出産一時金とは
そもそも、出産一時金とはどのような制度なのでしょうか。
健康保険が出産費用の負担を軽減
出産一時金とは、社会保険や国民健康保険といった公的医療保険から、出産費用の負担を軽減するために支給されるお金のことです。
妊娠・出産は病気ではないため保険の対象外となっており、妊娠期間中や出産時にかかる費用は、原則として全額自己負担となっています。
しかし、出産時には、普通分娩でも平均で『50万5759円』という、高額な費用が発生するため、家計に大きな負担がかかります。(国民健康保険中央会 2016年・出産費用の統計情報より)
また、帝王切開になった場合や無痛分娩を選択した場合は、手術や投薬、専用の器具などに費用がかかるため、普通分娩よりも10~20万円程度、出産費用が高くなります。
そのため、出産費用の負担が大きすぎて、安心して出産できないということがないよう、出産一時金を支給することで負担を軽減しているのです。
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誰がもらえるの?
出産一時金の支給を受けるためには、以下の条件を満たしている必要があります。
- 社会保険・国民健康保険の被保険者(※)であること、または被保険者に扶養されていること
- 妊娠12週(85日)以降の出産であること
妊娠12週以降であれば中絶や流産、死産なども出産とみなされ、出産一時金の支給を受けられます。
(※被保険者とは、保険に加入している人のことを指します)
いくらもらえるの?
出産一時金の支給額は社会保険と国民健康保険、どちらの被保険者であっても、一律42万円です。被保険者の扶養に入っている場合でも、金額は変わりません。ただし、以下に当てはまる場合は、支給額が40万4000円となります。
- 妊娠22週未満での出産の場合
- 産科医療補償制度(※)に加入していない医療機関で出産した場合
また、出産一時金は、子ども1人ごとに支給されるため、多胎児(双子や三つ子)の場合は、子どもの人数分が支給額が加算されます。
(※産科医療補償制度とは、出産時に何らかの理由で子どもが重度の脳性麻痺になった場合に、その後の経済的負担を軽減するために、補償金が支払われる制度のことです)
出産したとき(出産育児一時金・出産手当金) | 船員保険 | 全国健康保険協会
出産一時金っていくらもらえるの?支給される条件や申請方法とは
出産一時金の申請の仕方
出産一時金は、出産時に自動的に支給されるものではなく、申請手続きをおこなうことで支給されます。
また、出産一時金には、『直接支払制度』『受取代理制度』『産後申請方式』の3種類の支給方法があり、それぞれ申請方法が異なります。
どのように申請すればよいのか、各支給方法の申請手続きの流れを、それぞれの特徴とあわせて知っておきましょう。
直接支払制度の申請方法
『直接支払制度』とは、出産一時金を自分ではなく、出産する医療機関に直接支給してもらう方法です。以下の流れで申請手続きをおこないます。
- 医療機関の窓口で、『直接支払制度の合意文書』(※)をもらう
- 直接支払制度の合意文書に必要事項を記入し、窓口に提出する
(※直接支払制度の合意文書とは、出産一時金を医療機関に支給することに同意したことを証明するための書類です)
最大のメリットは手間がかからない
直接支払制度の最大のメリットは、申請手続きに手間がかからないことです。医療機関の窓口で書類のやり取りが完結するため、役所などに書類の受取や提出をするために出向く必要がありません。
また、直接支払制度の合意文書を提出してしまえば、その後の出産一時金の申請手続きは、医療機関がおこなってくれます。
さらに、退院時には、出産費用から出産一時金を差し引いた金額が請求されるため、窓口で高額な出産費用を支払わずに済む点もメリットです。
多くの医療機関がこの方法を採用していますが、一部の助産院などでは利用できない場合もあります。医療機関の窓口で、直接支払制度が利用できるか確認しておきましょう。
出産育児一時金 直接支払制度について | 保険給付の種類 | 健保のしくみ | 味の素健康保険組合
受取代理制度の申請方法
『受取代理制度』は、直接支払制度が利用できない助産院などで採用されている方法です。直接支払制度と同じように、出産一時金を医療機関に支給してもらいます。
ただし、この方法の場合は、自分で出産一時金の申請手続きをおこなう必要があるため、直接支払制度よりも少し手間がかかります。
- 健康保険組合、または居住地の役所で『出産育児一時金支給申請書』をもらう
- 出産育児一時金支給申請書に必要事項を記入する
- 出産育児一時金支給申請書の医療機関の記入欄に、必要事項を記入してもらう
- 健康保険組合、または居住地の役所に、出産育児一時金支給申請書を提出する
出産育児一時金支給申請書は、社会保険に加入している場合は健康保険組合から、国民健康保険に加入している場合は、居住地の役所からもらいましょう。
事前申請が必要
受取代理制度を利用するには、出産前に健康保険組合や役所に、出産育児一時金支給申請書を提出し、事前申請をおこなう必要があります。
出産育児一時金支給申請書の提出期限は、健康保険組合や役所によって異なるため、早めに確認しておきましょう。
出産育児一時金 受取代理制度について | 保険給付の種類 | 健保のしくみ | 味の素健康保険組合
産後申請方式での申請方法
『産後申請方式』は、直接支払制度や受取代理制度を利用せず、自分で出産一時金を受け取る方法です。
出産した医療機関が、直接支払制度や受取代理制度を採用している場合でも、希望すれば産後申請方式を選択できます。
- 健康保険組合、または居住地の役所で『出産育児一時金支給申請書』をもらう
- 出産育児一時金支給申請書に必要事項を記入する
- 出産する医療機関の記入欄に、必要事項を記入してもらう
- 健康保険組合、または居住地の役所に、出産育児一時金支給申請書を提出する
申請手続きの流れは、受取代理制度とほとんど変わりませんが、健康保険組合や居住地の役所に、出産育児一時金支給申請書を提出するのは退院後となります。
自分でいったん支払う必要がある
産後申請方式の場合は、退院時に出産費用をいったん自分で全額支払わなければなりません。
そして、退院後に出産育児一時金支給申請書を提出してから、出産一時金が入金されるまでには2週間~2カ月程度かかります。
あとから出産一時金が入金されるとはいえ、いったん50万円前後の高額な支払いをすることになるので、家族ともよく話し合っておきましょう。
出産したとき | 保険給付いろいろ | 健保のしくみ | 味の素健康保険組合
どこで申請手続きをするの?
受取代理制度や産後申請方式で出産一時金の支給を受ける場合、申請手続きはどこでおこなえばよいのでしょうか。
出産する本人が仕事をしているケース
出産する本人が仕事をしている場合は、加入している公的医療保険の種類によって、申請手続きをする場所が異なります。
- 社会保険に加入している場合:勤務先の健康保険組合
- 国民健康保険に加入している場合:居住地の役所
社会保険に加入している場合は、勤務先の担当者に申請手続きを代行してもらえることがあるため確認してみましょう。
夫の扶養に入っているケース
夫の扶養に入っている場合は、夫の勤務先の健康保険組合で申請手続きでをおこないます。
どのように申請手続きを進めたらよいか、夫の勤務先の健康保険の担当者に確認してみましょう。
夫が自営業で自分が専業主婦の場合は、加入している保険の種類が国民健康保険になるため、居住地の役所で申請手続きをおこなうことになります。
申請書の書き方
受取代理制度や産後申請方式で、出産一時金の支給を受ける際に提出する、『出産育児一時金支給申請書』の書き方も覚えておきましょう。
申請書はダウンロードできる
出産育児一時金支給申請書は、全国健康保険協会のサイトなどでダウンロードできます。手書き用とパソコンで必要事項を入力できる入力用があります。
ただし、入力用の場合でも、一部手書きで書かなければならない欄があるほか、押印も必要となります。記入漏れがないように注意しましょう。
健康保険出産育児一時金支給申請書 | 申請書のご案内 | 全国健康保険協会
申請書の記入は被保険者本人
出産育児一時金支給申請書は、被保険者本人が記入しなければなりません。そのため、夫の扶養に入っている場合は、被保険者である夫が記入する必要があります。
ただし、被保険者が亡くなっている場合は、相続人が出産育児一時金支給申請書を記入することになっています。
申請書の書き方
出産育児一時金支給申請書には、以下のような内容を記入します。
- 保険証の番号
- 被保険者の氏名
- 被保険者の住所
- 出産予定者の氏名
- 出産予定日
- 出産人数
- 出産予定の医療機関の名称
- 出産予定の医療機関の住所
双子や三つ子などの多胎児の場合は、出産人数の欄に多胎児であることと、子どもの人数を記入する必要があります。
また、健康保険組合によっては、多胎児の場合は、子どもの人数分の出産育児一時金支給申請書を提出しなければならないことがあります。
前もって出産育児一時金支給申請書が1枚でよいかどうかを、健康保険組合に問い合わせておきましょう。
健康保険出産育児一時金支給申請書 | 申請書のご案内 | 全国健康保険協会
受取代理制度の場合
受取代理制度を利用する場合、出産育児一時金支給申請書の『受取代理人』の欄を、医療機関で記入してもらう必要があります。
ただし、受取代理人の欄のすべてを医療機関が記入するわけではなく、甲(被保険者)の欄は、被保険者が記入しなければなりません。
医療機関に記入してもらうのは、乙(医療機関等)の欄だけなので、記入し忘れないように注意しましょう。
産後申請方式
産後申請方式の場合は、出産一時金を振り込んでもらうために、被保険者の口座情報を記入する必要があります。
このとき、ゆうちょ銀行の口座を記入する場合は、通常の口座番号ではなく、振込専用の店名と預金種目、口座番号を記入しなければなりません。
また、産後申請方式の場合も、医療機関で記入してもらわなければならない個所があるため、忘れずに記入してもらいましょう。
差額が発生した場合どうなるの?
出産一時金と出産費用に、差額が発生した場合はどうなるのでしょうか。
不足分は自己負担
出産費用が出産一時金の金額を超えた場合、不足分は自己負担となります。たとえば、出産費用が50万円だった場合は、出産一時金の42万円を差し引いた8万円が自己負担です。
自己負担金が発生した場合は、退院時に窓口で支払う必要があります。できれば事前に出産費用の総額を確認しておき、支払いの準備をしておくとよいでしょう。
出産費用が安ければ差額請求しよう
出産一時金よりも出産費用が安かった場合は、差額請求の手続きをしましょう。差額請求をすると、差額分の出産一時金の払い戻しが受けられます。
差額請求の手続きでは、『健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書』、もしくは『出産育児一時金差額請求書』のどちらかの書類を提出する必要があります。
それぞれの書類には、以下のような違いがあるため、提出書類を間違えないように注意しましょう。
書類 | 詳細 |
健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書 | ・支給決定通知書(※)の到着前に、差額請求をする際に提出する ・署名欄に医師や助産婦などの出産に関する証明を受ける ・添付書類が必要 (直接支払制度の合意文書の写し・出産費用の領収書の写し) |
出産育児一時金差額請求書 | ・支給決定通知書の到着後、差額請求をする際に提出する ・添付書類不要 |
(※支給決定通知書とは、医療機関に出産一時金の支給が完了した際に送られてくる通知書のことです)
出産したとき | 届出・申請書 | 人材派遣健康保険組合
出産育児一時金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
退職しても出産一時金はもらえるの?
出産を機に退職した場合でも、出産一時金の支給は受けられるのでしょうか。
要件を満たせば支給される
出産を機に退職すると、それまで加入していた社会保険の加入資格を喪失します。この場合は、以下の要件を満たしている人に限り、出産一時金が支給されます。
- 妊娠12週(85日)以降の出産であること
- 退職日までに、継続して1年以上社会保険に加入していること
- 退職日の翌日から6カ月以内の出産であること
また、直接支払制度を利用する場合は、医療機関に『健康保険被保険者資格喪失等証明書』を提示する必要があります。
ただし、会社には、健康保険被保険者資格喪失等証明書を発行する義務はありません。退職者から依頼されないと発行しないこともあるので、必ず依頼しておきましょう。
そして、退職後に出産一時金の支給が受けられるのは、出産する本人が社会保険の被保険者だった場合です。
夫の扶養に入っており、夫が出産前に退職してしまった場合は、出産一時金の支給が受けられなくなるので注意が必要です。
出産育児一時金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
二重申請を防ぐために
退職後に夫の扶養に入り、出産一時金を申請した場合は、『出産育児一時金不支給証明書』の提出を求められることがあります。
出産育児一時金不支給証明書とは、健康保険組合から出産一時金の支給を受けていないことを証明するための書類です。
退職後の翌日から6カ月以内の出産の場合、退職前の会社の健康保険組合か、夫の勤務先の健康保険組合のどちらかを選択して、出産一時金の申請をおこなうことになります。
よって、出産一時金の二重申請を防ぐために、出産育児一時金不支給証明書の提出を求められるのです。
そごう・西武健康健康保険組合 本人が出産したとき
出産育児一時金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
申請期限はいつまで?
出産一時金の申請手続きは、いつまでにおこなえばよいのでしょうか。
申請期間は出産の翌日から2年
出産一時金の申請期限は、出産の翌日から2年以内となっています。少しでも期限を過ぎると、出産一時金の支給が受けられなくなるので、早めに申請しましょう。
後から出産一時金の申請手続きをする場合、申請先は出産時に加入していた健康保険組合になります。出産時に国民健康保険に加入していた場合は、役所に問い合わせましょう。
まとめ
出産一時金の支給方法は3種類あり、それぞれ申請方法が異なります。また、加入している公的医療保険の種類によって、手続きをする場所が異なるため、申請手続きの方法や場所をよく確認しておきましょう。