国が実施する家計調査の概要
国の機関である、総務省統計局が行っているのが『家計調査』です。この統計調査は十分な信頼感があり、日本国内の経済状況を知るうえでも、重要なデータのひとつとなります。
家計調査は、行政的な必要性や社会状況などに合わせて、その時代ごとに調査項目や方法が修正・改善されてきています。
家計調査のこれまでの歩み
現在の家計調査のルーツをたどると、大正5年に行われた「東京ニ於ケル二十職工家計調査」までさかのぼります。
その後、大正15年には初の全国規模の家計調査として、現在の総務省統計局にあたる当時の内閣統計局が、約6,500世帯を対象に1年間の統計調査が行われています。
初期の頃の調査は、期間を決めて行う一度きりのものだったでしたが、昭和6年から昭和18年までは毎年継続的に行われるようになりました。
戦後は混乱する経済状況の中で、消費者物価指数を作成する目的で、全国の28都市,約5,600世帯を選出し、昭和21年に「消費者価格調査」が始まりました。
この調査は、のちの昭和25年に別に行っていた「勤労者世帯収入調査」と統一され、現在の家計調査と同様の、家庭の収入と支出を同時に調べる形態に落ち着きました。
その後、昭和28年には名称も「家計調査」と改められ、調査対象となる家庭の数も拡大されていきます。
昭和56年には、それまで5つに分類していた「大費目(消費支出の項目)」を現在と同じ10に拡大しています。
その後は、平成11年に農林漁家世帯を、平成14年には(単身世帯収支調査として別途調査していた)単身世帯も含めることとして、現在の「家計調査」の形態に落ち着いています。
以下に、家計調査の沿革の概略を表としてまとめておきます。
時期 | 出来事 |
大正5年 | 初の調査「東京ニ於ケル二十職工家計調査」が行われる |
大正15年 | 調査対象世帯数を拡大 |
昭和6年 | 毎年継続しての調査が開始 |
昭和21年 | 「消費者価格調査」が開始 |
昭和25年 | 「消費者価格調査」と「勤労者世帯収入調査」が合併 |
昭和28年 | 「家計調査」の名称に変更 |
昭和56年 | 5大費目から10大費目に改正 |
平成11年 | 農林漁家世帯を調査対象に含める |
平成14年 | 「単身世帯収支調査」を併合して単身世帯も調査対象に含める |
調査の目的と対象世帯
上述したように、物価指数を把握するために始まった戦後の統計調査ですが、国が豊かになった現在では、国民の生活水準を知り、国の経済政策・社会政策の立案をするための基礎資料を得る目的で行われています。
そのため、対象となる地域は全国におよび(昭和21年に行われたときは、選ばれた28都市でした)、そこから統計的な手法で約9,000世帯を抽出して、調査が行われています。
また、以下のような世帯は、収入と支出を正確に知ることが難しいという理由で、対象から外されています。
- 学生の単身世帯
- 病院・療養所や矯正施設の入院者,入所者等の世帯
- 料理飲食店,旅館または下宿屋を営む併用住宅の世帯
- 賄い付きの同居人がいる世帯
- 住み込みの営業上の使用人が4人以上いる世帯
- 世帯主が3カ月以上不在の世帯
- 外国人世帯
調査の方法
家計調査には、調査内容ごとに、いくつかの調査票が使われます。まず、日々の家計上の収入、および支出については、配布された「家計簿」に調査対象者が記入することで調査が行われます。
世帯、および世帯員の属性(家族構成)、住居の状態に関する事項などは、「世帯票」に記入されます。これは調査員による質問調査です。
1年間の収入は、「年間収入調査票」へ調査対象者が記入することで、調査が行われます。
また、貯蓄や負債の保有状況と、住宅などの土地建物の購入計画については、「貯蓄等調査票」に調査対象者が記入します。家計調査は毎月実施されます。
なぜ家計調査は大切なのか?
その歴史を紐解くと、時代ごとの要請に応じて国民の生活状況を把握するため行われてきたのが、総務省の家計調査であることがわかります。
そして、もちろん、この調査は現代においても重要な役割を持っています。
様々な指標としての活用
家計調査が与える統計情報は、集計・加工された後にインターネットなどで公表されます。このため、政府内部だけでなく、企業や研究機関、そして個人などでも参照が可能であり、商品やサービスの開発に活用されています。
家計調査の結果が活かされる対象としては、以下の様なものがあげられます。
- 政策立案のための分析用資料
- 経済・景気動向をみる指標
- 賃金水準を決めるための資料
- 商品やサービスの需要予測の資料
- 民間最終消費支出を推計するための基礎データ
- 消費者物価指数を作成するため資料
消費者寄りの景気動向がわかる
基本的に一般の生活者が記入して作成されるのが家計調査のデータなので、世の中の景気の動向を直接反映したものであると言えるでしょう。
家計調査の対象には、電子マネーの利用やインターネットでの購入状況なども含まれており、現代の消費に合った統計調査となっています。
また、調査対象世帯が物を買った場合の数量なども集計されており、消費者の価格志向による個人消費への影響などを分析する材料にもなります。
家計調査の結果と私たちの暮らし
日本全国の、様々なタイプの家庭を対象にした家計調査は、私たち国民にとって、そのときの景気の状況を端的に示すデータだと言えます。
近年の調査結果を読み解く
実際に、2012年〜2016年の5年間に国内の景気がどう動いたのかを知るため、その期間に2人以上の世帯が行った消費支出(1カ月平均)、貯蓄額、負債額の推移を見てみましょう。
以下に、そのデータを示します。
年 | 消費支出(円) | 貯蓄額(万円) | 負債額(万円) |
2012 | 286,169 | 1,658 | 469 |
2013 | 290,454 | 1,739 | 499 |
2014 | 291,194 | 1,798 | 509 |
2015 | 287,373 | 1,805 | 499 |
2016 | 282,188 | 1,820 | 507 |
都市ごとの支出項目も明らかに
家計調査では、全国の都市ごとに消費支出を細かく調べています。ここでは、その支出項目を10大費目に分けて、主要な都市のそれぞれのデータを見てみましょう。
以下に、7都市を例に上げて消費支出の状況を示します(数字の単位は円)。
支出項目 | 都市名 | ||||||
札幌市 | 仙台市 | 東京都区部 | 名古屋 | 大阪市 | 高知市 | 福岡市 | |
食料 | 55,141 | 55,466 | 69,485 | 67,917 | 62,638 | 61,042 | 60,410 |
住居 | 18,071 | 20,765 | 28,814 | 18,683 | 13,206 | 21,102 | 22,173 |
光熱・水道 | 19,985 | 15,871 | 16,222 | 14,852 | 15,530 | 17,169 | 16,005 |
家具・家事用品 | 6,945 | 8,131 | 8,375 | 7,352 | 6,740 | 6,755 | 8,341 |
被服及び履物 | 8,887 | 7,974 | 11,955 | 10,570 | 8,680 | 8,061 | 10,722 |
保健医療 | 10,512 | 8,346 | 12,191 | 9,784 | 10,143 | 10,704 | 9,853 |
交通・通信 | 34,433 | 28,629 | 25,485 | 33,406 | 22,229 | 35,819 | 31,638 |
教育 | 6,660 | 4,283 | 11,330 | 8,319 | 6,563 | 7,687 | 9,538 |
教養娯楽 | 23,630 | 23,971 | 32,722 | 27,799 | 22,412 | 24,386 | 26,650 |
その他の消費支出 | 45,808 | 38,158 | 51,953 | 46,690 | 42,253 | 68,087 | 49,656 |
調査結果を踏まえ暮らしに活かす
世の中一般の家庭が、平均的に行っているお金の使い方を、端的な数字で表している公正なデータが、総務省統計局の行う家計調査です。
その内容からは、自分の住む地域の人や、自分に近い生活スタイルの人の支出や貯蓄といった経済状況を読み取れます。
その平均値を、自分のお金の使い方を見直すための、ひとつの判断材料として利用することが可能です。
家計調査の対象世帯に選定された場合
総務省統計局が行う家計調査は、統計的な手法で抽出された家庭にデータの提供を依頼して行われます。
協力した場合は謝礼もある?
家計調査に協力した人には、景品(ボールペン程度)や、協力期間などに応じて、少額の商品券といった謝礼があります。
調査の拒否は可能なのか?
基本的には強制ではないので、協力を拒否することも可能です。
まとめ
家計調査の概要を知り、調査結果を読み解くことで、消費行動を振り返ってみることも大切です。生活していくうえで支出は避けられませんが、できるだけ無駄をなくし、賢い消費者でいられるよう心掛けていきましょう。