法人向けがん保険について
まずは、法人向けがん保険について解説します。
法人向けがん保険の概要
法人向けがん保険とは、法人契約するがん保険のことです。がん保険とは、がん治療に対する保障に特化した民間保険のことで、がんによる入院や通院、手術などにかかった費用の保障が受けられます。
通常のがん保険は個人で加入しますが、法人向けがん保険は、企業の代表や役員、社員が被保険者(保険対象者)となります。
保障内容は大きく分けると3種類
がん保険は、保障内容によって大きく3種類に分かれます。
- がん診断給付金を主軸としたタイプ
- 治療を受けた月に給付金が支払われるタイプ
- 入院・手術保障を主軸としたタイプ
法人向けがん保険は上記のうち、がん診断給付金を主軸にしたタイプになることが多いでしょう。商品によっては、死亡保障が付帯していることもあります。
また、法人向けがん保険は『解約返戻金(かいやくへんれいきん※)』が支払われるのが基本です。
法人向けがん保険は、個人向けよりも解約返戻金額が高く、ピーク時には払込保険料の100%近い金額が受け取れることもあります。計画的に解約すれば、解約返戻金によって退職金や事業資金を捻出することも可能です。
(※解約返戻金とは、保険を解約したときに、それまで払い込んだ保険料や加入期間をもとに支払われるお金のことです)
法人向けがん保険の節税になるか
法人向けがん保険に加入することは、節税対策になるのでしょうか。
かつては節税対策として人気があった
法人向けがん保険は、かつては節税対策として人気の商品でした。これは、法人向けがん保険に払い込んだ保険料が、全額損金として計上可能であったためです。
法人税は、益金から損金を差し引いたあとの課税所得額(課税対象額)に法人税率を掛けて算出します。つまり、損金が多いほど税金が安くなるということです。
法人向けがん保険に払い込んだ保険料を全額損金として計上できれば、その分の税金が安くなるため、法人税の節税に大きく役立っていました。
税制改正で1/2損金に変更となった
2012年4月27日に発表された税制改正によって、損金として計上できる金額が、『法人向けがん保険に払い込んだ保険料の1/2まで』に変更されています。これでは法人向けがん保険の節税メリットは半減したといえるでしょう。
ただし、保険料の前払い期間中(※)と、前払い期間完了後で保険料の取扱いが異なるので、経理処理の際には注意が必要です。
- 前払い期間中:払込保険料の1/2が損金、残りの1/2は前払い保険料として資産計上
- 前払い期間後:『払込保険料全額+前払い保険料を残りの保障期間で等分した金額』を損金として計上
(※法人向けがん保険は契約日~105歳を税法上の保障期間としており、保障期間の1/2までを保険料の前払い期間としています)
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法人向けがん保険のメリット
節税対策としての効果は半減した法人向けがん保険ですが、加入するメリットはあるのでしょうか。
がん診断給付金で保障
多くの法人向けがん保険は、『がん診断給付金』を保障の主軸としています。がん診断給付金とは、がんと診断された時点で給付請求できる給付金のことです。
個人向けがん保険のがん診断給付金額は100万円程度になることが多いですが、法人向けがん保険では600万円~1800万円程度の金額になるのが一般的です。
入院や手術の給付金とは異なり、治療が終わるのを待たずに請求可能で、給付金全額が一括で支払われます。
用途に制限がないので、がんの治療費以外にも、代表者が治療のために離脱して売り上げが減少した場合の補償などにも利用できます。
企業の代表や役員ががんになった場合に、早い段階でまとまった額の資金が確保できるのは、大きなメリットといえます。
個人より保険に加入しやすい
多くの法人向けがん保険は、健康診断書を提出する必要がなく、告知のみで加入できます。忙しい企業の代表や役員でも、手間をかけずに加入できる点もメリットといえるでしょう。
ただし、保険金額が高額になると健康診断書の提出が必要になる場合もあるので、保険会社の担当者などに確認を取っておきましょう。
社員の福利厚生として有効
法人向けがん保険は、社員の福利厚生としても有効です。法人向けがん保険は、企業の代表や役員だけでなく、社員も被保険者とすることが可能です。
社員も被保険者にすることで、社員ががんにかかった場合に給付金を支給できるほか、社員が退職する際にがん保険を解約すれば、解約返戻金を退職金に充当できます。
社員を被保険者にすると、その分保険料も高くなるので、損金として計上できる金額も上がり、節税にも役立つでしょう。
ただし、社員の福利厚生のために法人向けがん保険に加入していることを証明できないと、税務調査の際に損金として認められなくなる可能性があるので注意が必要です。
まとめ
法人向けがん保険は、税制改正によって節税効果が半減しています。しかし、払い込み保険料の1/2は損金として計上できるので、節税対策としてまったく役に立たないというわけではありません。
また、がん診断給付金や解約返戻金を、事業資金や退職金として活用できるため、加入を検討する価値はあるでしょう。