入院費用はどのくらいかかるのか
まずは、入院費用がどのくらいかかるのかを知っておきましょう。
1日あたりの入院費用の目安は
生命保険文化センターの『平成28年度・生活保障に関する調査(第2章医療保障)』によると、1日あたりの入院費用平均自己負担額は、『1万9835円』となっています。
調査結果一覧-1(Excelファイル)平成28年度「生活保障に関する調査」(平成28年12月発行)|公益財団法人 生命保険文化センター
病気によって入院費用は違ってくる
病気によって必要な治療や入院日数が異なるため、入院費用も違ってきます。
全日本病院協会が公表している『医療の質の評価・公表等推進事業』内の医療費のデータ(2017年10~12月)では、以下のような結果が出ています。
病名 | 1入院あたりの入院費用平均額 | 1日あたりの入院費用平均額 |
胃の悪性新生物(がん) | 99万9342円 | 6万590円 |
乳房の悪性新生物 | 72万1921円 | 7万7659円 |
急性心筋梗塞 | 191万134円 | 13万3910円 |
脳梗塞 | 150万1275円 | 7万28円 |
子宮筋腫 | 74万9959円 | 8万6974円 |
これらは、公的医療保険適用前の金額なので、自己負担額は上記の金額の3割です。例えば、胃の悪性新生物の場合、1入院あたりの自己負担額は、概算で約30万円となります。
病気の進行度などによっても金額が変わるので、あくまでも目安として知っておくとよいでしょう。
医療費:医療の質の評価・公表等推進事業:病院運営支援事業 - 全日本病院協会
入院時の自己負担平均額
生命保険文化センターの『平成28年度・生活保障に関する調査(第2章医療保障)』によると、1入院あたりの自己負担平均額は『約22万円』です。
ただし、前述したように病気の種類や進行度によって、入院費用に大きな違いが出るので、正確な金額を知りたい場合は医療機関などに確認しましょう。
調査結果一覧-1(Excelファイル)平成28年度「生活保障に関する調査」(平成28年12月発行)|公益財団法人 生命保険文化センター
保険が使えない入院費用もある
入院費について考えるときに知っておきたい点は、『公的医療保険が使えない入院費用もある』ということです。
医療費は保険が適用される
社会保険や国民健康保険などの公的医療保険が適用されるのは、診察や手術、検査や投薬などの直接的な医療行為にかかった費用です。
公的医療保険が適用されると、総医療費から公的医療保険の給付などが差し引かれるため、自己負担額が以下のように軽減されます。
年齢 | 自己負担額 |
75歳以上 | 1割 ※現役並み所得者は3割 |
70~74歳 | 2割 ※現役並み所得者は3割 |
6~69歳 | 3割 |
6歳未満 | 2割 |
医療費以外の費用は保険適用外
以下のような、直接的な医療行為とみなされない費用に関しては、公的医療保険適用外となり、全額自己負担をしなければなりません。
- 差額ベッド代(※)
- 入院中の食事代
- 入院中の衣服などの購入代
- 病院までの交通費
また、妊娠・出産は病気ではないため、妊婦健診や普通分娩費用も公的医療保険適用外です。
ただし、帝王切開などの異常分娩になった場合は、手術や投薬が必要となるので公的医療保険が適用されます。
そのほか、開発中の試験的な治療や投薬を行う、先進医療や治験にかかった費用も、公的医療保険が適用されないので注意が必要です。
(※差額ベッド代とは、患者が希望して個室などに入院した場合に発生する費用のことです)
公的医療保険の仕組み:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
入院費用が支払えないときは病院へ相談
入院費用が支払えないときは、まずは病院に相談してみましょう。別の治療方法に切り替えたり、入院費用を軽減できる支援制度について教えてもらえたりします。
高額療養費制度を利用する
医療費が高額になった場合の支援制度の1つに、『高額療養費制度』があります。入院費用が支払えずに困っている場合は、この制度が利用できないか確認してみましょう。
自己負担上限額を超えた分が適用
高額療養費制度は、医療費が所定の自己負担限度額(自己負担額の上限)を超えた場合に、自己負担した医療費の一部が払い戻される制度です。
自己負担限度額は、被保険者(保険の対象者)の年齢と標準報酬月額(※1)で異なります。以下は、被保険者が70歳未満の場合の自己負担限度額です。
標準報酬月額 | 自己負担限度額 | 多数該当(※2) |
83万円以上 | 25万2600円+(総医療費−84万2000円)×1% | 14万100円 |
53~79万円 | 16万7400円+(総医療費−55万8000円)×1% | 9万3000円 |
28~50万円 | 8万100円+(総医療費−26万7000円)×1% | 4万4400円 |
26万円以下 | 5万7600円 | 4万4400円 |
住民税非課税者 | 3万5400円 | 2万4600円 |
なお、高額療養費制度による払い戻しが受けられるのは、公的医療保険が適用される費用のみとなるので注意しましょう。
(※1.標準報酬月額とは、給料や手当、賞与などの合算額を第1~50等級に分けたもので、社会保険料などを計算するときに用いられます)
(※2.多数該当とは、高額療養費制度によって払い戻しを受けた月が、1年間で3カ月以上あった場合に、4カ月目から自己負担限度額が引き下げられることです)
高額な医療費を支払ったとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
払い戻しまでに時間がかかる
高額療養費制度の難点は、医療費の払い戻しまでに時間がかかることです。高額療養費制度を利用する際には、以下の流れで手続きを進めますが、全て完了するまでに約3カ月かかります。
- 医療機関で自己負担額(総医療費の3割)を支払う
- 『高額療養費支給申請書』を入手する(※)
- 申請書に必要事項を記入して提出する
- 所定の機関の審査を受ける
- 審査通過後に医療費が払い戻される
一時的とはいえ、総医療費の3割全額を支払うことになるため、長期入院などで入院費用が高額になった場合は負担が大きくなります。
(※高額療養費支給申請書の入手・提出先は、社会保険加入者は健康保険組合、国民健康保険加入者は、地域の国民健康保険担当窓口となります)
限度額適用認定証の申請をする
総医療費の3割を支払えない人や、払い戻しまで3カ月も待てないという人は、『限度額適用認定証』の申請をしましょう。
健康保険組合や国民健康保険担当窓口に『限度額適用認定申請書』を提出し、限度額適用認定証を発行してもらいます。
退院時に限度額適用認定証を提示するだけで、医療機関窓口での支払い額が自己負担限度額までで済みます。
申請書の提出から限度額適用認定証の発行までには1週間程度かかるので、早めに手続きをしておきましょう。
限度額適用認定証をご利用ください | お役立ち情報 | 全国健康保険協会
高額療養費の支給までにお金に困ったときは
限度額適用認定証の申請をしておらず、入院費用の支払いに困った場合は、『高額医療費貸付制度』の利用を検討しましょう。
高額医療費貸付制度とは
高額医療費貸付制度とは、高額療養費が支給されるまでの間、医療費を支払うためのお金を無利子で借りられる制度のことです。
高額療養費支給時に、借入額を差し引いた金額が支給されることで返済が完了するため、返済のことを心配する必要がありません。
ただし、何らかの理由で高額療養費が支給されなかったり減額されたりし、支給額が借入額に満たない場合は、残金を実費で返済することになるので注意が必要です。
高額医療費貸付制度について | 都道府県支部 | 全国健康保険協会
高額療養費で支給見込みの8割を貸付
高額医療費貸付制度で借りられる金額は、高額療養費支給見込額の8割相当額です。
窓口で支払う全額を借りられるわけではないので、事前に借入可能額や実費での支払い額を確認しておきましょう。
請求に必要な書類
高額医療費貸付制度を利用する際には、以下の書類が必要です。
- 高額療養費支給申請書
- 高額医療費貸付金貸付申込書
- 高額医療費貸付金借用書
- 健康保険証、または受給資格者票
- 医療費請求書(医療機関発行の保険点数が分かる書類)
これらの書類を、社会保険加入者は健康保険組合に、国民健康保険加入者は地域の国民健康保険担当窓口に提出します。
対応する機関によって必要書類が異なる場合があるので、申請手続きの前に詳細を確認しておきましょう。
民間の医療保険で入院費用を捻出
民間の医療保険に加入している場合は、そこから入院費用を捻出する方法もあります。
保障内容を確認する
まずは、加入している医療保険の保障内容を確認しましょう。民間の医療保険には、給付金の支給条件が設定されています。
- 対象となる病気
- 入院何日目から給付金が支給対象になるか
- 給付金が支給される限度日数
付帯サービスが役立つこともある
加入している医療保険によっては、医師や看護師に治療について相談できるサービスや、セカンドオピニオン紹介サービスなどが付いていることがあります。
入院や治療方法に関して不安があるときには、こういったサービスが役立つこともあるので、利用してみるとよいでしょう。
出産を控え入院費用が支払えないとき
出産時の入院費用が支払えないときは、どうすればよいのでしょうか。
出産一時金制度がある
出産時には、普通分娩でも平均で『50万5759円』の費用が発生します。(国民健康保険中央会2016年・出産費用の統計情報より)
原則、出産費用は全額自己負担ですが、家計への負担が大きすぎるため、支援制度として『出産一時金制度』が設けられています。
以下の条件に該当する人に対して、加入中の公的医療保険から『子ども1人あたり42万円』の給付金が支給されます。
- 公的医療保険に加入していること
- 妊娠12週(85日)以降の出産であること(帝王切開や流産なども含む)
ただし、以下に該当する場合は、支給額が『子ども1人あたり40万4000円』に減額されます。
- 妊娠22週未満での出産
- 産科医療補償制度(※)に加入していない医療機関での出産
(※産科医療補償制度とは、分娩時の何らかの理由で、生まれた子どもが重度の脳性まひになった場合に、補償金が支払われる制度のことです)
出産費用 平成28年度|国民健康保険中央会
子どもが生まれたとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
直接支払制度
給付金の支払方法には以下の3種類があり、多くの医療機関で、『直接支払制度』が採用されています。
支給方法 | 詳細 |
直接支払制度 | ・給付金が直接医療機関に支給される ・医療機関が給付金の申請手続きをする |
受取代理制度 | ・給付金が直接医療機関に支給される ・自分で給付金の申請手続きをする ・出産前に申請手続きが必要 |
産後申請方式 | ・給付金が自分の口座に振り込まれる ・自分で給付金の申請手続きをする ・出産後に申請手続きをする ・退院時に、いったん出産費用の全額を支払わなければならない |
直接支払制度は、病院の窓口で『受取代理申請書』を受け取理、必要事項を記入・提出するだけで手続きが完了する手間の少ない支給方法です。
また、給付金が直接医療機関に支給され、退院時には入院費用から給付金額を差し引いた金額が請求されるため、高額な入院費用を支払う必要がなくなります。
子どもが生まれたとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
生活福祉資金貸付制度の利用を検討する
出産する地域や病院によっては、出産時の入院費用が出産一時金の金額より高くなることがあります。
このような場合に、どうしても費用が支払えないようであれば、『生活福祉資金貸付制度』の利用を検討してみましょう。
生活福祉資金貸付制度とは、低所得世帯(住民税非課税程度)や障害者世帯、高齢者世帯など、必要な資金の借入が困難な世帯を対象に貸付をする制度です。
『総合支援資金』『福祉資金』『教育支援資金』『不動産担保型生活資金』の4種類があり、その中の福祉資金が出産費用として利用できます。
借入時には、原則として連帯保証人を立てる必要がありますが、立てなくても借入は可能です。ただし、連帯保証人ありの場合は無利子、なしの場合は年1.5%の利息がかかります。
まずは、地域の社会福祉協議会で、生活福祉資金貸付制度が利用できるか相談してみましょう。
出産費用資金貸付制度を使う
医療機関によっては、分娩予約金(※)の支払いが必要になることがあります。金額は医療機関によって異なりますが、5~20万円程度かかるのが一般的です。
分娩予約金の支払いが難しい場合は、『出産費用資金貸付制度』を利用するとよいでしょう。
出産費用資金貸付制度とは、出産前に何らかの支払いが必要になった場合に、出産一時金の8割相当額を上限に、無利子で借りられる制度のことです。
返済は、出産一時金の支給時に、借入金額を差し引いた金額が支給されることで完了します。
出産費用資金貸付制度が利用できるのは、以下のいずれかの要件に該当する人です。
- 出産予定日まで1カ月以内の人
- 妊娠12週(85日)以上で、出産前に医療機関に支払いが必要な人
借入を希望する場合は、社会保険加入者は健康保険組合に、国民健康保険加入者は地域の役所に相談してみましょう。
(※分娩予約金とは、出産費用の踏倒し防止や出産人数の管理のために、医療機関が利用者に請求する費用のことです。支払った分娩予約金は、出産後に分娩費用に充てられます)
出産費貸付制度 | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
分娩費用|産科|東京都世田谷区 杉山産婦人科
切迫早産の入院費用が支払えない
切迫早産で入院し、入院費用が支払えないときは、どのように対処すればよいのでしょうか。
健康保険が適用され3割負担になる
切迫早産とは、早産(妊娠22週0日~妊娠36週6日までの出産)になりかかっている状態のことです。胎児が未熟で出産できる状態ではないため、入院が必要になります。
『安静にすること』が目的の入院ですが、必要に応じて投薬や外科的処置などの医療行為も行われることから、公的医療保険が適用され、自己負担額が医療費の3割に軽減されます。
民間の医療保険の給付対象
民間の医療保険に加入している場合は、切迫早産による入院が給付対象に入っている可能性があります。
入院が決まったら保険会社に連絡して、給付金が支給されるかを確認してみましょう。
切迫早産で入院し、手術を受けました。給付金の支払対象ですか?|よくあるご質問|オリックス生命保険株式会社
高額療養費制度を利用することも可能
切迫早産は公的医療保険の対象であるため、入院費用が自己負担限度額を超えた場合は、高額療養費制度も利用可能です。
切迫早産による入院費用は60~70万円程度、自己負担額は18~21万円程度になるのが一般的です。
入院が長引いたり、差額ベッド代や食事代などが加算されたりすれば、さらに入院費用が高額になる可能性もあるため、限度額適用認定証を申請をしておくとよいでしょう。
入院費用について | ご来院される方へ | 日本赤十字社医療センター(渋谷区)
まとめ
医療費が高額になった人や経済的に入院費用の支払いが困難な人のために、さまざまな支援制度があります。
入院費用が支払えないときには、医療機関や健康保険組合、役所や保険会社などに相談し、利用可能な制度がないかを探してみましょう。