出産一時金ってどんな制度なの?
『出産一時金』とは、出産時にかかる高額な費用の負担を軽減するために、補助金が支給される制度のことです。
出産は病気ではないため、社会保険や国民健康保険などの対象外となっています。そのため、出産時にかかる費用は、原則として全額自己負担しなければなりません。
出産時には、普通分娩でも平均で『50万5759円』という高額な費用がかかります。(国民健康保険中央会2016年・出産費用の統計情報より)
また、各都道府県別に出産費用の平均額を算出したデータでは、以下のような結果になっています。(出産費用の平均が高額な順)
順位 | 都道府県 | 出産費用の平均額 |
1 | 東京都 | 62万1814円 |
2 | 神奈川県 | 56万4174円 |
3 | 栃木県 | 54万3457円 |
4 | 宮城県 | 53万5745円 |
5 | 埼玉県 | 53万1609円 |
全額自己負担となると負担が大きすぎるので、出産一時金による補助が受けられるようになっているのです。
出産費用 平成28年度|国民健康保険中央会
子どもが生まれたとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
一児の出産につき42万円支給
出産一時金の支給額は、一児につき42万円です。双子や三つ子といった多胎児の場合には、出産した人数分の出産一時金が支給されます。
出産一時金の申請書に、多胎児であることを記入する欄と医師の証明欄があるので、忘れずに記入しておきましょう。
まれに多胎児の場合は、出産した人数分の申請書の提出が必要になることがあります。事前に申請方法を確認してから申請するとよいでしょう。
健康保険出産育児一時金支給申請書 | 申請書のご案内 | 全国健康保険協会
出産一時金をもらえる条件
出産一時金を受給するには、以下の条件を満たしている必要があります。
- 社会保険や国民健康保険などの公的医療保険に加入していること
- 妊娠4カ月(妊娠12週)以上での出産であること
健康保険に加入している
出産一時金は、社会保険や国民健康保険といった、公的医療保険から支給されるものです。そのため、『公的医療保険に加入していること』が、出産一時金の支給条件となっています。
もし、配偶者や親などの扶養に入っている場合は、扶養者が加入している社会保険から出産一時金が支給されます。
また、すでに会社を退職している場合は、以下の条件を満たしていれば、退職前に加入していた社会保険から出産一時金を受け取ることも可能です。
- 退職日までに1年以上継続して社会保険に加入していた
- 退職日翌日から6カ月以内の出産である
- 妊娠4カ月以降の出産である
ただし、退職後に夫の扶養に入ったり、国民健康保険に加入したりした場合は、退職前と退職後の保険、どちらの保険から出産一時金を受け取るのかを選択しなければなりません。
また、出産一時金の2重申請防止のために、『出産育児一時金不支給証明書』を提出するよう求められることがあります。
出産一時金は被扶養者でももらえるの?退職後も支給されるためには
妊娠4カ月以降の出産
出産一時金の支給は、妊娠4カ月以降(妊娠12週)で出産した場合に限られます。
妊娠4カ月以降であれば、普通分娩だけでなく、帝王切開や無痛分娩、流産、死産なども全て出産とみなされ、出産一時金の支給対象となります。
出産一時金の申請方法
出産一時金には、3つの申請方法があります。
- 直接支払制度
- 受取代理制度
- 産後申請
ここでは、それぞれの申請方法を説明します。
直接支払制度の場合
『直接支払制度』は、多くの医療機関で採用されていいます。直接支払制度においては、出産一時金は出産する人の口座にではなく、医療機関に支給されます。
そのため、退院時は出産費用から出産一時金の金額を差し引き、出産費用の超過分のみを医療機関に支払います。
出産育児一時金 直接支払制度について | 保険給付の種類 | 健保のしくみ | 味の素健康保険組合
受取代理制度の場合
『受取代理制度』は、直接支払制度が採用されていない一部の医療機関で採用されています。
受取代理制度も直接支払制度と同じく、出産一時金が出産する人にではなく、医療機関に支給されます。
退院時は出産費用から出産一時金の金額を差し引き、出産費用の超過分のみを医療機関に支払います。
出産育児一時金 受取代理制度について | 保険給付の種類 | 健保のしくみ | 味の素健康保険組合
違いは受取代理申請書の有無
直接支払制度と受取代理制度の違いは、『受取代理申請書』の有無です。直接支払制度の場合は、病院の窓口で受取代理申請書を受け取り、必要事項を記入して窓口に提出すれば手続きが完了します。
受取代理申請書の提出を済ませてしまえば、あとは医療機関側が健康保険組合や役所に出産一時金の請求を行うため、出産を控えている人とって負担が少ない方法です。
一方、受取代理制度の場合は受取代理申請書がなく、出産の1~2カ月前までに、自分で出産一時金の申請手続きを行わなければなりません。
社会保険加入者や被扶養者の場合は、加入している社会保険の健康保険組合に、国民健康保険加入者は役所に『出産育児一時金支給申請書』を提出します。
出産育児一時金支給申請書には、医療機関の記入欄があるので、健診のときなどに申請書を持参し、必要事項を記入してもらいましょう。
健康保険出産育児一時金支給申請書 | 申請書のご案内 | 全国健康保険協会
産後申請の場合
何らかの事情があり、直接支払制度と受取代理制度を利用しない場合は、『産後申請』をすれば、出産一時金を自分の口座に振り込んでもらえます。
産後申請の場合も受取代理制度と同じように、健康保険組合や役所に出産育児一時金支給申請書を提出し、申請手続きを行わなければなりません。
また、産後申請をする場合は、いったん窓口で出産費用を全額支払わなければならないため、後から出産一時金が支給されるとはいえ、金銭面での負担が大きくなります。
もし、産後申請を利用するのであれば、家族とよく話し合っておくとよいでしょう。
出産したとき | 保険給付いろいろ | 健保のしくみ | 味の素健康保険組合
出産一時金の申請方法は3種類。手続きを出産前に確認しておこう
出産一時金はいつまで請求できるの?
出産一時金は、いつまで請求できるのか、申請の期限を知っておきましょう。
期限は出産した日の翌日から2年間
出産一時金の支給申請の期限は、『出産した日の翌日から2年間』です。出産一時金の申請を忘れていたとしても、出産日の翌日から2年以内であれば申請可能なので、早めに手続きを済ませましょう。
なお、後日出産一時金を申請する場合、申請先は出産時に加入していた公的医療保険になります。
社会保険に加入していた場合は健康保険組合で、国民健康保険に加入していた場合は役所で手続きしましょう。
出産一時金が満額もらえないケースに注意
通常、出産一時金の支給額は42万円ですが、満額支給されないケースがあるので注意が必要です。
産科医療補償制度とは
『産科医療補償制度』は、出産時に起きた何らかのことが原因で、産まれた子どもが重度の脳性まひになった場合に、子どもと家族の経済的な負担を軽減するために、補償金が支払われる制度のことです。
産科医療補償制度では、以下の要件を満たしており、運営組織が補償対象であると認めた場合に補償金が支払われます。
- 妊娠週数32週以上かつ出生体重1400g以上、または妊娠週数28週以上で低酸素状況を示す所定の要件を満たして出生したこと
- 先天性、あるいは新生児期などの要因によらない脳性まひであること
- 身体障害者手帳1・2級相当の脳性まひであること
なお、産科医療補償制度による補償を受けるためには、産科医療補償制度に加入している医療機関で出産しなければなりません。
未加入の病院では40万4千円
産科医療補償制度に加入していない医療機関で出産した場合、出産一時金の支給額は40万4000円に減額されます。
通常、出産一時金には、産科医療補償制度の掛金額1万6000円分が含まれています。しかし、産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産する場合は掛金が必要ないので、掛金額分が減額されるのです。
出産予定の医療機関が、産科医療補償制度に加入しているのかわからない場合は、医療機関の窓口などで確認してみましょう。
出産費用との差額はどうなるの?
出産費用と出産一時金に差額が発生した場合は、どうなるのでしょうか。
不足は自分で負担する
出産費用が出産一時金の金額を上回った場合、不足分は自己負担になります。
もし、何らかの事情により帝王切開や無痛分娩などになった場合は、手術費用や投薬費用などが加算されるため、普通分娩に比べ出産費用が10~20万円程度高くなります。
そのような場合は特に、出産一時金だけでは出産費用がまかなえない可能性が十分考えられるため、出産費用は多めに確保しておくようにしましょう。
出産費用が下回ったら差額はもらえる
出産費用が出産一時金の金額を下回った場合は、差額請求をすれば差額が払い戻されます。
請求方法は2種類
差額請求の方法は2種類あります。『支給決定通知書(※)』が届く前と届いた後、どちらで差額請求をするかによって必要書類が異なるので、注意が必要です。
項目 | 必要書類 |
支給決定通知書到着前に請求する場合 | ・健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書(医療機関で署名欄に署名してもらうこと) ・直接支払制度の合意文書の写し ・出産費用の領収書の写し |
支給決定通知書到着後に請求する場合 | ・健康保険出産育児一時金差額請求書 |
(※支給決定通知書とは、医療機関に出産一時金が支給された旨が記載されている書類のことです)
出産育児一時金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
海外出産でももらえるの?
海外で出産した場合も、出産一時金はもらえるのでしょうか。
海外赴任中の場合
海外赴任中に海外で出産した場合でも、出産一時金を受け取れます。ただし、海外出産の場合は、産科医療補償制度の対象に入らないため、支給額は40万4000円になります。
また、出産一時金の申請手続きができるのは、日本に帰国や再入国したときです。申請先によって必要書類(※)が異なるので、健康保険組合や役所で確認しておきましょう。
(※医療機関で発行された書類が英語などで記載されている場合は、翻訳して提出するように求められることがあります)
国際結婚で海外在住の場合
国際結婚で海外在住の場合は、基本的に在住している国の医療制度に基づいて出産することになるため、出産一時金は受け取れません。
ただし、以下に該当する場合は、出産一時金が支給される可能性があります。
- 日本国内で加入していた社会保険を任意継続している場合
- 退職後6カ月以内に出産する場合
できれば日本にいる間に、健康保険組合に出産一時金が申請できるか確認しておきましょう。
出産一時金以外に知っておくべきこと
出産時には、出産一時金以外にも利用できる制度があります。
出産費用は確定申告で還付される?
一部の出産費用は、『医療費控除』の対象になっているため、確定申告をすることで還付されます。
医療費控除とは、1年間の医療費の自己負担額が、保険給付金などの金額を差し引いて10万円を超えた場合に、所得額(収入から経費を差し引いた金額)から所定の金額を差し引いて、所得税の負担を軽減する制度のことです。
なお、総所得額等(※)が200万円未満の場合は、医療費の自己負担額が総所得額等の5%を超えた場合に、医療費控除を適用できます。医療費控除の金額は、以下の式で計算しましょう。
- 医療費控除の金額=医療費の自己負担額 – 保険給付金などの金額 – 10万円
総所得額等が200万円未満の場合は、以下の式で計算します。
- 医療費控除の金額=医療費の自己負担額 – 保険給付金などの金額 – 総所得額等の5%
(※総所得額等とは、合計所得額に繰り越し控除を適用して算出した金額のことです)
医療費控除の対象になるもの
出産費用の中で医療費控除の対象になるのは、以下のようなものです。
- 医療機関までの交通費
- 妊婦健診の受診料
- 入院費
- 入院中の食事代
- 分娩費(無痛分娩・帝王切開も含む)
- 産後健診の費用
なお、以下のような費用は、医療費控除の対象外です。
- マイカー通院の場合のガソリン代・駐車場代
- マタニティ用品の購入費
- 出産準備品の購入費
- ベビー用品の購入費
- 医師への謝礼
医療費控除は、家族全員分の医療費を合算して10万円、あるいは総所得額等の5%を超えれば適用となります。
そのため、医療費控除の対象となる出産費用が10万円未満の場合でも、家族全員分の医療費を合算して自己負担額が所定の金額を超えていれば、控除が受けられます。
高額療養費制度とは
『高額療養費制度』とは、ケガや病気などの治療でかかった医療費の自己負担額が、自己負担限度額を超えた場合に、医療費の一部が払い戻される制度のことです。
自己負担限度額は、年齢と標準報酬月額(※)により、以下のように定められています(70歳未満の場合の自己負担限度額)。
標準報酬月額 | 自己負担限度額 |
83万円以上 | 25万2600円+(総医療費 – 84万2000円)×1% |
53~79万円 | 16万7400円+(総医療費 – 55万8000円)×1% |
28~50万円 | 8万100円+(総医療費 – 26万7000円)×1% |
26万円以下 | 5万7600円 |
住民税非課税者 | 3万5400円 |
(※標準報酬月額とは、社会保険料などを算出する際に基準となる金額のことです。給与や賞与などの合計額に応じて、第1~50等級に区分されます)
高額な医療費を支払ったとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
公的医療保険の対象になるもの
高額療養費制度の対象は、公的医療保険の対象となっているケガや病気の治療にかかった費用です。
基本的に出産費用は公的医療保険の対象外となっているため、高額療養費制度は利用できません。
ただし、帝王切開や吸引分娩、鉗子分娩(かんしぶんべん)などの場合は、医療行為とみなされ保険が適用されます。
よって、かかった費用が自己負担限度額を超えていれば、高額療養費制度により医療費の払い戻しが受けられます。また、高額療養費制度も医療費控除と同じく、家族全員分の医療費の合算が可能です。
まとめ
出産一時金の支給には条件があるほか、申請しなければ支給されないため、支給条件や申請方法をあらかじめ調べておきましょう。
また、出産時には出産一時金以外にも、医療費控除や高額療養費制度などの公的な制度が利用できる場合があります。
それぞれの制度の対象条件や申請方法を確認して、出産費用の負担軽減に役立てましょう。