出産にいくらかかるか知っていますか?
出産するときには、さまざまな費用がかかります。まずは、妊娠期間中から出産時までにどのような費用が、いくらぐらいかかるのかを知っておきましょう。
制度を使えば自己負担額を軽減できる
妊娠・出産は病気ではないので、公的医療保険の適用外となっています。そのため、妊娠期間中や出産時にかかる費用は、基本的に全額自己負担です。
ただし、国や自治体による公的制度を利用すると、自己負担額を軽減できます。公的制度は、自分で申請しなければ利用できない場合がほとんどなため、制度の内容や申請方法などを、事前に調べておくことが大切です。
出産までにかかる費用の内訳
妊娠期間中にかかる費用には、以下のようなものがあります。
妊婦健診や検査代
妊娠期間中は、妊婦健診代や検査代がかかります。妊婦健診とは、身体測定や血液検査、血圧検査などをおこない、妊婦の健康状態と胎児の発育状態をチェックするための大切な健診です。
妊娠期間中に14回程度受診するのが一般的で、受診の頻度は妊娠の週数によって異なります。
- 妊娠初期~23週:4週間に1回
- 妊娠24週~35週:2週間に1回
- 36週~出産まで:1週間に1回
妊婦健診にかかる費用は、1回当たり4000~6000円程度であることが多く、エコー検査や血液検査などをおこなうと検査費用として、さらに数千円程度加算されることになります。
また、妊婦や胎児の状態がよくない場合は、妊婦健診の回数が増えたり、詳しい検査や入院が必要になったりして、自己負担額が上がることがあります。
妊婦健診”を受けましょう(リーフレット)|厚生労働省
妊婦健診の費用|恵比寿駅から徒歩2分の産婦人科 広尾レディース
マタニティ用品
妊娠期間中には、マタニティ用品の購入費用も必要です。マタニティ服やマタニティショーツといった、お腹が大きくなっても着られる衣類が必要になるためです。
また、出産で入院するときに必要なものをはじめ、母乳パッドや産褥(さんじょく)ショーツといった、産後のケア用品なども購入しなくてはなりません。
さらに、マタニティ用品だけでなく、赤ちゃん用の衣類やおむつ、哺乳瓶、布団などのベビー用品も必要です。
マタニティ用品などの購入費用は、平均で13万円程度となっていますが、必要なものや購入先が人それぞれ違うため、金額に大きく差が出ます。
里帰り出産にかかる費用
里帰り出産をする場合は、その費用も考えなくてはなりません。夫婦それぞれの交通費や、出産前後の生活費、お世話になった人へのお礼代などを合わせると、平均で5万8000円ほどかかります。
また、それまで妊婦健診を受けていた病院で、里帰り出産をする病院への紹介状を書いてもらうと、3000~5000円程度の料金がかかります。
そのほか、里帰り出産をする病院でも、事前に数回は妊婦健診を受ける必要があるため、その費用も考慮しておかなければなりません。
とくに、現在住んでいる地域から、実家までの距離が遠い場合や、実家から病院に行くまでに交通機関を利用する場合などは、予想以上に費用がかさむ可能性があるので注意が必要です。
妊婦健診の費用|恵比寿駅から徒歩2分の産婦人科 広尾レディース
出産時にかかる費用の内訳
出産時には、以下のような費用がかかります。
入院出産費用
出産時には、出産する医療機関に支払う入院・出産費用がかかります。普通分娩の費用の平均額は、50万5759円となっています。(国民健康保険中央会2016年・出産費用の統計情報より)
ただし、都道府県によって、出産費用の平均額に差があります。
都道府県 | 出産費用 |
東京都 | 62万1814円(全国最高額) |
愛知県 | 51万5973円 |
大阪府 | 50万6407円 |
福岡県 | 47万3420円 |
北海道 | 44万3271円 |
鳥取県 | 39万6331円(全国最低額) |
もっとも出産費用が高い東京都と、全国で最低額の出産費用である鳥取県では、出産費用に20万円以上の差があります。
里帰り出産や引っ越しなど、現在住んでいる地域以外で出産する場合は、その地域の出産費用もチェックしておくことが大切です。
大きい病院の場合
病院での出産費用の平均は、51万1652円となっています。(国民健康保険中央会・2016年・出産費用の統計情報より)
大きな病院で出産する場合は、数人で1部屋を利用する、大部屋に入院することが多くなります。
個室を利用できることもありますが、その場合は個室利用料が加算され、出産費用が高額になることがあるため注意が必要です。
小さな産院の場合
小さな産院(診療所)や助産所の出産費用の平均は、以下のようになっています。(国民健康保険中央会・2016年・出産費用の統計情報より)
- 診療所:50万1408円
- 助産所:46万4943円
ただし、小さな産院や助産所の場合、それぞれの産院や助産所によって、サービス内容が大きく異なるため、出産費用は差があります。
たとえば、個人の診療所では、大部屋がなく全室個室であったり、特別な食事が提供されたり、エステが受けられたりと、さまざまなサービスが受けられることがあります。
また、助産院では、上の子供も一緒に入院できたり、出産後すぐに赤ちゃんと同室に滞在できたりといったサービスが受けられることがあります。
このような、サービスが豊富な産院や助産所を利用した場合は、大きな病院で出産した場合よりも、出産費用が高額になることがあるので、前もってよく調べておきましょう。
帝王切開は高額
帝王切開での出産になった場合は、麻酔や投薬、手術費用などがかかるほか、入院日数も普通分娩より長くなるため、出産費用が平均で50~70万円と高額になります。
また、帝王切開には、以下の2種類があります。
- 予定帝王切開:普通分娩が困難で、あらかじめ帝王切開で出産することが決定していること
- 緊急帝王切開:妊娠期間中や出産中に問題が起き、緊急で帝王切開が必要になること
上記の2種類のうち、緊急帝王切開のほうが、費用が高くなるのが一般的です。そのため、万が一のことを考えて、出産費用は余裕を持って用意しておくことが大切です。
費用について | 国立成育医療研究センター
出産費用の内訳を大公開。出産までにいくら準備すればいいの?
妊娠中は補助が受けられるの?
妊娠期間中の妊婦健診などの費用は、自治体の補助が受けられます。
妊婦健診の補助券
妊娠したことがわかったときには、現在住んでいる地域の自治体に、『妊娠届』を提出しましょう。
妊婦健診の費用を補助するための『妊婦健診補助券』がもらえます。自治体によって妊婦健診補助券の内容は異なるため、詳細を知りたい場合は、現在住んでいる地域の役所に問い合わせましょう。
また、妊婦健診補助券は、金額が異なるものが数枚ずつあり、その日の健診の金額に応じて使い分けられるようになっています。
どの金額の補助券を使用するかは、病院側が判断する場合もあるため、妊婦健診補助券の使い方は、病院で確認するとよいでしょう。
平成30年度 妊婦健康診査費用助成について|西宮市ホームページ
県外の場合自治体に確認を
県外で妊婦健診を受ける場合は、妊婦健診補助券が県外でも利用できるかどうかを、自治体に確認しておくとよいでしょう。
妊婦健診補助券は、その地域に住んでいる人の妊婦健診の費用を補助するためのものなので、県外では利用できないことがあります。
妊婦健診補助券が利用できないと、妊婦健診の費用が全額自己負担になります。ただし、事前に申請すれば、県外での使用が許可される場合もあるため、必ず確認を取りましょう。
また、妊婦健診補助券をもらったあとに県外に引っ越した場合、引っ越し前にもらった妊婦健診補助券は、原則利用不可となります。
引っ越し先の自治体によっては、その県で利用できる妊婦健診補助券と交換してくれることもあるので、役所に問い合わせるとよいでしょう。
出産費用の補助制度を徹底解説。賢く利用して自己負担を軽減しよう
出産時に受けられる補助は?
出産時にも、出産費用の負担を軽くするための補助が受けられます。
出産育児一時金
出産育児一時金とは、出産費用の一部を公的医療保険から支給することで、出産費用の負担を軽減するための制度のことです。
子どもが生まれたとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
社会保険か国民健康保険の加入が条件
出産育児一時金の支給を受けるには、社会保険か国民健康保険に加入していること、または被保険者(※)の扶養に入っていることが条件となります。
加えて、普通分娩や帝王切開、中絶や流産など出産方法に関わらず、『妊娠12週(85日)以降の出産』であることも条件です。
また、出産前に退職した場合は、以下の条件を満たしている場合のみ、退職前の社会保険から、出産育児一時金の支給を受けられます。
- 退職日までに、継続して1年以上社会保険に加入していた
- 退職日の翌日から6カ月以内の出産である
(※被保険者とは、保険に加入して保険料を支払っている人のことを指します)
国民皆保険制度について | 三重県医師会
出産育児一時金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
1人当たり42万円の支給
出産育児一時金の支給額は、社会保険と国民健康保険のどちらに加入していても、子供1人当たり42万円となっています。
被保険者の扶養に入っている人でも、支給額は一律42万円です。また、双子などの多胎児の場合は、出産人数×42万円が支給されます。
ただし、妊娠22週未満での出産の場合、あるいは産科医療補償制度(※)に加入していない医療機関で出産した場合は、支給額が40万4000円になります。
(※産科医療補償制度とは、分娩時の何らかの理由により、生まれた子供が重度の脳性麻痺になった場合に、補償金が支払われる制度のことです)
出産したとき(出産育児一時金・出産手当金) | 船員保険 | 全国健康保険協会
高額療養費の払い戻し
帝王切開によって自己負担額が高額になった場合は、『高額療養費制度』を利用して、出産費用の払い戻しを受けるとよいでしょう。
高額療養費制度とは、公的医療保険の対象となる手術や治療を受け、高額な医療費を支払った場合に、支払った医療費の一部が払い戻される制度のことです。
通常、妊娠・出産は公的医療保険の対象外ですが、帝王切開は手術や投薬などが医療行為とみなされ保険の対象となるため、高額療養費制度が利用できます。
高額療養費制度で払い戻しが受けられるのは、年齢と所得状況によって決められた、自己負担限度額を超えた分になります。
全国健康保険協会のサイトなどで、自己負担限度額を確認できるので、帝王切開で出産した場合は、調べてみるとよいでしょう。
高額な医療費を支払ったとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
出産費貸付制度とは
どうしても出産費用が足りない場合は、『出産費貸付制度』を利用して、出産費用を借り入れることができます。
出産育児一時金の8割を無利子で貸付
出産費用貸付制度とは、出産育児一時金の8割を無利子で貸付する制度のことです。出産育児一時金を42万円受け取れる場合は、33万6000円まで借入ができます。
出産費貸付制度は、出産育児一時金の支給が見込まれる人のうち、以下のいずれかに該当する人を対象としています。
- 出産予定日まで1カ月以内の人
- 妊娠12週(85日)以上の人で、出産前に医療機関に支払いが必要な場合
たとえば、病院によっては、出産費用の踏み倒しを防ぐなどの目的で、出産前に5~20万円程度の分娩予約金を支払うよう定めていることがあります。
このような費用を用意するのがむずかしい人に対して、出産育児一時金の一部を無利子で貸し付けているのです。
分娩予約金は、出産後に出産費用に充当され、後日借入額分を差し引いた金額の出産育児一時金が支給されるため、返済に困る可能性は低いでしょう。
出産費貸付制度 | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
産科入院のご案内| 関東労災病院(元住吉、武蔵小杉)
出産費用は医療費控除の対象になるの?
出産費用は医療費控除の対象に入ります。ただし、対象になる費用と、対象にならない費用があるので注意しましょう。
医療費控除とは、自己負担した医療費が、保険給付金などを差し引いて、1年間で10万円以上の場合(※)に所得額から一定額を控除して、所得税の負担を軽くする制度のことです。
なお、医療費控除の金額は、以下の式で計算できます。
- 医療費控除の金額=医療費の自己負担額 - 保険給付金などの金額 - 10万円
なお、総所得額等(※)が200万円未満の場合は、総所得額等の5%が適用となり、医療費の自己負担額が10万円未満であっても控除が受けられます。
(※総所得額等とは、合計所得額に繰り越し控除を適用して算出した金額のことです)
医療費控除でいくら還付されるのか
医療費控除で還付される金額は、以下の式で計算できます。
- 還付金額=医療費控除額×所得税率
所得税率は、課税所得額によって決まります。課税所得額とは、年間の収入額から、経費や各種の控除額を差し引いた後の所得額のことです。
課税所得額に応じて、所得税率は以下のように定められています。
課税所得額 | 所得税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 9万7500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 42万7500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% | 63万6000円 |
900万円超 1800万円以下 | 33% | 153万6000円 |
1800万円超4000万円以下 | 40% | 279万6000円 |
4000万円超 | 45% | 479万6000円 |
たとえば、医療費控除額が10万円、課税所得額が300万円の場合、還付金額は1万円になります。
所得税の税率|所得税|国税庁
医療費控除は実際いくら返ってくる? | 保険のはなし | 保険見直し本舗
対象になる費用
以下のような費用は、医療費控除の対象になります。
- 病院までの交通費
- 妊婦健診の費用
- 入院費
- 入院中の食事代
- 分娩費(無痛分娩・帝王切開の費用も対象)
- 産後健診の費用
医療費控除の対象となる出産費用の具体例|国税庁
医療費控除の対象となる入院費用の具体例|国税庁
対象にならない費用
以下のような費用は、医療費控除の対象外となります。
- 自家用車で通院した場合のガソリン代・駐車場代など
- マタニティ用品の購入費用
- 入院時の衣類などの購入費用
- 医師への謝礼
助成金がないか自治体に確認してみよう
自治体によっては、出産育児一時金以外にも、助成金が支給されることがあります。多くの助成金には申請期限があるため、現在住んでいる自治体に、助成金の制度がないか早めに確認してみましょう。
東京都港区の場合
東京都港区には、出産費用(最大60万円・双子の場合は最大80万円)から、出産育児一時金の金額を差し引いた金額の助成金が支給されます。
助成金の支給を受けるには、以下の要件を満たしている必要があります。
(1)保護者が出産日の前から出産後も港区に住所があり、かつ申請日時点で引き続き1年以上港区に居住していること
(2)産まれた子どもも出生日から港区に住所があり、保護者と同居していること
(3)保護者が日本の公的な健康保険に加入していること
申請期限は、出生日から1年以内となっているため、早めに申請しましょう。
東京都千代田区の場合
東京都千代田区では、単胎・多胎にかかわらず、1回の妊娠につき一律4万5000円が支給されます。助成金の支給条件は、以下のようになっています。
妊娠20週以降から出産までの方で、千代田区内に住所(住民登録)を有している方
(注釈)流産または死産の場合でも支給します。
申請期限は、妊娠20週~産まれた子供の1歳の誕生日前日までとなっているため、忘れずに申請をしましょう。
働く女性のための補助制度も活用しよう
会社員として働いている女性の方は、妊娠・出産による休業や退職によって補助を受けることが可能な場合がありますので、確認しておきましょう。
出産手当金
出産手当金とは、出産の準備のために会社を休んでいる間に給与が支給されていない場合に適用される補助制度です。『出産日以前の42日から出産の翌日以降56日以内』で休んでいる期間が対象となります。受け取れる金額は
(支給開始日以前12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額) ÷ 30日 × 2/3
という計算によって算出されます。
出典:出産で会社を休んだとき | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会
失業給付金
本来失業給付金とは、会社を退職したものの、健康状態に問題なく、働く意欲と能力があるのに就職できない人のために支払われる制度です。
妊娠・出産による退職の場合は、「すぐに復帰できない」とみなされてしまうため、通常では対象外となってしまいます。ところが、『給付期間の延長』を申請しておくことで最長3年間期間を伸ばすことができます。
3年以内に復帰することで、給付金を受け取ることが可能となるのです。受けとれる金額は、退職する前の6ヶ月間の給与と退職時の年齢によって変動します。ざっくりと給料の6割程度と考えておくと良いでしょう。
傷病手当金
切迫流産や、妊娠血圧症などによって会社を休まざるを得ない状況になってしまったときに、傷病手当金の申請が可能となります。ケガや病気で4日以上仕事を休み、その間の給与が支給されない場合に適応されます。
支給期間は支給開始日から最大1年6ケ月です。1年6ケ月分支給されるという意味ではないのでご注意ください。その間に有休や出勤日があれば、その日の分は支給されません。
出典:傷病手当金に関するQ&A | 給付に関するQ&A | Q&A | クボタ健康保険組合
所得税還付金
会社員の場合、所得税は前年の収入を基準にして給与から天引きされています。よって、退職をすると今年度の収入が下がるため、差額分(多く納税している分)を確定申告によって、還付されるものになります。
まとめ
妊娠期間中や出産時には、検診や入院、出産費用などさまざまな費用がかかります。こういった費用は、基本的に全額自己負担となりますが、さまざまな公的制度を利用することで、負担を軽減できます。
公的制度は、自分で申請しないと利用できないほか、申請期限が決まっている場合がほとんどなので、忘れずに申請しましょう。