生命保険料控除とは
生命保険やがん保険といった民間保険に加入している場合、『生命保険料控除』を受けられる可能性があります。まずは、制度の概要や控除を受けるための手続きの方法について解説します。
申告をすれば税金が安くなる
生命保険控除とは、民間保険に保険料を支払っている場合に、保険料に応じた金額を所得(※1)から差し引いて、税金の負担を軽減できる所得控除(※2)の一種です。
民間保険に加入していれば自動的に控除が受けられるわけではなく、納税者が控除額を申告する必要があります。
(※1.所得とは、報酬や給与、手当などの収入額から給与所得者は給与所得控除、自営業者は必要経費を差し引いた金額のことです)
(※2.所得控除とは、一定の条件を満たした場合に、所得から所定の金額を差し引いて、税金の負担を軽減できる制度のことです)
手続きは年末調整で行う
給与所得者の場合は、年末調整で控除額の申告手続きを行います。勤め先で『給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書』を受け取り、必要事項を記入して提出しましょう。
自営業の人は確定申告
自営業者の場合は、確定申告で控除額を申告しましょう。確定申告書第一表、第二表のそれぞれに必要事項を記入して、税務署に提出します。
確定申告書第一表
出典:所得税及び復興特別所得税の申告に使用する申告書第一表様式の解説 平成29年分 松本寿一税理士事務所
確定申告書第一表には、『所得から差引かれる金額』という箇所にある、『生命保険料控除』の欄に控除額を記入しましょう。
確定申告書第二表
出典:平成29年分 所得税の申告書B第二表(所得税の申告書様式) 大阪府高槻市の松本寿一税理士事務所
確定申告書第二表には、『生命保険料控除』という箇所にある、『介護医療保険料の計』欄に控除額を記入します。
確定申告期間は申告する年の翌年2月16日~3月15日なので、期間内に手続きを完了させましょう。
平成24年に生命保険料控除が新制度に
生命保険料控除は、2010年の税制改正によって新制度が創設されており、12年以降に契約した民間保険には新制度が適用されます。
- 新制度:12年1月1日以降に契約した民間保険が対象
- 旧制度:11年12月31日以前に契約した民間保険が対象
ただし、11年12月31日以前に契約した民間保険であっても、12年1月1日以降に契約更新や特約の付加をした場合は、その年から新制度が適用されます。
がん保険の新旧制度での違い
旧制度は『一般生命保険料控除』と『個人年金保険料控除』の2種類でしたが、新制度では『介護医療保険料控除』が追加され、3種類になっています。
また、控除額も新旧制度で異なるため、控除額を計算する際には注意しましょう。
新旧制度の両方が混在している場合もある
民間保険に複数加入している場合は、新旧制度が混在している可能性があります。このようなときには、新旧制度それぞれの控除額を算出して合算することが可能です。
なお、新旧制度それぞれの控除限度額と、新旧制度を合算する際の控除限度額は、以下のように定められています。
出典:税金の負担が軽くなる「生命保険料控除」|公益財団法人 生命保険文化センター
払込保険料の金額によっては、新旧制度のいずれかに絞って控除を受けたほうがお得なこともあるので、事前に控除額をシミュレーションしておきましょう。
生命保険料控除の種類
新制度は『一般生命保険料控除』『介護医療保険料控除』『個人年金保険料控除』の3種類に分かれています。ここでは、それぞれの概要や対象になる保険について解説します。
Q.新しい生命保険料控除制度とは?|公益財団法人 生命保険文化センター
No.1141 生命保険料控除の対象となる保険契約等|国税庁
一般生命保険料控除
一般生命保険料控除は、以下のような被保険者(※1)の生存・死亡によって、保険金や給付金が支払われる保険が対象となる控除です。
- 生命保険会社・農業協同組合・旧簡易生命保険などと締結した保険契約のうち、生存・死亡に基因して、一定額の保険金が支払われる保険
- 確定給付企業年金に係る規約、または適格退職年金契約
旧制度の場合は上記に加え、以下の保険も対象に入ります。
- 生命保険会社や損害保険会社と締結した、身体の疾病、傷害などに基因して保険金が支払われる保険契約のうち、医療費支払事由に基因して保険金などが支払われる保険
また、新旧制度のいずれの場合も、保険金などの受取人が契約者(※2)・その配偶者・その他の親族であることが条件です。
(※1.被保険者とは、保険の対象となる人のことを指します)
(※2.契約者とは、保険料の払込をしている人のことを指します)
介護医療保険料控除
介護医療保険料控除は、以下のような入院や通院などにかかった費用に対して保険金や給付金が支払われる保険が対象となる控除です。
- 生命保険会社や損害保険会社と締結した、身体の疾病、傷害などに基因して保険金が支払われる保険契約のうち、医療費支払事由に基因して保険金などが支払われる保険
- 身体の疾病、傷害により保険金などが支払われる旧簡易生命保険契約、または生命共済契約などのうち一定のもので、医療費支払事由により保険金などが支払われるもの
また、一般生命保険料控除と同じく、保険金などの受取人が契約者・その配偶者・その他の親族であることが条件です。
個人年金保険料控除
個人年金保険料控除とは、個人年金保険料税制適格特約を付加した個人年金保険が対象となる控除です。
個人年金保険料税制適格特約とは、個人年金保険料控除を受ける場合に付加しなければならない特約で、この特約を付けていない場合は個人年金保険料控除の対象外となります。
なお、個人年金保険料税制適格特約を付けられるのは、以下のすべての要件を満たしている場合に限られます。
- 年金受取人が契約者、または契約者の配偶者であること
- 年金受取人と被保険者が同一であること
- 保険料払込期間が10年以上であること
- 確定年金の場合は、年金支給開始日における被保険者の年齢が60歳以上、年金支給期間が10年以上であること
がん保険も控除対象
がん保険も控除対象に入っています。
介護医療保険料控除の対象
がん保険は、『介護医療保険料控除』の対象です。ただし、旧制度では『一般生命保険料控除』が適用されます。旧制度の控除額の計算方法は以下通りです。
所得税の控除額
年間払込保険料 | 控除額 |
2万5000円以下 | 払込保険料全額 |
2万5000円超 5万円以下 | 払込保険料÷2+1万2500円 |
5万円超 10万円以下 | 払込保険料÷4+2万5000円 |
10万円超 | 5万円 |
住民税の控除額
年間払込保険料 | 控除額 |
1万5000円以下 | 払込保険料全額 |
1万5000円超 4万円以下 | 払込保険料÷2+7500円 |
4万円超 7万円以下 | 払込保険料÷4+1万7500円 |
7万円超 | 3万5000円 |
税金の負担が軽くなる「生命保険料控除」|公益財団法人 生命保険文化センター
所得税の控除の限度額は4万円
新制度の介護医療保険料控除の控除額は、以下で計算しましょう。
所得税の控除額
年間払込保険料 | 控除額 |
2万円以下 | 払込保険料全額 |
2万円超 4万円以下 | 払込保険料÷2+1万円 |
4万円超 8万円以下 | 払込保険料÷4+2万円 |
8万円超 | 4万円 |
住民税の控除額
年間払込保険料 | 控除額 |
1万2000円以下 | 払込保険料全額 |
1万2000円超 3万2000円以下 | 払込保険料÷2+6000円 |
3万2000円超 5万6000円以下 | 払込保険料÷4+1万4000円 |
5万6000円超 | 2万8000円 |
介護医療保険料控除の控除上限額は、所得税4万円、住民税2万8000円です。
税金の負担が軽くなる「生命保険料控除」|公益財団法人 生命保険文化センター
がん保険の保険料控除証明書について
控除額を申告するときには、『保険料控除証明書』を添付する必要があります。保険料控除証明書とは、1年間の払込保険料の金額を証明するための書類です。
控除証明書はいつ届くか
保険料控除証明書は年末調整が始まる前の、10~11月頃に届くのが一般的です。保険会社によって発送時期が異なるので、正確な時期を知りたい場合は保険会社に確認しましょう。
証明書のチェックするポイント
控除額について申告する場合に、保険料控除証明書の中でチェックするポイントを見ていきます。
出典:Q.新しい生命保険料控除制度とは?|公益財団法人 生命保険文化センター
保険料控除証明書の1番上には、契約者の氏名や保険金の受取人、保険料払込期間といった契約情報が記載されています。
控除額の申告時には、契約情報を申告書類に記入しなければらならないので、まずはこの箇所を確認しましょう。
そして、契約情報の下には現時点での保険料の払込額と、12月まで保険料を払い込んだ場合の保険料の払込額が記載されています。
年内に保険を解約することがないのであれば、控除額の申告時には12月まで保険料を払い込んだ場合の保険料の払込額を記入しましょう。
証明書を失くした時
保険料控除証明書をなくしたときや保険料控除証明書が届かないときは、保険会社に連絡しましょう。
給与所得者は、連絡が遅れると年末調整に間に合わなくなる可能性があるので、気づいた時点で速やかに連絡ことが重要です。
年末調整時に手元に保険料控除証明書がないときは、自分の控除額が把握できているかどうかで対応が変わります。
- 控除額が把握できている場合:保険料控除証明書を添付せずに申告書を提出し、あとから保険料控除証明書を提出する
- 控除額が把握できていない場合:2月に自分で確定申告をして控除を受ける
生命保険料控除申告書の書き方
ここでは、年末調整時に使用する『給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書』の書き方について解説します。
控除証明書の内容を転記する
給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書の左上に、『生命保険料控除』という箇所があります。
出典:税理士がやさしく解説 平成29年分保険料控除申告書の書き方
その中の『介護医療保険料』という箇所に、保険料控除証明書の契約情報を記入します。
- 保険会社等の名称
- 保険等の種類
- 保険期間又は年金支払期間
- 保険等の契約者の氏名
- 保険金等の受取人の氏名・続柄
- 新・旧の区分
出典:税理士がやさしく解説 平成29年分保険料控除申告書の書き方
申告書のガイドに沿って計算する
保険料控除証明書の内容を記入したら、給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書のガイドに沿って控除額を計算し、金額を記入しましょう。
- 介護医療保険料の項目の『(a)の金額の合計額』の欄に記入した金額(C)を、『計算式Ⅰ』の表に当てはめる
- 該当の控除額の計算式によって控除額を計算する
- 『Cの金額を計算式Ⅰに当てはめて計算した金額』の欄に、計算した控除額を記入する
控除額の計算がむずかしい場合は、保険会社が公開しているシミュレーターを利用するとよいでしょう。
生命保険料控除制度計算シミュレーター | 日本生命保険相互会社
書き方で注意しておきたいこと
ここでは、給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書の書き方で、注意したい点について解説します。
受取人と続柄の記載
給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書には、保険金の受取人と続柄の記載が必要です。このとき記載する続柄は、がん保険の契約者と保険金の受取人の関係性を記載しましょう。
保険金の受取人 | 続柄 |
契約者の親 | 父・母 |
契約者の配偶者 | 夫・妻 |
契約者の子ども | 長男・長女・次男など |
契約者の祖父母 | 祖父・祖母 |
契約者の子どもが保険金の受取人になっている場合は、続柄に『子ども』と書くのではなく、『長男』『長女』のように記載します。
ただし、子どもが1人の場合は『子』と記載しても問題ありません。もし保険金の受取人を指定していない場合は、この欄は空欄にしておきましょう。
新制度旧制度の区分
給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書には、新旧どちらに該当するのか、区分を記入する欄があります。
旧制度の対象となるがん保険に加入している場合は、『一般の生命保険料』という項目に契約情報や控除額を記入し、『旧』に丸を付けましょう。
新制度の対象となるがん保険に加入している場合は、『介護医療保険料』の欄に契約情報や控除額を記入します。
がん保険の控除は介護保険料控除が適用。旧制度は計算方法に注意
がん保険の受取人が複数の場合の控除申告
がん保険の保険金の受取人が複数いる場合、給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書にはどのように記載すればよいのでしょうか。
受取人になれる人とは
がん保険の保険金の受取人になれる人の範囲は、保険会社によって異なります。ただし、控除を受けるには、保険金の受取人が契約者とその配偶者、またはその他の親族でなければなりません。
親族の範囲は6親等以内の血族(契約者の親族)と3親等以内の姻族(配偶者の親族)です。親等は以下の表で確認しましょう。
親等 | 該当者 |
1 | 父母・子ども |
2 | 祖父母・兄弟姉妹 |
3 | 曾祖父母(そうそふぼ※1)・叔父母・甥姪 |
4 | 高祖父母(こうそふぼ※2)・いとこ・祖父母の兄弟姉妹 |
5 | 曾祖父母の兄弟姉妹 |
6 | またいとこ |
がん保険の保険金や給付金は、契約者かその配偶者が受け取るケースが多いですが、念のため保険金の受取人について確認しておきましょう。
No.1141 生命保険料控除の対象となる保険契約等|国税庁
(※1.曾祖父母とは、自分または配偶者の祖父母の親・養親を指します)
(※2.高祖父母とは、自分または配偶者の曾祖父母の親・養親を指します)
申告書には1人分のみを書く
給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書の保険金受取人の記入欄は、1人の名前しか記入できません。
そのため、妻と子どもなど、保険金の受取人として複数人指定している場合は、その中でメインとなる1人分のみを記入します。
保険金の受取人の中に、契約者・配偶者・6親等以内の血族・3親等以内の姻族以外の人が入っている場合は、その人を記入しないように注意しましょう。
まとめ
がん保険に加入している場合は、保険料に応じた金額を所得から控除されるので、税金の負担を軽減できます。
ただし、控除を受けるには、保険金の受取人などの条件を満たす必要があるほか、年末調整や確定申告で控除額を申告しなければなりません。
また、新制度と旧制度のどちらに該当するかによって、控除額の計算方法や控除上限額が異なります。
控除額の申告手続きをスムーズに済ませられるよう、控除の概要や控除額の計算方法について、しっかり理解しておきましょう。