建物・動産の共済期間中の耐存を共済事故とする共済契約または火災共済契約
- 火災等共済組合と締結した火災共済契約
- 消費生活協同組合連合会と締結した火災共済契約、自然災害共済契約
- 財務大臣の指定した火災共済契約、自然災害共済契約
No.1146 地震保険料控除の対象となる保険契約 |国税庁
年末調整で保険料控除を受ける
保険料控除を受けるには、年末調整や確定申告で控除について申告する必要があります。まずは、年末調整で控除を受ける方法について見ていきましょう。
年末調整とは
年末調整とは、給与所得者の年間の所得額とそれに対する所得税額・復興特別所得税額について申告し、源泉徴収などによって納めた税額との過不足を精算する手続きのことです。
以下の書類を提出すれば、あとは勤務先が手続きしてくれるので、納税者にとって負担が少ない申告方法といえるでしょう。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書
保険料控除を受ける場合は、上記以外に保険会社から送付される『保険料控除証明書』を提出する必要があります。
保険料控除申告書の書き方
保険料控除を受ける際には、給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書に控除額などを記入しなければなりません。
出典:税理士がやさしく解説 平成29年分保険料控除申告書の書き方
申告書左側の『生命保険料控除』と『地震保険料控除』の欄に、保険料控除証明書に記載されている内容を転記しましょう。
- 保険会社等の名称
- 保険等の種類
- 保険期間又は年金支払期間
- 保険等の契約者の氏名
- 保険金等の受取人の氏名・続柄
- 新・旧の区分
- 控除額
控除額は自分で計算する必要があります。計算が難しい場合は、保険会社のシミュレーターを利用するとよいでしょう。
生命保険料控除制度計算シミュレーター | 日本生命保険相互会社
控除証明を紛失した場合は?
保険料控除証明書を紛失した場合は、保険会社に再発行を依頼してください。年末調整に間に合うように、早めに手続きを済ませることが大切です。
確定申告で保険料控除を受ける
自営業者や副業をしている給与所得者などが保険料控除を受ける場合は、確定申告をする必要があります。
確定申告とは
確定申告とは、納税者自ら年間の所得額と所得税額・復興特別所得税額について申告し、源泉徴収などによって納めた税額との過不足を精算する手続きのことです。
確定申告期間は、申告が必要な年の翌年2月16日~3月15日と定められています。期間を過ぎると無申告加算税などのペナルティが課せられる可能性があるので、必ず期間内に手続きを済ませましょう。
確定申告書の書き方
確定申告書は第一表と第二表に分かれています。確定申告書第一表では、『所得から差引かれる金額』のところにある『生命保険料控除』と『地震保険料控除』の欄に控除額を記入しましょう。
出典:所得税及び復興特別所得税の申告に使用する申告書第一表様式の解説 平成29年分 松本寿一税理士事務所
確定申告書第二表でも、『生命保険料控除』と『地震保険料控除』の欄に控除額を記入します。
出典:平成29年分 所得税の申告書B第二表(所得税の申告書様式) 大阪府高槻市の松本寿一税理士事務所
申告書が完成したら、保険料控除証明書と併せて納税地管轄の税務署に提出しましょう。
保険料控除申告書の書き方は?仕組みや年末調整と確定申告の手続き
確定申告で受けられるその他の控除
所得税や住民税には、生命保険料控除や地震保険料控除以外にも控除があります。ここで紹介する控除は、給与所得者でも確定申告が必要になる控除です。
医療費控除
医療費控除とは、自分や配偶者のために支払った年間医療費が一定額を超えた場合に、支払った医療費の金額に応じた控除が受けられる制度のことです。控除額の上限は200万円で、金額は以下の式で算出します。
- 1年間で支払った総医療費-給付金額(※1)-10万円
その年の総所得額等(※2)が200万円未満の場合は、総所得額等の5%が控除額です。医療費控除の対象となる医療費、対象外となる医療費は以下の通りです。
対象となる医療費 | 対象外の医療費 |
・診察費 ・入院費 ・手術費 ・リハビリ代 ・介護費 |
・健康診断の費用 ・予防注射の費用 ・美容整形代 ・差額ベッド代(※3) |
(※1.給付金額とは、民間保険から支払われる保険金や給付金、高額療養費、出産育児一時金などの合計額です)
(※2.総所得額等とは、事業所得・不動産所得・利子所得・給与所得・配当所得(総合課税)・雑所得・一時所得×1/2・短期譲渡所得・長期譲渡所得×1/2の損益通算後の合計額に、退職所得・山林所得を加算し、繰越控除を適用した金額です)
(※3.差額ベッド代とは、患者の希望で個室や少人数部屋に入院した際に発生する費用です)
寄附金控除
寄附金控除とは、国や地方自治体などに寄附をした場合に受けられる控除です。寄附金控除額は、以下のいずれか少ないほうの金額が採用されます。
- その年の特定寄附金の合計額-2000円
- その年の総所得金額等の40%相当額-2000円
No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
住宅ローン控除
住宅ローン控除とは、住宅ローンによって住宅を新築・購入・増改築した場合に、所定の金額を所得税額から控除できる制度です。控除額は、住宅ローンの年末残高と物件に所定の数値を掛けて算出します。
住宅ローン控除は年末調整で申告できる控除ですが、給与所得者でも住宅ローン1年目のみ確定申告が必要です。
住宅を新築又は新築住宅を購入した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
まとめ
生命保険や地震保険に加入している人は、年末調整や確定申告の際に保険料控除について申告すれば、所得税や住民税が安くなります。申告の際には自分で控除額を計算しなければならないので、計算方法についてしっかり理解しておきましょう。