傷病手当金って何?
傷病手当金とは、どのような制度なのでしょうか。
療養中の生活を保障してくれる
傷病手当金とは、病気やケガによる療養中の生活費を保障してくれる制度のことです。
病気やケガによって長期間休職し収入が減少した場合に、一定期間内の収入を加入している社会保険から保障してもらえます。
病気やケガで会社を休んだとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
もらえる期間は最長で1年6カ月
傷病手当金がもらえる期間は、傷病手当金の支給開始から最長で1年6カ月となっています。
ただし、傷病手当金の支給期間中に一度仕事に復帰し、その後再び同じ病気やケガが原因で休職した場合は、復帰期間も1年6カ月に含まれるので注意が必要です。
たとえば、病気で1年休職し3カ月仕事に復帰したものの、再び同じ病気で休職した場合、傷病手当金を受給できるのは、残り3カ月となります。
また、前回傷病手当金を申請したときと、一切因果関係がない病気やケガにより休職する必要が出た場合は、一度1年6カ月傷病手当金の支給を受けていたとしても、再び1年6カ月の受給が可能です。
どんなときに傷病手当金がもらえるのか
傷病手当金は、どのようなときに支給されるのでしょうか。
業務外の病気やケガ
傷病手当金は、『業務外での病気やケガによる休職』が対象です。業務上の病気やケガ、通勤中の事故などは、労災保険(※)の対象となっているため、傷病手当金は申請できません。
(※労災保険とは、業務中や通勤中に起きたことが原因で社員が病気やケガ、死亡した場合に、社員や遺族に対して保険金が給付される制度のことです)
仕事ができない
傷病手当金は、仕事ができない状態にある人に支給されるものです。ただし、必ずしも入院していなければならないわけではなく、自宅療養中でも申請可能です。
また、仕事ができない状態というのは、その人の職業によって判断されます。たとえば、デスクワークの人が足を骨折したとしても、出勤可能であれば傷病手当金は支給されません。
しかし、工事現場での作業が主な人など、足を骨折していると仕事ができない人であれば、傷病手当金が支給される可能性は高いでしょう。
待期3日間を含む4日以上の休み
傷病手当金は、『待期3日間を含む4日以上の休み』を取ることになった場合に支給されます。
待機3日間というのは、病気やケガによって仕事ができない状態と判断された日を初日として、連続して3日間休職することをいいます。
土日祝日、有給休暇なども含めてカウントされ、たとえば、金曜日に病院で仕事ができない状態であるとの診断を受けた場合は、日曜日で待機3日間が成立します。
そして、待機3日間を経て4日目以降の休職日からが、傷病手当金の支給対象となります。
出典:病気やケガで会社を休んだとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
もし、2日休んで3日目に出勤、4日目から再び休んだという場合は、待機3日間は成立せず、傷病手当金が支給されないので注意しましょう。
有給休暇ではない
傷病手当金の支給期間は、有給休暇ではありません。病気やケガによって休職せざるを得ず、給料が減少する場合に、健康保険からの補助を受ける期間です。
有給休暇は、心身の疲労を回復するために付与される休暇であり、休暇中も会社から給与が支払われるため、大きく内容が異なります。
また、傷病手当金の支給条件に、『休職中に給与の支払いがないこと』とあるため、原則として有給休暇中に傷病手当金の支給を受けることはできません。
ただし、休職中に給料が支払われる場合でも、その金額が傷病手当金より低い場合は、差額の支給を受けられます。
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傷病手当はどんな病気でももらえる?
傷病手当金は、どんな病気でも受け取れるのでしょうか。
うつ病などの精神疾患も対象
傷病手当金は、支給の条件を満たしていれば、どのような病気やケガでも支給されます。
そのため、うつ病などの精神疾患でも、仕事ができない状態と判断されれば支給対象に入ります。ただし、美容整形などの病気とみなされないものは、支給対象外となっています。
インフルエンザは?
インフルエンザの場合でも、傷病手当金の支給条件を満たしていれば、傷病手当金を受け取れます。
ただし、傷病手当金を受け取るためには、インフルエンザにかかっていた期間を欠勤にする必要があるため、賞与や人事の査定に影響する可能性があります。
インフルエンザにかかり出勤停止になるのは、『発症した後5日間経過し、かつ解熱後2日間』、つまり最大でも1週間程度になるのが一般的です。
待機3日間を除くと、傷病手当金の支給対象となるのは4日間になるため、賞与や人事の査定に不安がある場合は、有給休暇を利用するのもよいでしょう。
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傷病手当金でもらえる金額
傷病手当金の支給額は、いくらになるのでしょうか。
支給額の計算方法
傷病手当金の支給額は、以下の式で計算できます。
- 傷病手当金の支給額=12カ月の標準報酬月額(※)の平均額÷30日×2/3
(※標準報酬月額とは、社会保険料や保険給付金などを算出する際に基準となる金額のことです。給与などの報酬額に応じて、第1等級の5万8000円から第50等級の139万円までの全50等級に区分され、所定の金額が定められています)
病気やケガで会社を休んだとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
勤務月数が足りない場合
新入社員など、勤務月数が12カ月に満たない場合は、以下のいずれかの金額が低いほうを適用して、傷病手当金の支給額が計算されます。
- 支給開始日が属する月より以前の、継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 傷病手当金を申請した年の前年度の、9月30日における全被保険者の標準報酬月額の平均額
2の全被保険者の標準報酬月額の平均額は、加入している社会保険の健康保険組合に確認しましょう。
各種手当も含む
標準報酬月額の等級は、残業手当や通勤手当などの各種手当や、賞与なども含んだ金額で決まります。ただし、年3回以下の賞与や、見舞金などの臨時で受けるものなどは含まれません。
他の給付との重複はできない
傷病手当金は、出産手当金や障害手当金、休業補償給付などの、他の給付金と重複して受け取ることはできません。
ただし、それぞれの給付金の給付額と、傷病手当金の給付額に差額がある場合は、差額の支給が受けられる可能性があります。
給付の種類 | 差額の支給条件 |
出産手当 | 傷病手当金の給付額が、出産手当金の給付額よりも多い場合は差額が支給される |
老齢(退職)年金 | 老齢(退職)年金の給付額の1/360が、傷病手当金の日額より少ない場合は差額が支給される |
障害厚生年金 | 障害厚生年金額の給付額の1/360が、傷病手当金の日額より少ない場合は支給される |
休業補償給付 | 休業補償給付の日額が、傷病手当金の日額より低い場合は差額が支給される |
病気やケガで会社を休んだとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
傷病手当金の申請方法
傷病手当金の申請方法を説明します。
申請までの流れ
傷病手当金は、以下の流れで申請します。
- 医師から、就労不能(働けない状態)であることの診断を受ける
- 会社に就労不能であることを報告する
- 『健康保険傷病手当金支給申請書』を準備する
- 添付書類を準備する
- 健康保険傷病手当金支給申請書にある、医師の証明欄を医師に記入してもらう
- 健康保険傷病手当金支給申請書にある、事業所の証明欄を勤務先に記入してもらう
- 健康保険組合に書類を提出する
健康保険傷病手当金支給申請書の、医師の証明欄と事業所の証明欄は、傷病手当金の支給を希望する期間が過ぎてから記入してもらいましょう。
たとえば、7月15日~7月25日の期間の傷病手当金を申請する場合は、7月25日以降に記入してもらわなくてはなりません。
そして、健康保険組合に書類を提出したあとは、申請内容の審査がおこなわれます。傷病手当金の支給は、審査終了後1カ月程度かかるのが一般的です。
協会けんぽで傷病手当金申請書の準備
健康保険傷病手当金支給申請書は、協会けんぽのサイトでダウンロードできます。手書き用とパソコンで必要事項が入力できる入力用があるので、使いやすいほうをダウンロードしましょう。
健康保険傷病手当金支給申請書 | 申請書のご案内 | 全国健康保険協会
必要な添付書類
健康保険傷病手当金支給申請書に添付する書類は、傷病手当金を申請する条件などにより異なります。
項目 | 必要書類 |
初回申請時、および変更が生じた場合 | ・年金証書の写し ・年金額改定通知書の写し ・休業補償給付支給決定通知書の写し |
外傷の場合 | ・負傷原因届 |
交通事故など第三者行為による場合 | ・第三者の行為による傷病届 |
被保険者が死亡した場合 | ・(除籍)戸籍謄本、または戸籍抄本 |
被保険者のマイナンバーを記載した場合 | ・本人確認書類 |
どの条件で申請する場合でも、医師の証明欄や事業所の証明欄の記載内容が多く、健康保険傷病手当金支給申請書に書ききれない場合は、別途書類を作成して添付する必要があります。
また、上記以外の書類が必要になる場合があるため、勤務先の担当者や健康保険組合などに確認しましょう。
医師からの診断書は?
傷病手当金の申請では、健康保険傷病手当金支給申請書に医師の証明欄があるため、基本的に医師からの診断書を添付する必要はありません。
むしろ、健康保険傷病手当金支給申請書の医師の証明欄を記入してもらわずに、診断書を添付して申請した場合、申請を受け付けてもらえないことがあるため注意が必要です。
ただし、会社や健康保険組合から診断書の提出を求められた場合は、速やかに提出しましょう。
傷病手当金にデメリットはあるのか
傷病手当金の支給を受けることに、デメリットはあるのでしょうか。
勤務先の協力が必要
傷病手当金を申請するには、健康保険傷病手当金支給申請書の事業者の証明欄を、勤務先に記入してもらわなければならないため、勤務先の協力が必要です。
なかなか事業者の証明欄を記入してもらえないなどの問題が起きた場合は、勤務先から証明がもらえない旨の書類を添付して、健康保険組合に健康保険傷病手当金支給申請書を提出しましょう。
健康保険組合から勤務先に対し、事業者の証明欄を記入するよう通達してもらえる可能性があります。
生命保険の加入が難しい
傷病手当金の支給を受けると、生命保険の加入がむずかしくなる可能性があります。なぜなら、保険会社によっては、傷病手当金などの給付金の支給期間が、保険加入の審査対象に入っていることがあるためです。
傷病手当金を長期間受け取っていたということは、健康状態に問題がある可能性が高いとして、審査に通過しづらくなります。
ただし、傷病手当金の支給を受けてから5年以上経過している場合は、給付金の支給期間が審査に影響しなくなるのが一般的です。
自営業者は対象外
傷病手当は、社会保険の加入者のみが利用できる制度で、国民健康保険の加入者である自営業者は対象外となります。
自営業者には有給休暇などもなく、病気やケガで働けなくなると、生活が成り立たなくなる可能性があります。
万が一のときのために、毎月一定額の保険金が支給される就業不能保険への加入を検討するとよいでしょう。
就業不能保険「働く人への保険2」 保障内容 | 生命保険・医療保険のライフネット生命
傷病手当金の受給中に退職する場合
傷病手当金の受給中に退職する場合、傷病手当金の支給は停止されてしまうのでしょうか。
継続して受給できる条件
傷病手当金の受給中に退職する場合は、以下の条件を満たしていれば、傷病手当金の受給が継続できます。
- 社会保険の加入資格を喪失した日の前日(退職日)までに、継続して1年以上社会保険に加入していること
- 社会保険の加入資格を喪失したときに、傷病手当金を受給している、あるいは受給の条件を満たしていること
- 退職日当日に就労不能状態で出勤していないこと
上記の『継続して1年以上社会保険に加入していること』という条件には、社会保険の任意継続期間は含まれません。
たとえば、2カ月の任意継続期間を経て転職し、転職先で10カ月社会保険に加入していたとしても、条件を満たしていないことになります。
また、退職日に出勤してしまうと、傷病手当金の受給が継続できなくなるので注意しましょう。
傷病手当金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
傷病手当金は確定申告が必要か
傷病手当金を受給した場合、確定申告(※)をする必要はあるのでしょうか。
(※確定申告とは、毎年1月1日〜12月31日までの1年間で得た所得額に対する、所得税や復興特別所得税の税額を計算し、税金の納付額の過不足を精算するための手続きのことです)
課税所得の対象外
傷病手当金は、課税所得の対象外(非課税所得)となっているため、所得税などの税金がかかりません。そのため、確定申告は不要となっています。
また、健康保険組合によっては、通常の給付金に加え、独自に設定した給付金を上乗せする『付加給付』があります。
付加給付についても非課税所得となっているため、確定申告をする必要はありません。
医療費控除にも影響しない
傷病手当金の受給は、医療費控除にも影響しません。医療費控除とは、1年間で自己負担した医療費が所定の金額を超えた場合に、一定額を所得額から差し引き、所得税などの負担を軽くするための制度です。
- 医療費控除の金額=医療費の自己負担額 – 保険給付金などの金額 – 10万円
医療費控除額は、上記の式で計算します。しかし、傷病手当金は、休職中の生活費を補助するものであり、医療費を補てんするものではないため、医療費の自己負担額から差し引く必要がありません。
よって、医療費控除額を計算する際には、影響しないということです。
医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
法第72条《雑損控除》関係|国税庁
まとめ
傷病手当金とは、社会保険加入者が病気やケガによって働けなくなり、収入が減少した場合に、その間の生活費を補助するための制度です。
傷病手当金の支給条件は、業務外の病気やケガであること、就労不能状態にあること、待機3日間を成立させることとなっています。
これらの条件を満たせば、インフルエンザや精神疾患など、どんな病気でも支給対象に入ります。病気やケガで働けなくなったときには、傷病手当金制度を活用しましょう。