保険の解約返戻金とは
保険の『解約返戻金』とは、保険を解約した際に払い戻されるお金のことです。解約返戻金額は、加入期間や払込保険料などの条件に応じた『返戻率』によって決まります。
保険会社は、契約者(保険料の負担者)が支払う保険料の一部を積み立てており、そこから解約返戻金が支払われるため、加入期間が長いほど解約返戻金は高くなることが一般的です。
また、保険料払込期間中の解約返戻金を通常の70%程度に減らすことで、保険料を安くしている『低解約返戻金型』や、保険料払込完了後に解約返戻金が増えるタイプの商品もあります。
解約返戻金が受け取れる保険の種類
解約返戻金が受け取れる保険は、終身保険や養老保険といった貯蓄性のある保険です。
- 終身保険:一生涯保障が受けられる保険
- 養老保険:一定期間保険料を積み立て、万が一のときは死亡保険金、満期時には満期金(※)を受け取れる保険
このような保険は、保険料に積立分が加算されるので保険料が高くなりますが、払込保険料を無駄にしたくない人に、向いている保険といえるでしょう。
(※満期金とは、保険期間が終了した際に支払われるお金のことです)
解約返戻金を受け取った場合の確定申告は?
解約返戻金は一時所得(※1)とみなされるため、解約返戻金を受け取った場合は、確定申告(※2)をする必要があります。
給与所得者は、年末調整で税金の過不足の精算が行われるため、通常は確定申告をする必要はありません。
しかし、1カ所から源泉徴収の対象となる給与を受け取っており、給与所得・退職金を除く所得額が20万円を超えている場合は、確定申告が必要と定められています。
よって、給与所得者でも、以下の式で一時所得額が20万円を超えた場合には、確定申告が必要です。(一時所得が解約返戻金のみの場合)
- 一時所得額=解約返戻金額−払込保険料総額−特別控除額(50万円)÷2
(※1.一時所得とは、営利目的の継続的行為によって得た所得以外の所得で、労務や役務の対価、あるいは資産の譲渡による対価としての性質を持たない一時的な所得を指します)
(※2.確定申告とは、1月1日~12月31日までの所得額と、それに対する所得税額・復興特別所得税額を申告し、源泉徴収などによって納めた税金との過不足を精算する手続きのことです)
サラリーマンの確定申告(Q&A)|AIC税理士法人
一時所得|国税庁
保険の解約返戻金にかかる税金の種類
解約返戻金にかかる税金の種類は、誰が解約返戻金の受取人になるかによって異なります。
契約者と受取人が同じ場合
契約者と受取人が同じ場合は、『所得税』が課税されます。所得税は、所得額(※1)から所得控除額(※2)を差し引いた課税所得額に税率を掛け、控除額を差し引いて算出します。
課税所得額 | 所得税率(%) | 控除額 |
195万円以下 | 5 | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10 | 9万7500円 |
330万円超 695万円以下 | 20 | 42万7500円 |
695万円超 900万円以下 | 23 | 63万6000円 |
900万円超 1800万円以下 | 33 | 153万6000円 |
1800万円超 4000万円以下 | 40 | 279万6000円 |
4000万円超 | 45 | 479万6000円 |
なお、2037年までは、復興特別所得税(所得税額×2.1%)が上乗せされます。
(※1.所得額とは、収入額から給与所得者の場合は給与所得控除、自営業者の場合は必要経費を差し引いた金額です)
(※2.所得控除とは、所得額から所定の金額を差し引くことにより、税金の負担を軽くする制度のことです)
所得税のしくみ|国税庁
所得税の税率|所得税|国税庁
個人の方に係る復興特別所得税のあらまし|国税庁
契約者と受取人が違う場合
契約者と受取人が異なる場合は、『贈与税』が課税されます。贈与税とは個人から財産を譲り受けたときに課される税金です。
贈与された財産から基礎控除の110万円を差し引いた課税対象額に、所定の贈与税率を掛けて算出します。以下は、『一般贈与財産(※1)』の贈与税率です。
課税対象額 | 税率(%) | 控除額 |
200万円以下 | 10 | - |
300万円以下 | 15 | 10万円 |
400万円以下 | 20 | 25万円 |
600万円以下 | 30 | 65万円 |
1000万円以下 | 40 | 125万円 |
1500万円以下 | 45 | 175万円 |
3000万円以下 | 50 | 250万円 |
3000万円超 | 55 | 400万円 |
『特例贈与財産(※2)』に該当する場合は税率が変わるので注意しましょう。
(※1.一般贈与財産とは、夫婦間・兄弟間・親から未成年の子ども間で贈与された財産のことです)
(※2.特例贈与財産とは、祖父母や父母などから、その年の1月1日において20歳以上の子ども・孫などに贈与された財産のことです)
贈与税がかかる場合|国税庁
贈与税の計算と税率(暦年課税)|相続税 |国税庁
税金の計算方法
解約返戻金にかかる所得税と贈与税の計算方法は、以下の通りです。
一時所得における所得税の計算方法
- 課税所得額を算出:所得額+一時所得額−所得控除
- 所得税額を算出:課税所得額×所得税率−控除額
- 復興特別所得税額を算出:所得税額×復興特別所得税率2.1%
贈与税の計算方法
- 課税対象額を算出:贈与財産額−基礎控除110万円
- 贈与税額を算出:課税対象額×贈与税率−控除額
法人の保険解約返戻金の税金について
法人保険(※)から受け取った解約返戻金には、法人税がかかる場合があります。まず、法人保険に対する払込保険料の計上方法を見てみましょう。
- 資産(積立金など)がない場合:全額損金として計上
- 資産がある場合:払込保険料から資産額を差し引いた金額を損金として計上
それぞれのケースで解約返戻金を受け取った場合の計上方法は、以下の通りです。
- 全額損金として計上している場合:全額雑収入として計上
- 資産があり、資産額が解約返戻金より少ない場合:資産額と解約返戻金の差額を雑収入として計上
- 資産があり、資産額が解約返戻金より多い場合:資産額と解約返戻金の差額を雑損失として計上
そして、『雑収入』として計上した部分に、法人税が課税されます。
(※法人保険とは、法人名義で契約し、経営者に万が一のことがあった場合の備えや、退職金の準備ができる保険のことです)
法人保険 | 損保ジャパン日本興亜
解約返戻金を受け取った場合 | 法人が加入する保険の経理と税金 | 税理士なら港区の税理士法人インテグリティ
保険のもたらすメリットとは
法人保険には、以下のようなメリットがあります。
- 経営者の死亡時や天災などの緊急時の備えができる
- 解約返戻金を退職金などに充てられる
- 払込保険料を損金として計上することで、節税に役立てられる
保険によるデメリットはあるのか
法人保険のデメリットも知っておきましょう。
- 多額の保険料を払い込むことでキャッシュフロー(※)が悪化する可能性がある
- 払込保険料を全額損金とした場合、解約返戻金の受取時に税金が高くなる
(※キャッシュフローとは、収入や支出などのお金の流れのことです。会社の経営状態や資産状況を確認する際の指標となります)
保険を解約する際の注意点
保険を解約する際に、注意すべき点を解説します。
早期解約は要注意
解約返戻金の返戻率は、保険の加入期間や払込保険料などによって決まるため、早期に解約すると返戻率が低くなります。
特に、低解約返戻金型の場合は、保険料の払込期間中の返戻率が通常の70%程度に押さえられているため、早期に解約すると解約返戻金がほとんどない可能性も高いでしょう。
受取人が違うと税率が上がる可能性
贈与税は、所得税よりも税率が高くなることが一般的です。そのため、解約返戻金の受取人と契約者が異なる場合は、税金が高くなることがあります。
受取人を指定する前に、解約返戻金を受け取ったときの税額をシミュレーションしておきましょう。
法人は解約するタイミングに注意
法人保険も、解約するタイミングに注意が必要です。法人税の解約返戻金の返戻率には、ピーク時期が設定されている場合が多いためです。
加入直後は返戻率が低く、年数が経過するごとに高くなっていき、やがて100%に近い返戻率になります。そして、ピーク時期を過ぎると再び返戻率が低くなっていきます。
そのため、返戻率やピーク時期などを確認し、計画的に解約することが大切です。
まとめ
民間保険には、解約時に解約返戻金が受け取れる商品があります。課税される税金の種類は受取人によって異なり、税額も変わるので契約前に確認しておきましょう。
また、法人保険の場合は、解約返戻金によって雑収入を得た場合に法人税がかかります。
払込保険料を全額損金として計上していた場合は、解約返戻金にかかる税金が高くなるので、契約前に解約時の税金について計画しておくことが大切です。